最弱伝説俺

京香

文字の大きさ
上 下
28 / 57
第二章 噂が広まるのは早いもので

16

しおりを挟む
「じゃあね!」
「じゃじゃ、じゃあ」
「うは、何それおもしろい! おやすみ」
「う、うん。おや、すみ」

 部屋に帰って二人でごろごろしながらテレビを観る。時間が二十一時を差したところで、それぞれの自室へ戻った。
 山田はまだ寝ないかもしれないが、早寝早起きの葵はいつも二十一時台には寝ている。ちなみに五時起きだ。

 今日は、夕方寝てしまったため寝られるか分からないが、体だけでもベッドに横たえておくつもりである。これも実家の決まりで、早朝から稽古が始まるため、五時に起きねば間に合わない所為で身についてしまった。

「はあ……いろいろあったな」

 暗い中天井を見つめていると、濃過ぎる初日が次々に思い起こされる。
 西谷から始まり、不良だと勘違いされたり、友人が出来たり……明日からも騒ぎは収まりそうになく、弱い自分がどこまで耐えられるか不安でしかない。

「陣君たちがいればいいのに」

 と、思ったところで考えが行き留まる。
 だから、陣たちは自分にこのような試練を与えたのだ。弱い弱いと言いながら、強い兄たちの後ろに隠れる弟の将来を案じたのだろう。

 卒業するまでに少しでも期待に応えないと、捨てられてしまうかもしれない。兄弟なのだからそんなことはあり得ないが、兄三人とあまりに違う自分を見てそう思ってしまう。

「俺もムキムキになりたい! ムキムキ……ぐぅ」

 絶対眠くならないだろうと思っていたのに、ものの十分で寝付いてしまった。








「うぅん……お腹減った」

 翌朝五時、目覚ましも無く目覚めた葵が部屋を出る。しかし、起きたと言っても体が起きただけで頭は眠っていた。つまり、寝ぼけている状態だ。ここが実家ではないことにも気付かないまま廊下を歩く。

「朝ごはん何だろ……魚かな」

 よろよろ、覚束ない足取りで進んでいくと人の影が見えた。料理長だと思い込んだ葵は、真っ直ぐその人物へと向かっていく。

「こんなところで、どうしたんですか」
「……は?」
「皆、待ってますよ(朝ごはんを)」
「何言ってんだ、てめぇ。またあいつと間違えて」
「俺、貴方がどれだけ毎日頑張ってるか知ってます。だから、待ってます(朝ごはんを)」

 廊下にいないで早く料理を持ってきてほしい一心で相手に話しかける。当然、料理長でも何でもない相手は突如現れた葵に面を食らうが、寝ぼけた葵は満足して去ってしまう。
 それを呆然と眺める男は、昨日の夜初体面を果たした広田(兄か弟)だった。

「なん……で、俺を待つなんて言うんだ……?」
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

臆病なオレと不良な君達の日々

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:30

不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う

BL / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:130

2人

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:4

振り向けば

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:20

襲ってください不良様!!

BL / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:64

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:63,226pt お気に入り:2,362

処理中です...