最弱伝説俺

京香

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第二章 噂が広まるのは早いもので

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 黙々と授業内容をひたすら板書することで、少しでも気を紛らすこと数時間。あっという間に昼休みがやってきた。

「兄貴ィ、屋上行きやせんか」
「屋上?」
「ちょいとヤニを……」
「遠慮しとく」

 危ない単語が飛び出して、慌てて山上の科白を遮って断る。これ以上友人のいなくなることに巻き込まないでほしい。

――ていうか、学校で煙草吸うなんて悪すぎる! 筋肉付ける成長期には最悪だってお父さんが言ってたし、先生に見つかったら部活禁止に! ……山上君は部活やってないか。

 考えの根本が中学から抜けきっておらず、明後日な心配をしてしまう。
 道場は厳しく、未成年は当たり前であるが、成人にも禁煙を命じていた。父曰く、「百害あって一利なし」だそうだ。
 そんな環境で育った葵は、煙草に近づいたこともなく吸いたいと思ったこともない。

「……食堂、は人が多くて虚しいからパンでも買って庭で食べるか」

 さすがに、昼休みの混雑する食堂で一人食事をすることは「ぼっち」を主張しているようなもので、それすら勇気が出ない葵は人気の無い場所で食べる方を選択した。




 購買に着くとすでに人だかりが出来ていて、後ろからメニューを覗き見る。こうしている間にも次々にパンや弁当が売れていき、早く決断しないと売り切れる勢いだ。

「どれにしよう」

 呟いたことがまずかったのか、ふいに振り向いた前の生徒が小さく悲鳴を上げる。それをきっかけに一斉に開いていく人込み。数秒後には葵からレジまで一直線に道が出来上がった。

「どどどど、どうぞ!」
「おい話しかけんなよ、殺されるぞ」
「あは、はは……どうも」

 もう誤解を解く気力も残っておらず、乾いた笑いで会釈だけしてレジへ向かう。

「えと、じゃあコロッケパンとサンドイッチください」
「あいよー、お兄ちゃんすごい人なんだねぇ! これおばちゃんからのおまけね!」
「あ、すみません」

 レジのおばちゃんに「何やらすごい人」と勘違いされ、カフェオレをおまけされおずおず受け取る。申し訳ないが、もらえるのなら有り難くもらっておく。

――部活で有名とか思われたのかな? うおおお、とんだ勘違いだよ! でももらっとこ。

 精算を済ませくるりと振り返れば、未だに道が出来ていて気まずいまま来た道を戻る。葵が人ごみを離れた瞬間ほっとした空気が流れ、一気にざわつきが戻ったことに涙した。

――俺が、俺が何したって言うんだぁぁぁあああ!

 瞳を濡らしながら全力疾走する。もう少しで中庭に辿り着くところで、物陰から人が飛び出してきた。

「うおッ」

 寸でで避けて顔を確認する。まさかの人物に驚愕した。

「え! あれ!?」
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