この想いの逃しかた〜好きな子を諦めようと離れるのになぜか追いかけてくるので困ってます〜

この想いの隠しかた

白い雪が積もるのを、私は綺麗だと考える。
そんなの、日常的に見ないから言えることだけど。

「みつき、雪だよ！」
「っ……」

小さく積もった雪を手ですくいながら、無邪気に笑うしいなの姿に、思わず息を飲んだ。可愛いだなんて、絶対声にだしてやるもんか。

「みつき？」
「うん、綺麗だね」

ここでしいなが、って心の中で思っちゃうのは許してほしい。だって本当に綺麗だったんだ。

「はは、私が？」
「なっ……そ、そうじゃない！……ことも、ない」
「どっちよそれ」

ニヤニヤと笑いながら近づいてくるその顔を、よく見れない。だってそんなの、図星だから。

「近い」
「わぷっ、もう……素直じゃないなぁ」
「……」

想いを吐き出したあの日から、しいなはちょくちょくそんなことを言ってくる。無意味に距離を詰めて、そっと笑って。
一体どういうつもりだろう。ちょっと嬉しい……なんて思うけど、冷やかしならたまったもんじゃない。そんな寂しいこと、あるか。

「……なんで顔してんの」
「……なんでもない」

優しい顔で、優しい声で。私のことを甘やかすように。そんなことで期待してしまう自分が嫌になる。逃げることはやめたって、この恋をやめたわけじゃないのに。

「好きだよ、みつき」
「……ははっ」

雪が降る街の下で。
こんなの、絶好のロケーションじゃないか。

「ずるいね、しいなは」
「さぁね」

期待しちゃダメで、逃げても、隠れたってだめ。
どうやったってこの恋は散るはずなのに、簡単に捨てさせてはくれないらしい。

「完敗だよ、もう」
「……」

また恋に堕ちていく。また好きになってしまう。
ため息を吐けば、そっと手を握られた。

「しいな？」
「……ダメだよ、忘れちゃ」
「へ？」
「一回しか言わないから」
「っ……！」

突然ぐんっと手を引かれて、静かに抱きしめられた。あまりに突然すぎて、胸の高鳴りが一瞬止まった。

「好きだよみつき。いつか絶対応えるから、それまでその気持ち、忘れないでいてよ」
「しい、な……？」
「約束のキスでもしとく？」
「えっ？！あ、いや……あの、」
「早く」
「は、はい！」

「目、閉じて」

言われるがまま目を閉じれば、唇に柔らかい感触。
思わず、声が漏れた。

「……」
「ばかみつき」
「う、」
「わがままだって分かってる。でも、忘れないで……いてくれないかな」

い、いや、何言ってんの。ばかなのは、しいなの方でしょ。

「わ、忘れられるわけないでしょお……」
「真っ赤だ」
「ああああ当たり前でしょうが！！！」

なんなのもう、これほんと、どうしたらいいの。

「また好きになっちゃった……」
「……なにそれ」

責任取ってと言う私に、もう少し先でねなんて。
誰よりも綺麗な笑顔で笑ってくれた。



雪はもう、降っていなかった。