17 / 31
番外編SS
挿話《宿の息子》
しおりを挟む彼を見た瞬間に心が震えた。
彼の瞳が俺を見た瞬間に心を射抜かれた。
信じられないほどの白い肌。柔らかな色合いの髪と瞳。小柄な体は抱き締めこの腕に閉じ込めてしまいたくなる。
何より、常にふわりと浮かべている微笑みが可愛くて、美しくて、隣でずっと見ていたくなる。
親父からは大切な上客だから粗相の無いようにと言いつけられた。
正直面倒だと思ったから、最低限の世話をしてさっさと退散しようと思っていた。
だけど、気が付けばふらふらと引き寄せられる様に彼の隣に座っていてせっせと世話を焼いていた。
そんな俺を訝しむことも無く、そして惜しまず笑顔を向けてくれる。
それから彼とはたくさん話をした。
と言っても俺が勝手にベラベラ喋っていたのたが、彼は退屈そうにもせずに興味深げに聞いてくれて、嬉しくて更に口が軽くなる。
楽しかった。
幼そうな見た目に反して、まるで俺より年上のような包容力があった。
だけど笑顔は年相応で可愛らしく、彼を笑顔にする為なら何でもしたいと思った。
もし、この人がずっと隣に居てくれるなら、どこまでも頑張れるだろうな。
どんなに疲れていても、この人の笑顔できっと全て吹き飛ぶだろう。
落ち込んだ時は、この人に頭を撫でてもらいたい。それだけで、いくらでもはい上がれる。
出会ってたった数時間で、もう彼の事しか考えられなくなった。
魅了されるってこう言うことだ。
可愛くて、美しくて、優しくて、そんな彼が、どうしょうもなく欲しい。
「俺と宿を経営しないか?」
ずっと隣に居てほしい。その笑顔を守る為なら何でもするから。
だが、返事は聞けなかった。
その前に男に手を引かれ部屋に戻ってしまったからだ。
その時僅かに交わされた男の鋭い視線は気のせいではないだろう。
一瞬怯むが、でも諦めたくない。
明日がある。朝、僅かでもいいから彼と話をしよう。
せめてちゃんと俺の気持ちを伝えたい。
しかし、そんな決意も虚しく、朝起きたらもう彼は居なかった。
朝食も食べずに街を出たのだと親父は言う。
唖然と立ち尽くす俺は、幻でも見ていたのかと思う。
だってそうだろう。
こんなにも俺の中に存在感を残した人が、今はもう居ないなんて。
まるで最初から居なかったかのようにあれだけ騒がしかった酒場は綺麗に片付けられ静まり返っている。
彼と話をした場所も、一つの名残もなくなって。
まるで妖精にでも出会った気分だ。
どんなに恋い焦がれても、触れることすら出来ない儚い存在。
出会えた事すら奇跡だったのだと、そう思えば諦めもつくだろう。
なのに彼の笑顔を忘れられそうには無くて、想いは膨らむばかりだった。
諦めるなんて無理みたいだ。
もし彼にまた会えたなら、次こそは彼の心を捕えよう。
瞳を閉じればあの笑顔が蘇る。
それだけで俺は今以上に強くなれるから。
188
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。