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「はいはい。今度は誰?」
その声の弾み具合からして、また新たなカッコいいアイドルでも見つけたのだろうか。この前は、年上の俳優だったから、今回は年下あたりかな? ぼんやりそんなことを思いながら、出された週刊誌をちらりと見ると、唯は目を見開き言葉を失っていた。
そんないつもと違う唯の反応にひなは訝しむ。
「え? そんなに驚くこと?」
ひなは、唯と雑誌を交互に見る。すると、あぁ、わかった!とぽんと手を叩いた。
「私が文化人路線に移ったから驚いてるんでしょ? でもさ、宮川亮って文化人ではあるけれど、アイドルとかそういう煌びやかさがあるでしょう? 頭もよくて、カッコよくて、非の打ちどころのない彼! もう私宮川亮一筋でこれからいくわ! 一か月後に日本に帰ってくるらしいから、私空港にでも行って出待ちしちゃおうかしら」
そんなひなの弾んだ声は、唯の頭上を越えて飛んでいく。
『宮川亮、凱旋帰国! 今後は日本を拠点に活動か?』
開かれた雑誌の記事の見出しと共に、亮の見慣れていたはずの太陽のような笑顔がこれでもかというほど大きく写っていた。何だか大人っぽくなったな気がする。身体もがっちりして肩幅も広くなった。私の知らない間に、変わっていく亮。唯の胸にずきんと棘が刺さったみたいに鈍く痛む。
帰ってくることを私は、何も聞いてなかった。亮はそんな話してなかった。でも、それは当たり前かと、ふと思う。最後に連絡とったのは三か月も前の話だ。その時はまだ帰国は決まっていなかったのだろう。
「……亮。来週、帰ってくるんだ……」
忙しいことは十分わかってる。テレビ、雑誌至る所で亮の姿を見かける。亮のアメリカでの生活に密着。というわけのわからない特集まで、組まれていたくらいだ。だけど、それにしても。一報くれたっていいんじゃないの? ずっと亮が帰ってくるの待っていたのよ。たった一言でもいいから「今度帰ることになった」と知らせてくれれば、こんなにもやもやした気持ちになることもなかったのに。
……だけど、有名人になってしまった亮にそんなことを強要しようとする私はきっと間違っているんだろうな。ぼんやりとそう思っていると、ひなの声が割って入っていた。
「……亮……? 唯、何で彼の名前呼び捨て?」
ひなのその指摘に我に返った唯は、つい滑ってしまったつぶやきを弁明する。
「あぁ、えっと、ほら、有名人は下の名前でみんな呼ぶものじゃない?」
「唯、そういうの興味なかったんじゃなかったっけ?」
「……そ、そうなんだけど……ほら、私ひなに影響受けたのかも。毎日そういう話聞いてるもんだから」
「あぁ、なるほど! 唯、私の話聞いてなさそうだったけど、ちゃんと聞いてくれてたわけか!」
「そうそう!」
ひなが単純な性格が逃げ道をつくってくれて、唯はほっと胸をなでおろす。だが、またすぐに唯に胸にまた煙が充満しそうだ。だが、その後のひなの強烈な一撃がその煙たさを蹴散らしていた。
――――
「そういえば、唯って遠距離恋愛してるんだよね? 唯の彼は、高校の同級生で幼馴染みだって話くらいしか考えてみたら聞いてなかった。
ねぇねぇ、彼どんな人? 何してる人で、今どこにいるの?」
ひなはいつも突然話があちこちに飛ぶ。それはもう三年も友人をやっているのだから、重々その性格は承知しているのだが……
今まで本当に何も聞いてこなかったのに、どうしてこのタイミングでその話になるの?
薄い茶の大きな丸い目をらんらんと輝かせて尋ねてくるひなに唯はしどろもどろになる。
「え……っと。別に……私の話はどうでもよくない?」
話を逸らそうとしても、一度気になったら最後まで突き詰めるタイプのひなは、かわいらしい丸顔の頬をぷくっと膨らませ抗議の目をよこしてきた。
「なんで隠すのよ。そんなに後ろめたいような彼なわけ?」
「別に隠してないし。真っ当な人よ」
「じゃあ、今どこにいるの?」
「えーっと、九州の方の大学に通っているわ」
咄嗟についた嘘に、唯の背筋に冷汗が流れ落ちる。それは、不快なざわめきとなって胸の奥に染み込んでくるようだった。
どうして私は嘘つかなきゃならないんだろう。別に後ろめたいことをしているわけじゃない。ただ普通に健全に付き合っているだけなのに。けれど、亮が踏み入れた世界は、映画界で芸能人と変わらない人気商売。人と人のつながりは重要で、世間のイメージは重要な部分だ。それを壊すわけにはいかないことは重々承知している。
「へぇ。じゃあ、名前は?」
「……何で名前まで出さなきゃいけないのよ」
「別にいいじゃない。名前くらい。指名手配されてるわけじゃあるまいし。名前なんか聞いたって、わかるはずもないんだから」
「……りょうすけ、よ」
そう答えながら、亮の恋人ではあるけれど決して公にしてはいけない関係になったのだと、この時唯は初めて気付いた。
だとしたら、絶対に崩れない頑丈な嘘で塗り固めなければならない。そんな決意のようなものが生まれ、唯の口は滑らかに動いていた。
「本当のこと言うと、ね。さっき宮川亮のを呼び捨てにしたのは、私の彼もリョウって呼んでいるものだから、つい呼び捨てになっちゃったのよ。あと、遠距離でなかなか会えなくて。親近感がわいたというか……ついポロっと……ね」
雑誌に目を落とし満面の笑顔の亮を見ながらそういう唯。唯の隠しきるれなかった微かな憂いに勘づいたのか。ひなは、顔を曇らせていた。
「何? 最近うまくいってないの?」
唯の心臓がうさぎのように飛び上がる。
時々異様なほど人の気持ちを読み取るのが鋭い時がある。ひなの方が自分のことをよくわかっているように思えて、唯は苦笑していた。
「最後に連絡とったのは三か月前。彼のめり込むと周りが見えなくなっていく性格だから、忙しいし仕方ないとは思ってたんだけど。そっか、それはうまくいっていないっていう状態なのか」
やけに納得した口調の唯に、ひなの丸い顔のど真ん中に深い皺が寄っていた。
明るい茶色いショートヘアに丸い顔に濃いめのチークを入れていて、一見人の気持ちよりも自分中心に世界が回っているような雰囲気を醸し出しているのだが、実際は正反対だ。共感力が高いのか、人の悩みを自分のことのように感じて思い悩んでしまうところがある。
ひなに自分の陰鬱な気持ちを分けてしまったような気がして、慌てて笑おうとしたらひなは突然言ってきた。
「ねぇ、新しい彼でも作るって気持ちはないの?」
そんなこと一度も考えたことがなかった唯は、「えっ?」と短く叫んでいた。
「そんなに驚くこと? そういう時って、普通考えるんじゃない?」
「考えたことない」
唯は即答すると、ひなは目をむいていた。
「考えたことがないっていう方が不思議。そんなに、彼がいいの?」
「そりゃあ、ずっと一緒にいたわけだし。……あいつへの思いは遠距離になっても、ずっと変わってないから」
うわぁ、唯に惚気られた! とひなが嘆いているのを聞いて、唯の顔まで真っ赤になっていく。
「まぁ、唯が一途だってことはよーくわかってますよ。唯のバイト先での怒涛の愛の告白攻撃を受けても唯の心は揺るぎないんだものね」
バイトを始めてから、告白めいた言葉を貰ったことは幾度かある。その度に付き合っている人がいる。好きな人がいるからと、断ってきた。だが、先日のバイト先での映画館社員である四つ年上の大阪と売店担当の学生で同い年のアルバイト山形はなかなか引き下がって貰えず、ひなに相談したのは記憶に新しい。
「まぁ、ともかくさ。何かあったら相談に乗るから、遠慮なく言いなさいよ。なんなら、その彼に会わせてくれてもいいわよ。これ以上唯を寂しがらせるなって、私がガツンと言ってあげるから」
「うん、ありがとう」
にこりと笑うひなに、唯は感謝を告げるとようやく教授が現れた。
「それにしても、唯をそんなに虜にする男。りょうすけって人。見てみたいわぁ」
授業の始まる直前のそんなひなの呟きがやけに唯の耳にこびり付き離れなかった。
……りょうすけって、誰なんだろう。
その声の弾み具合からして、また新たなカッコいいアイドルでも見つけたのだろうか。この前は、年上の俳優だったから、今回は年下あたりかな? ぼんやりそんなことを思いながら、出された週刊誌をちらりと見ると、唯は目を見開き言葉を失っていた。
そんないつもと違う唯の反応にひなは訝しむ。
「え? そんなに驚くこと?」
ひなは、唯と雑誌を交互に見る。すると、あぁ、わかった!とぽんと手を叩いた。
「私が文化人路線に移ったから驚いてるんでしょ? でもさ、宮川亮って文化人ではあるけれど、アイドルとかそういう煌びやかさがあるでしょう? 頭もよくて、カッコよくて、非の打ちどころのない彼! もう私宮川亮一筋でこれからいくわ! 一か月後に日本に帰ってくるらしいから、私空港にでも行って出待ちしちゃおうかしら」
そんなひなの弾んだ声は、唯の頭上を越えて飛んでいく。
『宮川亮、凱旋帰国! 今後は日本を拠点に活動か?』
開かれた雑誌の記事の見出しと共に、亮の見慣れていたはずの太陽のような笑顔がこれでもかというほど大きく写っていた。何だか大人っぽくなったな気がする。身体もがっちりして肩幅も広くなった。私の知らない間に、変わっていく亮。唯の胸にずきんと棘が刺さったみたいに鈍く痛む。
帰ってくることを私は、何も聞いてなかった。亮はそんな話してなかった。でも、それは当たり前かと、ふと思う。最後に連絡とったのは三か月も前の話だ。その時はまだ帰国は決まっていなかったのだろう。
「……亮。来週、帰ってくるんだ……」
忙しいことは十分わかってる。テレビ、雑誌至る所で亮の姿を見かける。亮のアメリカでの生活に密着。というわけのわからない特集まで、組まれていたくらいだ。だけど、それにしても。一報くれたっていいんじゃないの? ずっと亮が帰ってくるの待っていたのよ。たった一言でもいいから「今度帰ることになった」と知らせてくれれば、こんなにもやもやした気持ちになることもなかったのに。
……だけど、有名人になってしまった亮にそんなことを強要しようとする私はきっと間違っているんだろうな。ぼんやりとそう思っていると、ひなの声が割って入っていた。
「……亮……? 唯、何で彼の名前呼び捨て?」
ひなのその指摘に我に返った唯は、つい滑ってしまったつぶやきを弁明する。
「あぁ、えっと、ほら、有名人は下の名前でみんな呼ぶものじゃない?」
「唯、そういうの興味なかったんじゃなかったっけ?」
「……そ、そうなんだけど……ほら、私ひなに影響受けたのかも。毎日そういう話聞いてるもんだから」
「あぁ、なるほど! 唯、私の話聞いてなさそうだったけど、ちゃんと聞いてくれてたわけか!」
「そうそう!」
ひなが単純な性格が逃げ道をつくってくれて、唯はほっと胸をなでおろす。だが、またすぐに唯に胸にまた煙が充満しそうだ。だが、その後のひなの強烈な一撃がその煙たさを蹴散らしていた。
――――
「そういえば、唯って遠距離恋愛してるんだよね? 唯の彼は、高校の同級生で幼馴染みだって話くらいしか考えてみたら聞いてなかった。
ねぇねぇ、彼どんな人? 何してる人で、今どこにいるの?」
ひなはいつも突然話があちこちに飛ぶ。それはもう三年も友人をやっているのだから、重々その性格は承知しているのだが……
今まで本当に何も聞いてこなかったのに、どうしてこのタイミングでその話になるの?
薄い茶の大きな丸い目をらんらんと輝かせて尋ねてくるひなに唯はしどろもどろになる。
「え……っと。別に……私の話はどうでもよくない?」
話を逸らそうとしても、一度気になったら最後まで突き詰めるタイプのひなは、かわいらしい丸顔の頬をぷくっと膨らませ抗議の目をよこしてきた。
「なんで隠すのよ。そんなに後ろめたいような彼なわけ?」
「別に隠してないし。真っ当な人よ」
「じゃあ、今どこにいるの?」
「えーっと、九州の方の大学に通っているわ」
咄嗟についた嘘に、唯の背筋に冷汗が流れ落ちる。それは、不快なざわめきとなって胸の奥に染み込んでくるようだった。
どうして私は嘘つかなきゃならないんだろう。別に後ろめたいことをしているわけじゃない。ただ普通に健全に付き合っているだけなのに。けれど、亮が踏み入れた世界は、映画界で芸能人と変わらない人気商売。人と人のつながりは重要で、世間のイメージは重要な部分だ。それを壊すわけにはいかないことは重々承知している。
「へぇ。じゃあ、名前は?」
「……何で名前まで出さなきゃいけないのよ」
「別にいいじゃない。名前くらい。指名手配されてるわけじゃあるまいし。名前なんか聞いたって、わかるはずもないんだから」
「……りょうすけ、よ」
そう答えながら、亮の恋人ではあるけれど決して公にしてはいけない関係になったのだと、この時唯は初めて気付いた。
だとしたら、絶対に崩れない頑丈な嘘で塗り固めなければならない。そんな決意のようなものが生まれ、唯の口は滑らかに動いていた。
「本当のこと言うと、ね。さっき宮川亮のを呼び捨てにしたのは、私の彼もリョウって呼んでいるものだから、つい呼び捨てになっちゃったのよ。あと、遠距離でなかなか会えなくて。親近感がわいたというか……ついポロっと……ね」
雑誌に目を落とし満面の笑顔の亮を見ながらそういう唯。唯の隠しきるれなかった微かな憂いに勘づいたのか。ひなは、顔を曇らせていた。
「何? 最近うまくいってないの?」
唯の心臓がうさぎのように飛び上がる。
時々異様なほど人の気持ちを読み取るのが鋭い時がある。ひなの方が自分のことをよくわかっているように思えて、唯は苦笑していた。
「最後に連絡とったのは三か月前。彼のめり込むと周りが見えなくなっていく性格だから、忙しいし仕方ないとは思ってたんだけど。そっか、それはうまくいっていないっていう状態なのか」
やけに納得した口調の唯に、ひなの丸い顔のど真ん中に深い皺が寄っていた。
明るい茶色いショートヘアに丸い顔に濃いめのチークを入れていて、一見人の気持ちよりも自分中心に世界が回っているような雰囲気を醸し出しているのだが、実際は正反対だ。共感力が高いのか、人の悩みを自分のことのように感じて思い悩んでしまうところがある。
ひなに自分の陰鬱な気持ちを分けてしまったような気がして、慌てて笑おうとしたらひなは突然言ってきた。
「ねぇ、新しい彼でも作るって気持ちはないの?」
そんなこと一度も考えたことがなかった唯は、「えっ?」と短く叫んでいた。
「そんなに驚くこと? そういう時って、普通考えるんじゃない?」
「考えたことない」
唯は即答すると、ひなは目をむいていた。
「考えたことがないっていう方が不思議。そんなに、彼がいいの?」
「そりゃあ、ずっと一緒にいたわけだし。……あいつへの思いは遠距離になっても、ずっと変わってないから」
うわぁ、唯に惚気られた! とひなが嘆いているのを聞いて、唯の顔まで真っ赤になっていく。
「まぁ、唯が一途だってことはよーくわかってますよ。唯のバイト先での怒涛の愛の告白攻撃を受けても唯の心は揺るぎないんだものね」
バイトを始めてから、告白めいた言葉を貰ったことは幾度かある。その度に付き合っている人がいる。好きな人がいるからと、断ってきた。だが、先日のバイト先での映画館社員である四つ年上の大阪と売店担当の学生で同い年のアルバイト山形はなかなか引き下がって貰えず、ひなに相談したのは記憶に新しい。
「まぁ、ともかくさ。何かあったら相談に乗るから、遠慮なく言いなさいよ。なんなら、その彼に会わせてくれてもいいわよ。これ以上唯を寂しがらせるなって、私がガツンと言ってあげるから」
「うん、ありがとう」
にこりと笑うひなに、唯は感謝を告げるとようやく教授が現れた。
「それにしても、唯をそんなに虜にする男。りょうすけって人。見てみたいわぁ」
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