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序章 はじまりの予知夢と思惑
向かう先には1
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陽の国の側近、ルカは幻影を操る能力を持っていた。
自然溢れる風景や、見たこともない生き物を見せ人々を魅了し、束の間現実を忘れさせる。未だ慰めや余興などにしか使われた事はないが、とても美しい能力だと周囲からの評価は高い。けれど、ルカ自身はこの能力が怖かった。
使い方を変えてしまえば、他人の精神を破壊する…人によっては死よりも残酷なものとなるからだ。
…最も、基本的には使う人物の描くものが反映される為、彼自身が柔らかい感情の持ち主である事を証明してはいるのだ。だが人の気持ちなどいつ変わるかなんて分からないし何より、いつか誰かの命令でそんな事が起こるのではないか…そしてそれが彼女に対して向けられるのではないかと内心怯えていた。
『何処か他国へ私と共に生き延びられたら、お伝えしたい事がございます』
先程自らが口にした言葉に嘘はないが、ルカは少しばかり動揺していた。
食事を取りに向かう廊下を歩きながら、モヤモヤする気持ちに舌打ちをする。
生き延びられる力となればと思って咄嗟に発した言葉だが、言った所でどうなるものでもないだろうし、身分が違う。伝えたい程の思いはあるけれど、話すつもりなど毛頭なく身の内に留めておこうと思っていたのだ。
段々と動揺を通り越し、後悔の波に包まれ始めた時、少し先の柱の影から聞こえたその声に足を止めた。
「おい、ルカ。話がある」
「…悪いが今は小言を聞いている時間はないぞ、チャド」
燃える赤い髪とは反対に静かな瞳を向ける同じ側近は眉間に皺を寄せた。
「違う、そんな話じゃねえ」
「では何だ。ついでに言うと私の虫の居所もあまり良くないから手短に話せ」
「お前…相変わらずあいつ以外には失礼な奴だな…」
「早くしろ」
害が無ければ傷付けるような事はしないが、唯一人を除いて基本的には他人に対して淡白な方だとルカ自身自負していた。
「同盟の件、俺があいつの供人に付く」
「…何だと!?何故お前が?通常の護衛兵が共に行けば問題ないはずだろう?」
「そういう訳にはいかないんだよ。あいつが他国と上手くできるか分からないだろ?」
政治になど本来関わるはずがないのだから当たり前だという反論を飲み込み、ルカはチャドを睨んだ。
恐らく、供人という名の監視の類だろう。エヴァが知ってるのか定かではないが、動きづらくなる事は確かだった。
「…供人はお前一人だけか?」
「さぁ?俺だけで不足だと思ったら誰か呼ぶかもな?」
「チャド…!」
曖昧な物言いをするチャドに掴み掛かろうと伸ばした右手はさらりと交わされてしまった。
昔からこのチャドとは度々衝突していた。どちらかと言うとアヴァの肩を持ち、エヴァを見るとあからさまな嫌悪感をぶつけるのだ。エヴァの側近であるルカとしては勿論気に入らない人物である。
「落ち着け、ルカ。俺だってお前と言い合いする為に話したんじゃない。確かにあいつが…エヴァが気に入らないし本来ならば居てはならない存在だと思う。だがあいつは一応一国の皇女として他国へ向かうだろ?」
「…話が見えないな。つまり何が言いたい?」
はっきりと言わないチャドに、空振りしたまま行く先を失った自分の右手を引っ込めると、ルカは眉を顰めた。
一つ息を吐き出したチャドが先程より声を抑えながら話し出した。
自然溢れる風景や、見たこともない生き物を見せ人々を魅了し、束の間現実を忘れさせる。未だ慰めや余興などにしか使われた事はないが、とても美しい能力だと周囲からの評価は高い。けれど、ルカ自身はこの能力が怖かった。
使い方を変えてしまえば、他人の精神を破壊する…人によっては死よりも残酷なものとなるからだ。
…最も、基本的には使う人物の描くものが反映される為、彼自身が柔らかい感情の持ち主である事を証明してはいるのだ。だが人の気持ちなどいつ変わるかなんて分からないし何より、いつか誰かの命令でそんな事が起こるのではないか…そしてそれが彼女に対して向けられるのではないかと内心怯えていた。
『何処か他国へ私と共に生き延びられたら、お伝えしたい事がございます』
先程自らが口にした言葉に嘘はないが、ルカは少しばかり動揺していた。
食事を取りに向かう廊下を歩きながら、モヤモヤする気持ちに舌打ちをする。
生き延びられる力となればと思って咄嗟に発した言葉だが、言った所でどうなるものでもないだろうし、身分が違う。伝えたい程の思いはあるけれど、話すつもりなど毛頭なく身の内に留めておこうと思っていたのだ。
段々と動揺を通り越し、後悔の波に包まれ始めた時、少し先の柱の影から聞こえたその声に足を止めた。
「おい、ルカ。話がある」
「…悪いが今は小言を聞いている時間はないぞ、チャド」
燃える赤い髪とは反対に静かな瞳を向ける同じ側近は眉間に皺を寄せた。
「違う、そんな話じゃねえ」
「では何だ。ついでに言うと私の虫の居所もあまり良くないから手短に話せ」
「お前…相変わらずあいつ以外には失礼な奴だな…」
「早くしろ」
害が無ければ傷付けるような事はしないが、唯一人を除いて基本的には他人に対して淡白な方だとルカ自身自負していた。
「同盟の件、俺があいつの供人に付く」
「…何だと!?何故お前が?通常の護衛兵が共に行けば問題ないはずだろう?」
「そういう訳にはいかないんだよ。あいつが他国と上手くできるか分からないだろ?」
政治になど本来関わるはずがないのだから当たり前だという反論を飲み込み、ルカはチャドを睨んだ。
恐らく、供人という名の監視の類だろう。エヴァが知ってるのか定かではないが、動きづらくなる事は確かだった。
「…供人はお前一人だけか?」
「さぁ?俺だけで不足だと思ったら誰か呼ぶかもな?」
「チャド…!」
曖昧な物言いをするチャドに掴み掛かろうと伸ばした右手はさらりと交わされてしまった。
昔からこのチャドとは度々衝突していた。どちらかと言うとアヴァの肩を持ち、エヴァを見るとあからさまな嫌悪感をぶつけるのだ。エヴァの側近であるルカとしては勿論気に入らない人物である。
「落ち着け、ルカ。俺だってお前と言い合いする為に話したんじゃない。確かにあいつが…エヴァが気に入らないし本来ならば居てはならない存在だと思う。だがあいつは一応一国の皇女として他国へ向かうだろ?」
「…話が見えないな。つまり何が言いたい?」
はっきりと言わないチャドに、空振りしたまま行く先を失った自分の右手を引っ込めると、ルカは眉を顰めた。
一つ息を吐き出したチャドが先程より声を抑えながら話し出した。
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