記憶喪失のふりをしたら後輩が恋人を名乗り出た

キトー

文字の大きさ
16 / 22

16.人質

しおりを挟む
 
「おい、どう言う意味だ」

「だ、だから……っ、僕はこれを渡せって言われただけで詳しくは知らないですっ……!」

 気の弱そうな眼鏡男が怯えた様子で夏に紙を渡して告げる。
 夏は、受け取った紙に再度目を通した。

『恋人返してほしかったら今から書く場所に来い』

 汚い字で書かれた紙を握りつぶす。
 指定された場所は夏が秋を幾度となく送り届けたバイト先の近くだ。
 やはり今日も付いていけば良かったと夏は後悔した。

 一度喧嘩に負けた事がよっぽど悔しかったのか、龍也はしつこく絡むようになった。
 しかし、相手にしてやる義理もないのでとり合わないでいたら、まさか大切な秋にまで手を出すとは……いや、大切だからこそ手を出されたのだろう。
 夏は歯ぎしりをしてタクシーを拾う。
 貴様らが秋さんに関わるなど百年早い。
 そう思っても、自分のせいで恋人を巻き込んでしまったのだと考えると、ひどく胸が痛んだ。

「秋さん……」

 恋人。自分が一方的に押し付けた関係。
 感情をあまり表に出さない秋だが、自分が言い出した関係を受け入れてくれたように見えた。
 しかし、本音はどう思っているのだろう。
 己の勝手な思いで巻き込んでしまった今、秋はどう感じただろうか。

 あの男たちは馬鹿だ。おまけに短気でもある。
 秋の飄々とした態度に逆上しかねない。
 もし大切な恋人に何かあれば、

「……ぶち殺してやる……」

「お、お客さん……?」

 夏の呟きを聞いてしまったタクシーの運転手が心配そうに声をかけたが、夏はその後口を開く事は無かった。
 目的地に付き、「釣りはいらない」と一万円札を渡してタクシーを降りる。
 大通りから脇道に入って走ること数分。
 秋ならば大丈夫という思いと、もしかしたらという最悪な予感がない混ぜになり焦りばかりが積もる。
 やっとの思いで辿り着いたそこは、

「あ、秋さんっ……!?」

 夏が想像した以上に、悲惨なものだった。


 ※ ※ ※


 時は少しさかのぼる。
 秋が連れて行かれたのはビルの隙間にあるあまり使われていない駐車場だった。
 数台の車が停まっているが、持ち主が戻ってくる気配も、新たな車が来る様子もない。

「そんで、俺になんの用だ? もうすぐバイトあんだけど」

「ずいぶん余裕じゃん。まぁ、アンタに直接用がある訳じゃねえよ。アンタには夏を呼び出す餌になってもらうぜ」

「普通に呼べば良いんじゃねえの?」

「あいつは俺たちをとことん無視しやがる! 舐め腐りやがって!」

 そりゃあなー、俺でも無視するよこんな面倒くさいそうな奴ら、と秋は熱くなる龍也を冷めた目で見た。

「夏が男と付き合ってるなんて冗談かと思ったけど……どうやら本気みたいじゃんか。悪いが利用させてもらうぜ」

「夏を呼んでどうするんだ?」

「もちろんあの舐め腐った態度をあらためてもらわねーとな。高校ん時に俺に勝ったのはまぐれだったと分からせてやる」

 なるほど高校生時代に喧嘩で負けたのか。
 根に持つタイプなのだろう。やはり面倒くさい。

「一時間ぐらいしたらバイト行っていい?」

「良いわけねぇだろ!」

「じゃあ腹減ったからコンビニでパン買ってきていい?」

「ガムでも食ってろっ! 何なんだお前……っ」

 何なんだお前ってこっちが言いたいよなー、と思いながら秋はもらったガムを食べた。
 夏、早く来いと念じる。来たらこいつら押し付けてバイトに行こう。
 車止めに腰を下ろし夏が来るのを待つ。

「ん?」

 しかしその後に来たのは、見覚えのない顔の男たちだった。
 
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

好きなタイプを話したら、幼なじみが寄せにきた。

さんから
BL
無愛想美形×世話焼き平凡 幼なじみに好きバレしたくない一心で、真逆の好きなタイプを言ったら……!?

何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら

たけむら
BL
何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら 何でも出来る美形男子高校生(17)×ちょっと詰めが甘い平凡な男子高校生(17)が、とある生徒からの告白をきっかけに大きく関係が変わる話。 特に秀でたところがない花岡李久は、何でもできる幼馴染、月野秋斗に嫉妬して、日々何とか距離を取ろうと奮闘していた。それにも関わらず、その幼馴染に恋人はいるのか、と李久に聞いてくる人が後を絶たない。魔が差した李久は、ある日嘘をついてしまう。それがどんな結果になるのか、あまり考えもしないで… *別タイトルでpixivに掲載していた作品をこちらでも公開いたしました。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら

たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生 海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。 そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…? ※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。 ※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。

大事な呼び名

夕月ねむ
BL
異世界に転移したらしいのだが俺には記憶がない。おまけに外見が変わった可能性があるという。身元は分からないし身内はいないし、本名すら判明していない状態。それでも俺はどうにか生活できていた。国の支援で学校に入学できたし、親切なクラスメイトもいる。ちょっと、強引なやつだけどな。 ※FANBOXからの転載です ※他サイトにも投稿しています

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

処理中です...