はじまりのえんぴつ~鉛筆を拾ったら話したかったあの子に話しかけられました~

歩くの遅いひと(のきぎ)

文字の大きさ
6 / 6

ひとりよがりなやきもち

しおりを挟む

 もっと、もっと欲しいだなんて。
 今まで見ているだけで幸せだったくせにそんなのはワガママが過ぎる。
 好きだよ衣玖ちゃん。今はまだ、それだけ。

「やっっっっちゃった‥‥」
「どうしたの甘風さん」
「いいいいや?なななななななんにも??」
「明らかに何かあるよね‥‥」

 まだ舌に残る甘い感触。熱い、熱い体温と、とろけるような瞳。
 思い出すだけでおかしくなりそう。

「言ってみてよ」
「イクチャンカワイイ」
「そんなカタコトいらないから!」

 失礼な。これでも精一杯頑張って絞り出した言葉なんですよ。
 ていうかなんで衣玖ちゃんはそんないつも通りなの。私、あんなことしちゃったのに。

「んん、見るだけでよかったのに」
「?」

 見てるだけで、遠くから応援するだけでよかった。頑張り屋なその姿を、目で追いかけるだけで私の世界は輝いた。

「なのにこんな‥‥自分勝手な」
「なに、言ってってば」
「だから、」

 あんなのただのやきもちで。
 ただ、ちょっとウソを吐かれただけで。
 ただ、ちょっと友達と話してただけなのに。

「贅沢な自分が嫌になる」
「ぜいたく?」
「衣玖ちゃんのこと、見てるだけでよかった。話したいとは思ったこともあったけど、衣玖ちゃんの目が私をに向く日なんて、想像もしてなかったんだよ」

 そんな自分が、どうしてこんなワガママを言えるんだろう。

「今は衣玖ちゃんの目が他の誰かに向けられると、苦しくなるの。ただ、話してるだけでも寂しいなんて思っちゃう」

 いつから。
 いつからこんなワガママになっちゃったの。なんでそんなこと、思っちゃうんだろう。

「衣玖ちゃんが隣にいるだけで‥‥こんなに幸せなのに」
「‥‥」
「って、何言ってるんだろ。ごめんね、忘れてよ」
「‥‥忘れない」
「はい?」

 静かに聞き返せば背中をパンっと叩かれた。

「忘れないよ、ばか」
「い、衣玖ちゃん?」
「別に、今日のはウソついた私が悪いし、甘風さんに内緒で相談したいことがあるからって不安にさせちゃったんだし別に嫌じゃなかったし」
「へ?嫌じゃなかったんだ‥‥よかった」
「そりゃちょっとは苦しかったけど、甘風さんだから許してあげる」

「はは、ありがとう‥‥て、相談って?」
「それは解決したからもういい」
「えぇ‥‥」

 私にも相談してほしかった‥‥。
 それ言っちゃったら、怒られちゃうかな。

「分かってよ。私は甘風さんが思ってる以上にあなたのことが好きなんだから」
「っ‥‥ほんと可愛い」
「からかってるの?!本気なのに!」
「私だって本気だってば」
「いーや、からかってる」
「もう、拗ねないでよ。どうしたら信じてくれる?」

 可愛いなぁなんて思いながら、少しだけ膨れた頰をつついてみる。すると真っ赤な顔をして。

「今日のキス‥‥またしてくれたら、信じてあげる」

 なんて言うからたまらない。

「い、いいの?」
「いいから言ってるの」

 これ以上言わせないでなんて、握った手に力を込めるから、この子は私をときめかせる天才だ。

「好き‥‥」
「知ってる」
「衣玖ちゃんのお望みなら、もっとすごいのしてあげる」
「えっ」

 あれよりもすごいの?なんて慌てだす衣玖ちゃんをぎゅっと抱きしめる。こんなに私をときめかせておいて、そんな反応は反則だろう。

「責任とってよ、衣玖ちゃん」
「あ‥‥う、」

 ぷしゅーなんて煙がでそう。
 私の恋人は世界一、可愛い。まちがいなく、ね。

「好き‥‥大好き、衣玖ちゃん」

 パクパクさせる唇にキスを落として囁けば、固まっちゃうからまた可愛い。


 どうやら私のやきもちは、ひとりよがりではないらしい。
 聞き逃しそうなほど小さな声で「私も」と呟く衣玖ちゃんを見て、そんなことを思ったりした。


しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

花雨
2021.08.11 花雨

お気に入り登録しときますね(^^)

2021.08.11 歩くの遅いひと(のきぎ)

コメント頂いたの初めてです!ありがとうございます✨✨お気に入り登録もありがとうございました!

解除

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。