世の中、つまらないもので。

歩くの遅いひと(のきぎ)

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ためいき

世界の見方

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  葛城(かつらぎ)つらら は呟いた。

「世界はつまらない」と。


 空の青さだとか、自然の美しさだとか。 知らないものは知らないし、知る必要もない。
 どれだけ素敵なものだって、簡単に手に入ってしまえばガラクタへと姿を変えてしまう。
 誰もが羨む“才”と“美貌”、そして“富”は、彼女が手に入れてしまった。そんなもの、なくても困りはしないのに。

「大体、あたしの何がそんなに美しいのよ」
「そうですね、お嬢さまはそこまで美人じゃありません」
「でしょう?もう、事実でもないのに綺麗だねって褒められても困るのよ」
「いやいや葛城さん、怒っていいから。清水さん淡々とけっこう失礼なこと言ったから」


 雨谷(あまがや)ゆうみはツッコんだ。


 つららのメイドでありながら清水はつららに遠慮がない。そしてつららはその言葉を真正面から受け止め、時に妥協し時に流して時に感銘を受ける。 第三者から見れば怒りはしないかと気にしてしまうため、非常に胃が痛い。
 そして、2人はああ言ってはいるがつららはけっこう美人だ。愛嬌のある瞳に程よく高い鼻。整った顔立ちで学園内で1番なのは間違いない。
 ここでそんなことないと言って褒めちぎってしまってもいいのだがなかなか口が動かない。彼女を褒めてしまえばいつものあの“言葉”が飛んでくることは避けられないからだ。

「では雨谷さん、雨谷さんから見たお嬢さまはどうでしょうか?」
「う…」
「清水、ゆうみさんを困らせないで」


 清水は小さくため息をついた。


 今日も今日とてこの2人は見ていられない。世界がつまらないとばかり呟くところさえなければ悪いところがあげようもないくらいに素敵なお嬢さま、葛城つららは自分の主人でありながら、まるで友達のように接してくれる。
 頭は良いし顔は良いし性格も少し良い。そんなつららが大好きで1日も早く幸せになってほしいと願うのだが。
 主人はいま、すこし難しい相手にご執心なのだ。

「綺麗、だよ。生まれてきてくれたことに感謝したいくらい」
「ゆうみさん…!では私と友達に」
「それはないです」

 笑顔のクリティカルヒット。さすがですと言いそうになったのをこらえながら泣きそうな主人の背中をさする。
 晴れれば今日が素敵な日になるために晴れてくれたんだと太陽に感謝し、雨が降ればいつも頑張っているから少し休みなさいっていう天からのお告げだなんて雨雲に感謝する。1年の半分、いや1年すべてに感謝し幸せだと笑うポジティブの天才。
 雨谷ゆうみに我が主人は友達申請をしたいらしい。

 清水としては笑顔を振りまきながらどこか暗かった主人を照らしてくれた光のようなものだ。ゆうみにはぜひつららと友達になっていただきたい。しかし

「どうして…私はただあなたと手を繋いでデートしたり壁ドンされてドキドキしたり夜景を見ながらキスしたりしたいだけなのに……!」
「だから友達の定義がおかしいから嫌なんだってば!」

 これである。
 元々、人付き合いは嫌いではないつららであったが誰に接するにしても壁を1枚立てていた。放課後や休日に誰かと遊ぶことはあっても“友達”とは呼ばないらしい。つららにとって友達とは、壁を取り払った心を委ねられる存在、“恋人”のようなものだった。
 ゆうみの方もつららを嫌いではないはずだがデートやキスなど、求められる要望が嫌らしくいつも素晴らしい速さで断り続けている。清水はもう一度ため息をついた。

「お嬢さまは頭があまり良くいらっしゃらないので」
「そうかしら?学年一位ではまだ満足しちゃいけないのね」
「そういう意味じゃないと思うし清水さんはなんでそう遠慮がないかな…」

 はぁ。

 誰かが吐き出したため息は寒空の中へ溶けていった。
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