背中越しの恋

雨宮 瑞樹

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部活後

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初めての合同試合の初戦、亮が早々に選出され、白熱した試合となった。
が、亮の粘り強い試合運びで何とか勝利を収めることができたが、終わったのは、もう20時近くだった。


「お前スゲーな。」
「亮、お疲れ。」
「さすがだな。」
そんな部員が亮に労いの言葉をあいさつ代わりとしてと、次々と帰宅の途へついて行った。
珍しく、部長も亮に
「よくやった。」
と珍しくお褒めの言葉をいただいた。
その部長は、例のお目当ての女子を見つけ早々に一緒に引き上げていった。
一方の副部長は、普段なら必ず何かしら声をかけてくれるのだが、今日は目も合わせず無言で部室を出て行った。


そして、部室に残されたのは、いつものように秋田と亮の二人だった。
他の部員が退出あとで、お互いのロッカー前で着替え始める。
「お前、副部長様にもなんかやったのか?
だいぶお前を見る顔が怖かったぞ?」
秋田が言う通り、長野副部長の顔に静かな怒りのようなものを含んでいたことに亮も気づいていた。
「何もやってねぇよ。
昨日は、普通だったし、今日は話してないし。
不機嫌にさせる要素は、何も思いつかない。」
「お前、鈍感だからな。
まぁ。部長は単細胞だから大したことないだろうが、副部長みたいな真面目なインテリ派だから怒らせたら大変だぞ。
気を付けた方がいいぜ。
本当にお前は男の敵を作るタイプだよな。」
秋田はあきれ顔を作りながら、着替え終えると荷物の整理を始めた。

亮も同じように着替えをバッグに詰め込みながら、ポツリとつぶやいた。
「この合同試合だか練習っていつまで続くんだろうな。」
「部長曰く、しばらく続けるらしいぜ。
なんだよ。浮かない顔して。
何か?もう面倒くせえとか思ってんだろ。あの女子の大群が。」
「…まぁ。純粋に試合だけならいいんだが…勘弁してほしいぜ。」
亮はため息をついた。
我が校を応援するために来た山川高校の女子たちは、自分たちの選手ではなく亮の応援団となっていたのだ。
山川高校の女子プラスいつもいる亮のファンたち、合わせて40人ほどに膨れ上がっていた。
試合中、亮がポイントを取れば、割れんばかりの黄色い声が響き。
ポイントを失えば、大きなため息と耳が痛いくらいの声援が木霊した。
だが、彼女たちの叫び声がする度に、部長をはじめ他の部員も煩わしいという顔を亮に向けてくるのだ。
これから毎日こういうことが続くのかと思うとげんなりしてくる。
テニスはあくまで趣味というカテゴリーで、純粋に楽しくできればいいと思っている。
それ以上でもそれ以下でもない。
なのに、テニスと関係ないところでの問題が次々と発生している現実を考えると、そろそろ辞め時なのかもしれないと頭をかすめる。
秋田は相変わらずむさくるしい爆発毛髪を揺らしながら
「ったく、つくづく贅沢な奴だぜ。」
飽きられたような顔を浮かべた。
それを無視して、亮は部室を出てドアを閉めた。



「宮川君。お疲れ様。」
どこかで聞いたような高い声が亮を呼び止めた。
驚いて声のする方向に顔を向けると部室のドアの真横に長い髪がふわりと揺らして、丸い目が逃すまいと亮の姿を捉えていた。
今日は、早く帰りたいんだけど。という正直な思いと、さすがにこのまま無視して立ち去るのも大人げないと、大人な自分のせめぎ合いの中、亮は三咲に気づかれないように小さくため息をついた。
「えっと。ファミレスで会った…福島さん…だっけ。」
「うわあ!覚えていてくれたのね!うれしい!」
三咲は顔を上気させてぴょこんと飛び跳ねた。
「この前、ファミレスでの出会いからの今日の合同練習でしょう?
もう、これは運命としか思えなくて!
この話聞いたときは、本当にびっくりして頭が真っ白になっちゃったわ!」
「まあ、そうだね。」
とりあえず、亮は相槌を打つ。
面倒だというときについ出る相槌。
唯にもそれ、やめなさいよと言われている悪い癖だ。
これまで、無意識にやっていたことだから、なかなか改善できずにいる。
「やっぱり、宮川君もそう思う!?やっぱり運命よね!」
「いや…そういうことじゃなくて…。
学校すぐそこだし、そういうこともあるかな…と。」
圧倒されている亮を無視して、三咲は相変わらず大きな目を輝かせて、熱い視線を亮に向けている。
あぁ早く、逃れたい。
逃れる方法をひたすら脳内に巡らせる。
「宮川君の家って、あのファミレスの近くなんでしょう?」
え?亮は、小さく叫んで、目をむいた。
すると、うふふと三咲は笑って驚いた顔も素敵だと、呟いていた。
「宮川君は有名人だから、私だけじゃなくてみんな知ってるのよ。
あぁ。私もすぐ近くに自宅があればよかったのにな~。
私電車通いだから、帰り道真逆なのよね。本当に残念だわ。
でも…今はもう夕方だし、駅まで送ってくれると嬉しいな。
高校の近くって変質者が多いのよ。私も怖くって。」
三咲はそういって、上目遣いで亮を見つめた。
亮は、今度は三咲の耳に届くほど大きく深くため息をついた。
ここから、駅まで歩いて5分もかからないだろ。走って帰れば問題ない。
と喉まで出かかった言葉を無理やり飲み込んだ。
ちらりと三咲を見れば益々熱が込められた目とぶつかった。
目を泳がせながら。この状況をどう切り抜けるか思案すれば、パッと光が灯った。
いい奴がいるじゃないか!亮は思わずニヤリと笑った。
それを見た、三咲は自分に向けられた笑顔だと思ったらしく、満面の笑みを浮かべて
「送ってくれるのね!ありがとう!」
ぴょんぴょん跳ねた。

亮は、それを横目に部室のドアを勢いよくパッと開けた。
三咲の満面の笑みを浮かべながら
「あら、宮川くん忘れ物?」
と、明るい声が飛んできた。
亮は、それを聞き流して部室にいる人物を見つけてニヤニヤ笑った。
いつものように秋田が飛び出さんばかりに大きく目を開け、胸に手を当てている姿。
「お前!!いい加減に…!!」
と、いつもの怒りの声を上げようとした秋田が口をパクパクさせて三咲に向かって指さしていた。

亮は、そんな秋田の腕をつかみ無理やり部室から引き出して、秋田の肩に手を置いた。
「こいつ、同じ二年の秋田っていうんだ。この前の県大会でもなかなかの成績を残してるんだ。
なかなかの人気者なんだぜ。」
そういって、亮は呆気にとられている秋田の背中押して三咲の前にドンと突き出した。
三咲は近距離になった秋田に後ずさりながら、今度はふーんと不機嫌そうに秋田を上から下まで、視線を走らせた。
気を取り直した秋田は
「亮の紹介にあずかりました、秋田と申します。」
恭しく一礼し、キメ顔を作って目が笑っていない笑顔を作る。
「お前もさ、電車通いだよな?」
秋田の俺は自転車通いだという目の訴えを亮は無視して、そうだよな?と亮は目で圧をかける。
「あ…、ああ。」
「じゃあ、福島さんと一緒だな。あとは、よろしく!」
亮は、再度秋田の肩をポンポン叩いて
「じゃまたな。」
と二人に手を上げると、三咲は小さく「え?」という声をあげた。
亮は踵を返す。
「ちょ、ちょっと!宮川君!!」
そんな声が聞こえた気がしたが、亮は振り向くことなく、その場を走り去った。



残された秋田と三咲。
三咲は、大きくため息をついて、とんでもなく不満そうな顔を惜しげもなく見せる。
秋田は、そんな三咲に嬉しそうに眺めながら、一緒に帰ろうぜと促す。
夢にまで見た、美咲ちゃんが俺の横にいる現実に秋田の心は躍っていた。
三咲は返事もせず、歩き出すと、そのあとを秋田は追って横に並んで歩いた。
「やっぱり、君は気が強いね~。
県大会で見かけた時から、そうかなぁと思ったけど予想通りだったよ!」
「ありがとう。それはお褒めの言葉だと受け取るわ。
私そういわれると、いろいろとやる気が出てくる質なのよ。」
亮が消えた方向に顔をやりながら、三咲は不敵な笑みを浮かべた。
秋田は、本当に君はおもしろい子だねと声をあげて笑った。
空はすっかりと暗くなり、日は暮れ始めて、星が瞬き始めていた。
今日は、三日月かなんて、秋田は柄にもなくそんなことを考えていると、三咲の刺々しい声が飛んできた。
「ねぇ。宮川君ってどんな人?」
「どうしようもない奴だってことは確かだな。」
「どういうこと?」
「真正面からぶつかることができないただ腑抜けだってことさ。」
秋田の言葉に三咲の目は鋭くなり、口をはさんだ。
「それって、またあの幼馴染のこといってる?」
「唯ちゃんのことか?」
二人は横断歩道に差し掛かり足を止めると、三咲の目が赤く灯った。
「本当に、あの子って何なのかしら?
私よくわからないのよ。
なんで、あんな子が宮川君といつも一緒にいるのか。」
三咲の瞳が赤黒く変化していく。
秋田は、そんな彼女の横顔を見ると頭の隅で、三咲を明るい場所へと引き出してやれという声が聞こえた気がした。
それができるのは、自分しかいない。
「そう見えるのは、君が亮のことが好きだからだろう?
自分の恋敵だから唯ちゃんがそうやって見えるのさ。
あの二人にしかわからないことはたくさんあるんだよ。
亮と唯ちゃんはずっと一緒だからね。
積み重ねてきたものは、簡単には崩れないさ。
でも、君は壊したいと思ってる…?」
「ええ。そうよ。壊したくて仕方がない。
だって、あんなに素敵な宮川君のとなりにあの子って、おかしいじゃない。」
信号が青に変わると、再び歩き始める。
三咲の双眸の色は変わることはなかった。
秋田は深く息をついた。

「君は、ぶつかる相手を間違えているよ。
正面切ってぶつかる相手は、唯ちゃんではなく、宮川だよ。」
鋭く、怒りに満ちた形相に変わっていく三咲に気づきながら、秋田は続ける。
「人は、正面から手に入れられないと周りから攻めようとか、他のもので憂さ晴らししたり、満たされようとする。
それは、人間の本能だと思う。
でも、その衝動を抑えることも時には必要なんだ。
だって、誰かにその不満をぶつけたところで、結局変わらない。
むしろ、自分が傷つくだけさ。そうは思わないかい?」
秋田は真っ直ぐ前を見据えながら、あくまでも穏やかにストレートに語る。
「そうやって、みんな私を責めるの。
お前が悪い。ヒステリックだって。」
そういって、三咲は唇をかみ、ゴソゴソと鞄を探り定期券を取り出した。
「責めているわけじゃない。
だって、僕は、そういう真正直で包み隠さないその性格が好きだからさ。」
真っすぐな言葉に、三咲の赤黒い目がほんの少し柔らかくなったような気がしたのは自惚れか、と秋田は自嘲気味に笑った。
三咲は視線だけ秋田に向け、無表情で
「どうも。でも、あなたウザいわ。」
素っ気なくそういって、三咲は改札に定期をかざすと電子音と共にゲートが開いた。
秋田が改札内に入ってこないことに気づくと、三咲は後ろを振り返る。と、秋田の笑顔が目に入った。
「はは。そりゃあ嬉しいな。それが俺のチャーミングポイントでもあるからね。
それは、好きに変わる前兆だと思っておくよ。」
三咲は、馬鹿じゃないのといって、電車ホームへと向かっていった。
消えていく後ろ姿を見送ると秋田は、来た道を戻る。
ブツブツ呟きながら、ゆっくりと悪態をつきながら。
亮の奴。
押し付けやがったな。
お陰で、自転車を取りに一度学校へ戻らなければならない。
ま、お陰で三咲とお近づきになれたわけだから、よしとするか。

「それにしても、腹減ったなぁ~」
呟きながら空を見上げれば、満月が空高く光っていた。
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