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27.競技場で
「申し訳ございませんでした……っ!!」
ジャッジ様が到着するやいなや、とにかく僕は謝罪を叫ぶ。
おばちゃん達のおかげて穏便に済ませられたと思ったのだが、やはりジャッジ様に話が届くほど目立っていたのだろう。
学園の風紀を乱す行為をしてしまったのだから、ジャッジ様が形相を変えてすっ飛んでくるのも致し方ない。
「まったくアナタは……目が離せませんね……」
「すみません……」
息を切らせたジャッジ様に僕は謝罪をくり返すが、ここでこれまたおばちゃん達が間に入ってきた。
「そうさそうさ! こーんな可愛い子から目を離すのが悪いのさ」
「しっかり見張ってないとすーぐ掻っ攫われちゃうよぉ」
「いや、あの……っ」
助け舟を出してくれるのは有り難いが、ジャッジ様にそんな無礼をしたら処罰の対象になるんじゃないかとヒヤヒヤする。
しかしジャッジ様は一つため息を吐いただけで、眼鏡を押し上げて僕を睨んだだけだった。睨まれるのには慣れている。
「……行きますよ」
「え……はい」
どこに? とは口に出さず、僕は黙って歩き出したジャッジ様について行く。
おばちゃん達ににこにこと見送られながら、たどり着いたのは競技場だ。
「やぁ、やっぱりルットくんも連れてきたんだ」
「こんにちは、エドワード殿下」
「形相変えて走るジャッジは面白かったねー」
「言ってやるな」
「……」
そこで僕らを出迎えたのは、面白そうに笑う殿下だった。
どうやら殿下も試合を観戦するようだ。
「ちょうどもうすぐ第一試合が始まるんだ。今日は一学年からだけど、なかなか迫力があるから楽しめると思うよ」
そう言い残して、殿下は奥へと入っていく。
確か奥の部屋は、殿下のような地位の高い人達が観戦するための部屋がある。
僕は掃除ですら入った事のない部屋だ。
「私は殿下に付きます。アナタは場内で過ごしなさい。これだけ生徒が集まった場で馬鹿な振る舞いをする者は居ないでしょう」
「はい、騒ぎを起こしてすみませんでした。それと、お手を煩わせた事も、すみません……」
せっかくの共闘試合と銘打った大々的な祭、きっとジャッジ様も殿下と共に準備に余念がなかった事だろう。
なのに僕が邪魔をしてしまったようで、ひどく気持ちが落ち込んだ。
最近ジャッジ様から、嫌われているなりにもある程度働きを認めてもらえたと実感していた。
しかし、信頼を得るのは大変でも、信頼を崩すのはあっという間だ。今日の僕を、ジャッジ様はどう思っただろう。
そう思いながらも、あとはとにかく大人しく、隅でひっそり過ごしていようと決めた。
「…………私は、アナタに──」
「お! ルットじゃん!」
そこで、何かを言いかけたジャッジ様のなんだか元気のない声を、元気な声が遮った。
背後からのその声に振り返ると、茶髪に茶色い瞳の青年、ジョーが僕に笑顔で大きく手を振っていた。
その振る舞いはいたって庶民的で、僕の心を和ませる。
しかし僕がジャッジ様と話している事に気付いたジョーは、おっと、と分かりやすく顔を引きつらせた。
「あー、失礼しました。お話しの途中だったンすね」
アハハ、と乾いた笑い声をあげ、じゃあ俺はこれで……とそそくさと去ろうとするジョー。
その彼を引き止めたのは、意外にもジャッジ様だった。
「ジョーダン・ウィースト」
「ぅえ!? あっ、はいっ!」
まさかのジャッジ様からの呼び止めに、ジョーの悲鳴のような声が上がる。気持ちは良く分かる。きっと彼は今、全力で逃げ出したい事だろう。
それでも勇気を持ってこちらに振り向いた彼は、油の切れたブリキのように近づいてきた。
「な、なんでしょう。ヴァゾットレム様……」
僕には分かる。引きつったジョーの笑顔から、自分は無害ですよ、他意はありませんよ、だからどうかお助けください、と訴えている事を……。
とても分かるぞ、何をしたわけでもないが謝罪したくなる気持ち。
ジョーには申し訳なく思う。僕なんかに声をかけなければ、こんな窮地に立たされなかっただろうに。
「アナタは明日が試合ですね」
「はい!」
「なので今日は試合の観戦の為にここに居ますね?」
「はい!」
「ならばルット・ミセラトルと共に行動できますか?」
「はい! ……え」
「え」
いったいどんな些細な事を糾弾されるのかと固唾をのんで見守っていたら、話は予想外の方向に進んでいく。
なぜ、ジョーと共に行動する話になった?
僕は隅っこで掃除ができれば良いんだが?
ジョーも戸惑いを隠せないようだが、僕よりいち早く思考を持ち直す。
頭をポリポリとかきながら「まぁ……」と口を開いた。
「……俺もちょうどルットを見かけたから誘おうと思ってた所だし」
「ならば問題ありませんね」
あ然と立ち尽くしていた僕の背中を、ジャッジ様が軽く押す。
一歩踏み出すと、ジャッジ様はそのまま僕らから背を向けた。
「では、私はこれで」
そう言い残したジャッジ様を、ジョーと二人で見送る。
周りは賑やかだが、なんだかここだけ静かな気がした。
「なんかあったん?」
「……毎日何かしらあってます」
「そっか、大変だなルットも」
きっと、ジョーを監視の代わりに僕に付けたのだろうと思う。
けれどなんとなく、自分のその考えに違和感が拭えなかった。
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