地獄が大変なことになりました ~地獄を掘る科学者、穴が開く地獄~

海胆の人

文字の大きさ
2 / 4

地獄、掘られる

しおりを挟む
 3人は研究を続けた。焦熱地獄の熱量は激しく、蜘蛛の糸の耐久性が不足し切れそうになる。そのたびに新しい糸をつけたファイバースコープを送り込むがこれ以上は難しそうだった。

「先生!お客様です。とってもきれいな人!」

 押っ取り刀で玄関に行くとそこには私のゼミに入っていた学生……いまは社会人だろうか。

「先生お久しぶりです。近くに来ましたので寄ってみました」

 観光のためこの近くに来たその足で寄ったという。彼女もまた優秀な研究者の片鱗を見せていたが卒業直前に科学者が退職に追い込まれたことで、ゼミが無くなってしまっていた。幸い彼女の卒論はすでに完成していたため問題にはならなかったが。

「先生、畜生界を見せていただくことは可能ですか?」

「勿論かまわんが、今は予約制で来年まで埋まっておる」

 すっかり観光地として定着してしまったために、異世界観測の予約は来年まですでに埋まってしまっている。最近は異教徒の国からも客が来ているが、教義に反していないのか他人事ながらに心配することもある。

「しかし折角来てくれたのだ。観光時間の終わったあとで良ければ見ていってくれ」

「まあ、本当ですか!ありがとうございます!」

 すっかり日の暮れて畜生界見学を終えた学生君と科学者たちが食事を一緒にする。

「ふふ、学生時代を思い出します」

「そういえば君はいい研究所に入ったのではなかったか」

「ええ、おかげさまで。でもつまんなくて辞めてきました」

「え、でもそこの増えるワカメ研究所ってなかなか行けるところじゃないんじゃなかったでしたっけ?」

「そうなんですけど、研究ノルマが厳しいのとあまり面白い研究が無いんですよね。先生の研究みたいに独創性が無いというか……そうだ!先生!ここで雇ってもらえませんか?」

 科学者としても手が足りていなかったので二つ返事で了承する。形ばかりの雇用契約を結び早速研究に入ることになった。

「ふふ、私たちすっごい罰当たりな研究してますね」

 学生もとい研究員の突っ込みに科学者は苦笑いする。そうだろう地獄の環境を変えてしまいかねない研究だ。信心深い者であれば反発しか無いだろう。しかしエネルギー問題や温暖化問題の解決にはこれしか無いと科学者は考え、その情熱が科学者を動かしていた。彼にとって学問がすべてであり神も仏も極楽も地獄も追求すべき対象でしか無かった。

 適当な金属は思い浮かばなかったのでとりあえず針山でも使っているだろう鉄を貫通できる高度を持つ特殊鋼のドリル刃を用意した。助手は結構高かったと言っていた。替え刃もいくつか用意し、ドリルの軸には勿論般若経を書き込んだ蜘蛛の糸で作った布で被覆している。

「先生、いよいよですね」

 ファイバースコープをドリルにとりつけ、ファイバースコープの代わりに送り込んだ般若経を彫り込んだガイドワイヤーに沿ってドリルを送り込む。虚空から修験で使う山にまっすぐドリルが向かう。

 不思議なことに環境中の騒音は聞こえない。おそらく異次元なのだろうと結論づけ、切削を進める。切削を進めるとあるところで非常に冷たくなる。

「な、これは氷の世界……」

「これは八寒地獄でしょうか、八大地獄のすぐそばにあると言いますので、少しずれたのでしょう」

 山伏の解説に科学者たちは納得する。少しずれたのは残念だが折角開けた穴なのでここに用意した熱交換器を一つ置くことにした。ここから少しずらして掘ればいずれ八大地獄に到達するだろうという憶測も立てた。

 「おそらくここが八寒地獄の最浅部、頞部陀(あぶだ)地獄でしょう。この頞部陀があばたの語源になったとも言われております」

 山伏がキラキラして豆知識を披露するが、誰も聞いていない。それよりも蒸し暑いこの真夏に八寒地獄の冷気が非常に心地よい。このまままっすぐ掘り下げればより寒い地獄に到達するだろうという結論になった。しかしながら想定以上に摩耗したドリルの替え刃を切らしてしまったため、急いで追加調達できしだい掘削を再開することで話がまとまった。

 そのころ頞部陀地獄では得体の知れない物体が虚空を穿って突入してきたことで、てんやわんやになっていた。

「こりゃあなんじゃあ?」

「あ、閻魔様、こんな寒いところまでご足労頂きましてありがとうございます。先ほどあのよくわからぬものが貫いてきましてございます」

「あーなんだ般若経が彫られているな。もしや現世からか?」

「そんなばかな。閻魔様、現世の者がこの地獄まで物を送り込んできたなんて事例は地獄が始まって以来無かったことでございますよ」

「とはいってもな、あれをほかにどう説明する?」

「天部から送られてきたのかも……」

「天部なら蓮の池から糸を下ろすだろう。それならこんな端では無くもっとこの頞部陀地獄の中心にくるさ。はぁ、こりゃあちと現世の様子を見てみないとな」

 閻魔大王は深くため息をついて現世へ降り立つ支度を始めるのであったが、地獄の時間は現世から見ると非常に長い。この地獄のなかでも最も浅い頞部陀や八熱地獄の最浅部の等活地獄でも一日が現世の500年になる。つまり科学者たちは特に干渉されること無く研究を続けることが可能である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

真面目な女性教師が眼鏡を掛けて誘惑してきた

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
仲良くしていた女性達が俺にだけ見せてくれた最も可愛い瞬間のほっこり実話です

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...