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地獄、掘られる
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3人は研究を続けた。焦熱地獄の熱量は激しく、蜘蛛の糸の耐久性が不足し切れそうになる。そのたびに新しい糸をつけたファイバースコープを送り込むがこれ以上は難しそうだった。
「先生!お客様です。とってもきれいな人!」
押っ取り刀で玄関に行くとそこには私のゼミに入っていた学生……いまは社会人だろうか。
「先生お久しぶりです。近くに来ましたので寄ってみました」
観光のためこの近くに来たその足で寄ったという。彼女もまた優秀な研究者の片鱗を見せていたが卒業直前に科学者が退職に追い込まれたことで、ゼミが無くなってしまっていた。幸い彼女の卒論はすでに完成していたため問題にはならなかったが。
「先生、畜生界を見せていただくことは可能ですか?」
「勿論かまわんが、今は予約制で来年まで埋まっておる」
すっかり観光地として定着してしまったために、異世界観測の予約は来年まですでに埋まってしまっている。最近は異教徒の国からも客が来ているが、教義に反していないのか他人事ながらに心配することもある。
「しかし折角来てくれたのだ。観光時間の終わったあとで良ければ見ていってくれ」
「まあ、本当ですか!ありがとうございます!」
すっかり日の暮れて畜生界見学を終えた学生君と科学者たちが食事を一緒にする。
「ふふ、学生時代を思い出します」
「そういえば君はいい研究所に入ったのではなかったか」
「ええ、おかげさまで。でもつまんなくて辞めてきました」
「え、でもそこの増えるワカメ研究所ってなかなか行けるところじゃないんじゃなかったでしたっけ?」
「そうなんですけど、研究ノルマが厳しいのとあまり面白い研究が無いんですよね。先生の研究みたいに独創性が無いというか……そうだ!先生!ここで雇ってもらえませんか?」
科学者としても手が足りていなかったので二つ返事で了承する。形ばかりの雇用契約を結び早速研究に入ることになった。
「ふふ、私たちすっごい罰当たりな研究してますね」
学生もとい研究員の突っ込みに科学者は苦笑いする。そうだろう地獄の環境を変えてしまいかねない研究だ。信心深い者であれば反発しか無いだろう。しかしエネルギー問題や温暖化問題の解決にはこれしか無いと科学者は考え、その情熱が科学者を動かしていた。彼にとって学問がすべてであり神も仏も極楽も地獄も追求すべき対象でしか無かった。
適当な金属は思い浮かばなかったのでとりあえず針山でも使っているだろう鉄を貫通できる高度を持つ特殊鋼のドリル刃を用意した。助手は結構高かったと言っていた。替え刃もいくつか用意し、ドリルの軸には勿論般若経を書き込んだ蜘蛛の糸で作った布で被覆している。
「先生、いよいよですね」
ファイバースコープをドリルにとりつけ、ファイバースコープの代わりに送り込んだ般若経を彫り込んだガイドワイヤーに沿ってドリルを送り込む。虚空から修験で使う山にまっすぐドリルが向かう。
不思議なことに環境中の騒音は聞こえない。おそらく異次元なのだろうと結論づけ、切削を進める。切削を進めるとあるところで非常に冷たくなる。
「な、これは氷の世界……」
「これは八寒地獄でしょうか、八大地獄のすぐそばにあると言いますので、少しずれたのでしょう」
山伏の解説に科学者たちは納得する。少しずれたのは残念だが折角開けた穴なのでここに用意した熱交換器を一つ置くことにした。ここから少しずらして掘ればいずれ八大地獄に到達するだろうという憶測も立てた。
「おそらくここが八寒地獄の最浅部、頞部陀(あぶだ)地獄でしょう。この頞部陀があばたの語源になったとも言われております」
山伏がキラキラして豆知識を披露するが、誰も聞いていない。それよりも蒸し暑いこの真夏に八寒地獄の冷気が非常に心地よい。このまままっすぐ掘り下げればより寒い地獄に到達するだろうという結論になった。しかしながら想定以上に摩耗したドリルの替え刃を切らしてしまったため、急いで追加調達できしだい掘削を再開することで話がまとまった。
そのころ頞部陀地獄では得体の知れない物体が虚空を穿って突入してきたことで、てんやわんやになっていた。
「こりゃあなんじゃあ?」
「あ、閻魔様、こんな寒いところまでご足労頂きましてありがとうございます。先ほどあのよくわからぬものが貫いてきましてございます」
「あーなんだ般若経が彫られているな。もしや現世からか?」
「そんなばかな。閻魔様、現世の者がこの地獄まで物を送り込んできたなんて事例は地獄が始まって以来無かったことでございますよ」
「とはいってもな、あれをほかにどう説明する?」
「天部から送られてきたのかも……」
「天部なら蓮の池から糸を下ろすだろう。それならこんな端では無くもっとこの頞部陀地獄の中心にくるさ。はぁ、こりゃあちと現世の様子を見てみないとな」
閻魔大王は深くため息をついて現世へ降り立つ支度を始めるのであったが、地獄の時間は現世から見ると非常に長い。この地獄のなかでも最も浅い頞部陀や八熱地獄の最浅部の等活地獄でも一日が現世の500年になる。つまり科学者たちは特に干渉されること無く研究を続けることが可能である。
「先生!お客様です。とってもきれいな人!」
押っ取り刀で玄関に行くとそこには私のゼミに入っていた学生……いまは社会人だろうか。
「先生お久しぶりです。近くに来ましたので寄ってみました」
観光のためこの近くに来たその足で寄ったという。彼女もまた優秀な研究者の片鱗を見せていたが卒業直前に科学者が退職に追い込まれたことで、ゼミが無くなってしまっていた。幸い彼女の卒論はすでに完成していたため問題にはならなかったが。
「先生、畜生界を見せていただくことは可能ですか?」
「勿論かまわんが、今は予約制で来年まで埋まっておる」
すっかり観光地として定着してしまったために、異世界観測の予約は来年まですでに埋まってしまっている。最近は異教徒の国からも客が来ているが、教義に反していないのか他人事ながらに心配することもある。
「しかし折角来てくれたのだ。観光時間の終わったあとで良ければ見ていってくれ」
「まあ、本当ですか!ありがとうございます!」
すっかり日の暮れて畜生界見学を終えた学生君と科学者たちが食事を一緒にする。
「ふふ、学生時代を思い出します」
「そういえば君はいい研究所に入ったのではなかったか」
「ええ、おかげさまで。でもつまんなくて辞めてきました」
「え、でもそこの増えるワカメ研究所ってなかなか行けるところじゃないんじゃなかったでしたっけ?」
「そうなんですけど、研究ノルマが厳しいのとあまり面白い研究が無いんですよね。先生の研究みたいに独創性が無いというか……そうだ!先生!ここで雇ってもらえませんか?」
科学者としても手が足りていなかったので二つ返事で了承する。形ばかりの雇用契約を結び早速研究に入ることになった。
「ふふ、私たちすっごい罰当たりな研究してますね」
学生もとい研究員の突っ込みに科学者は苦笑いする。そうだろう地獄の環境を変えてしまいかねない研究だ。信心深い者であれば反発しか無いだろう。しかしエネルギー問題や温暖化問題の解決にはこれしか無いと科学者は考え、その情熱が科学者を動かしていた。彼にとって学問がすべてであり神も仏も極楽も地獄も追求すべき対象でしか無かった。
適当な金属は思い浮かばなかったのでとりあえず針山でも使っているだろう鉄を貫通できる高度を持つ特殊鋼のドリル刃を用意した。助手は結構高かったと言っていた。替え刃もいくつか用意し、ドリルの軸には勿論般若経を書き込んだ蜘蛛の糸で作った布で被覆している。
「先生、いよいよですね」
ファイバースコープをドリルにとりつけ、ファイバースコープの代わりに送り込んだ般若経を彫り込んだガイドワイヤーに沿ってドリルを送り込む。虚空から修験で使う山にまっすぐドリルが向かう。
不思議なことに環境中の騒音は聞こえない。おそらく異次元なのだろうと結論づけ、切削を進める。切削を進めるとあるところで非常に冷たくなる。
「な、これは氷の世界……」
「これは八寒地獄でしょうか、八大地獄のすぐそばにあると言いますので、少しずれたのでしょう」
山伏の解説に科学者たちは納得する。少しずれたのは残念だが折角開けた穴なのでここに用意した熱交換器を一つ置くことにした。ここから少しずらして掘ればいずれ八大地獄に到達するだろうという憶測も立てた。
「おそらくここが八寒地獄の最浅部、頞部陀(あぶだ)地獄でしょう。この頞部陀があばたの語源になったとも言われております」
山伏がキラキラして豆知識を披露するが、誰も聞いていない。それよりも蒸し暑いこの真夏に八寒地獄の冷気が非常に心地よい。このまままっすぐ掘り下げればより寒い地獄に到達するだろうという結論になった。しかしながら想定以上に摩耗したドリルの替え刃を切らしてしまったため、急いで追加調達できしだい掘削を再開することで話がまとまった。
そのころ頞部陀地獄では得体の知れない物体が虚空を穿って突入してきたことで、てんやわんやになっていた。
「こりゃあなんじゃあ?」
「あ、閻魔様、こんな寒いところまでご足労頂きましてありがとうございます。先ほどあのよくわからぬものが貫いてきましてございます」
「あーなんだ般若経が彫られているな。もしや現世からか?」
「そんなばかな。閻魔様、現世の者がこの地獄まで物を送り込んできたなんて事例は地獄が始まって以来無かったことでございますよ」
「とはいってもな、あれをほかにどう説明する?」
「天部から送られてきたのかも……」
「天部なら蓮の池から糸を下ろすだろう。それならこんな端では無くもっとこの頞部陀地獄の中心にくるさ。はぁ、こりゃあちと現世の様子を見てみないとな」
閻魔大王は深くため息をついて現世へ降り立つ支度を始めるのであったが、地獄の時間は現世から見ると非常に長い。この地獄のなかでも最も浅い頞部陀や八熱地獄の最浅部の等活地獄でも一日が現世の500年になる。つまり科学者たちは特に干渉されること無く研究を続けることが可能である。
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