地獄が大変なことになりました ~地獄を掘る科学者、穴が開く地獄~

海胆の人

文字の大きさ
1 / 4

地獄、現世に見つけられる

しおりを挟む
 エネルギー問題に揺れる人類はある日一人の天才いや鬼才の科学者により唐突に解決された。本命とされた核融合ではなく、なんとその科学者はこう言った。

「灼熱地獄から熱を取り出せば永久機関の完成じゃね?」

 もちろん誰もが相手をしなかった。地獄なんてあるわけ無いだろう。よしんばあったとしてどうやって地獄に到達するのかと。かの科学者はオカルティストとして、そしてあまりにも荒唐無稽ということでアカデミックから追放された。

 しかし彼は諦めなかった。アカデミックから追放されたあとは故郷に戻り、実家の寺を継ぐことになった。彼の実家の寺はそこそこ広かったので彼はそこに「霊界エネルギー研究所」なるものを作り寺の仕事の傍ら、研究をおこなう。彼の実家は修験道にとっても重要な寺であったため多くの山伏たち、修行者たちが立ち寄りそして宿坊をともにする。

 ある日一人の山伏が彼を訪ねてきた。

「あなたが地獄から熱を取り出せばエネルギー問題を解決できると提唱された方ですか?」

「いかにも。あなたは?」

「大した者ではありません。ただの霊子を研究している山伏です」

「霊子?」

 初めて聞く霊子なる言葉に科学者は首をかしげる。

「ええ、聞いたことありませんか。魂の重さが21gだというのを」

 確か20世紀の頭にどこかの医師が死ぬ前後で重さを計測して死ぬと約21g軽くなるという報告をしていたことを思い出す。しかしそれは嘘の報告、あるいは計測ミスなどでは無いかということでアカデミズムからは排斥された研究であることを思い出す。

「なにを仰るのです。先生の研究も十分アカデミズムの範疇から外れているでしょう」

 山伏の指摘に科学者は思わず苦笑いする。

「ではその霊子があるものだと仮定しましょう。しかし次の問題はその霊子をどうやって追跡するのでしょう」

「先生、それはすでに解決しております」

 科学者は思わず驚くが、構わず山伏は蜘蛛の糸が良いという。芥川龍之介かなと思ったがとりあえずやってみることにした。どの蜘蛛がいいのかはわからないが、仏陀がいた地域の蜘蛛がいいのではないかと推測をする。

 仮説を立てたら実証する。それは科学者の本能のようなもの。思い立ったが吉日でまずインドの蜘蛛について調べ始め、どうやらアシダカグモがインド原産だということに調べ着いた。とりあえず身近な存在であるアシダカグモを捕まえてみたが、残念なことにアシダカグモは網を張らないタイプの蜘蛛だった。インドに行くまでの予算は無かったため諦めてジョロウグモを捕まえてきてその糸を使うことにした。

 こうして大量の蜘蛛の糸を得たので次は霊子にくっつける研究を始めた。幸い寺であるため葬式などでいくらでも新鮮な霊が手に入ったので霊自体の数は問題なかった。そしてついに般若経を書いた蜘蛛の糸を死人のそばに置くとくっついてどこかに飛んでいく現象が観測できるようになった。しかし大半の霊は極楽に行くからか途中で蜘蛛の糸がほどけてしまった。

 ある日、犬の供養をして欲しいという檀家が現れた。犬の霊子は観測されていなかったが一寸の虫にも五分の魂というので同じようにしたところ、今度は上手くいったようであった。そこで般若経を書いた蜘蛛の糸で被覆した細径のファイバースコープを用意し、死んだ動物の霊にくっつけて飛ばしてみた。

「お、おお!これが地獄!」

「先生!」

「山伏殿!ついにやったぞ!」

「しかしこれは畜生界のようですな」

「うむ、しかしこうして他の世界をこの目で見ることができる日が来ようとはな」

 畜生界は動物的本能の赴くままに行動する世界。ここで記載してしまうとR-18あるいはR-18Gになってしまうのでお寺などで六道輪廻図を見ていただきたい。
 こうして異世界にこの世の物質を送り込めるようになった。向こうからこちら側に出てくるモノがあるのでは無いかと思われたが、それは般若経の影響か畜生共は見えていないようだ。時折ぶつかるモノがあるものの特に気にすること無くどこかに消えていく。

 とりあえず畜生道については修験者を対象に公開することにした。勿論他言無用としたが人の口に戸は立てられぬわけである日テレビが取材にきた。テレビで放映されると世の中で大きな反響が起きたが、アカデミズムは相変わらずよくできた映画かなんかだろうということで一笑に付す。

 しかしこのおかげで懐が潤ったので研究資金に余裕が出てきた。そこで一人助手を雇うことになった。彼女は超科学雑誌の記者をしていたが、我々のことが世に明るみになってすぐに退職し、いの一番に飛んできた。少し変わった娘さんだったが優秀ではあった。

「先生!やりました!」

「どうした?」

 ある日助手が満面の笑みで飛び込んでくる。一体何事かと思い聞いてみれば近々死刑執行される。その死刑囚がたまたま拙寺の門下だということで、死刑執行後の葬式をこちらであげて欲しいとの依頼だそうだ。
 
 これは地獄界に到達するまたとないチャンスと考え急いで準備を行う。万全の準備を終え刑務所から死刑にされた者を迎え入れる。

「こやつが大量殺人の犯人か」

「まず間違いなく地獄行きでしょうな」

「ふふ、でも私たちも大概地獄行きですよね」

 科学者は思わず笑みがこぼれる。それは助手の一言に反応したのかついに研究の成果が得られると思ったのか、今となってはわからない。

 そしていつも通り葬式をあげると蜘蛛の糸がふよふよとどこかに飛んでいく。しばらくして糸が止まったのでファイバースコープを送り込むとそこに映っていたのは真っ赤に燃える板に串刺しにされている姿。

「こ、これは焦熱地獄か!」

「先生!一発目で当てるなんてめっちゃ運いいですね!」

「おお!これが地獄……」

 まさに地獄絵図。というかそのものである。これは公開は後回しにした。というのも未だに畜生界の映像を見に来る者が後を絶たず、これに地獄界の映像が加われば研究が阻害されうると判断したからだ。

 そしてその日から3人はさらに他の地獄を探すことと、地獄への熱交換器を送り込む方法について検討を開始した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

真面目な女性教師が眼鏡を掛けて誘惑してきた

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
仲良くしていた女性達が俺にだけ見せてくれた最も可愛い瞬間のほっこり実話です

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

処理中です...