記憶喪失のふりをしたら後輩が恋人を名乗り出た

キトー

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3.もうすでに取り返しがつかない

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 数週間入院して、頭部のCTも撮って、主治医の許可も下り秋は退院した。
 たいした荷物もないのに迎えに来た夏と共に病院を出る。

「わざわざ悪いな」

「いえ、これぐらい彼氏として当然です」

「そ、そうか……」

 結局、秋は記憶喪失が嘘だったと夏に言えずじまいだった。
 すきあらば恋人のように振る舞ってくる夏に秋は戸惑い、戸惑いを見せる秋に夏はその都度手を握って『大丈夫』『何も心配いらない』『全て自分に任せて欲しい』と力説するのだ。
 そんな事をされては記憶が戻ってるなど今更言えるはずも無い。

「あらあら、夏くんも来てくれてたのね」

「お久しぶりですお義母様」

 車での送迎を頼んでいた秋の母親は、秋と共に出てきた夏に気づきにこやかに話しかける。
 夏の“お義母様”の言葉にやや引っかかりながらも秋は二人のやり取りを見守っていたが、夏の続く言葉に絶句する事となった。

「夏くんお見舞いもしてくれてたんでしょ? 悪いわねぇ」

「秋さんの恋人として当然の事ですので」

「ちょっ、おまっ……!」

 実の母への突然のカミングアウトに啞然としながら夏と母を交互に見る挙動不審な秋を夏は荷物を持っていない手で引き寄せ、自然な仕草で肩を抱く。

「あ、あんた達っ……」

「いや、あの、これは……っ」

「やっぱりそうだったのね……」

「やっぱりって何だよ!?」

 何故か一人で納得している母親に秋は納得出来ない。
 なぜだ、自分の息子が男と恋人同士になっている事をなぜこうも簡単に受け入れているんだ、とまじまじ見るが、どこか嬉しそうにしている母に秋はやはり口を挟めない。

「ところで事故の前には同棲の話も出ていたのですがお義母様も同意していただけますか?」

「あらー、それなら安心だわ。秋、あまり夏くんに迷惑かけないのよ?」

「……へ?」

 車に向かいながら和気あいあいと話す二人の後を呆然と見ていた秋は、自分をそっちのけで物騒な話が進んでいる事に気づきまたもや慌てる。

「いや待って夏、同棲? 俺初耳なんだけど」

「当然です。秋さんは記憶喪失なんですから。それに頭を強く打ったと聞いています。数ヶ月後に後遺症が出る可能性もありますから一人は危険です」

「そうよ。もし倒れても一人だったら誰も助けてくれないのよ。ここは夏くんに甘えときなさい」

 しかし夏からは記憶喪失で押し切られるし、母からはあっさり恋人である事を受け入れられた上に決定事項だと言わんばかりに言い切られて、やはり秋の意見を告げる暇は無い。
 ここはもう、今からでも記憶喪失は治っている事を告げなければ取り返しがつかない事になってしまう。
 そう思い夏が荷物を積み込んでいる間に母へ告げようと決意するが、先に口を開いたの母親だった。

「ところでアンタ、けっこう前に貸したお金覚えてる? 早く返しなさいよね」

「ごめんまだ記憶喪失で覚えてないんだわ」

 秋はもう少し記憶喪失でいる事を決意しなおした。
 
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