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きっと好きじゃない
しおりを挟む私はきっと好きじゃない。こんな子供みたいな人、好きになるはずがないんだ。
「可愛いね、はじめちゃん」
「っ……」
なのに。
普段は迷子になった幼い子どものようにワタワタして、私を見つけるなり笑顔で走ってくるような人なのに。
好きだ、可愛いと告げてくる時の先輩は妙に大人びて、なんだか悔しい。
「……それ、狙ってやってるんですか」
「それ?」
「……なんでもないです」
今まで知ろうともしなかった先輩が、今じゃ分からなくて遠く感じる。寂しいなんてことないんだろうけど、とにかく遠く感じてしまうんだ。
「ふふ、はじめちゃん」
「な、なんですか」
「そんな不安そうな顔しなくても、私はどこにも行かないよ?」
……っ。
嬉しそうに、楽しそうに。そうやって笑いかけてくれる先輩は、少しだけだけど綺麗に見えた。ほんと、少しだけ。
「別にそんな心配してないです」
「そう? まぁ、それでもいいよ」
「ひなめ先輩、何が言いたいんですか」
「んー、はじめちゃんが可愛いなって」
「可愛くないです」
あぁ、ほんと変な先輩。部活も学年も、委員会だって違うのに、なんでこの人は私をこんなに好きなんだろう。
聞いても教えてくれないのは分かってるけど、今日も聞いてしまう。
「先輩、私のどこを好きになったんですか」
「んー? どうだろ」
「いい加減教えてくれてもいでしょう」
「……まだだーめ」
問い詰める私を黙らせるように、指で私の口を止めてくる仕草。この人、こんなことする人だったっけ。
「イジワルなはじめちゃんにはまだ教えてあげない」
「っ、イジワルなのは先輩でしょう」
あぁもう、ほんとにこの人はなんなんだ。
いっつも無邪気に駆け寄ってくるくせに、時々大人びた表情を見せてくる。
別になんとも思うはずないけど、変になるからやめてほしい。
「好きだよ、はじめちゃん。今はまだ、それだけ」
「……ほんと、懲りない人ですね」
「へへ、はじめちゃんは?」
「…………好きじゃないです」
「へぇ……」
好きじゃない。この人のことはまだ好きじゃない。頼むからニヤニヤしないでほしい。
私は先輩のこと、好きにならない。きっと好きにはならないはずなんだ。
だから、少しは静かにしてほしい。
慌てて心臓を抑えても、よけいにドキドキ響いて頭が痛い。なんで先輩にドキドキしてんの。
「私はずっと好きだからねー、
はじめちゃん♪」
「ひなめ先輩は片想いがお似合いですよ」
「ひどいなー」
顔は紅くなんてないとは思うけど、一応で。
先輩にからかわれてしまう前にと、マフラーで口元を隠した。
大丈夫、好きにはならない。……はずだから。
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