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序章 はじまりの予知夢と思惑
向かう先には2
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「俺はサイラスやイーサンとは違う。自分の手を汚す様な事は出来ればしたくない。護衛で供人に付くならば基本的にはそれを優先させる。だが…あいつが万が一陽の国に害をなす様な行動をすれば即処分する事になる。これで理解できるか?」
「……それはエヴァ様がきちんとご帰国されるまでか?」
「そうだな。だがいつ帰国できるかは、あいつ次第だけどな」
チャドの表情からして恐らく嘘はないとすると、ルカに一つの考えが浮かんだ。
(命の保証をしてくれるならば、最後に向かう氷の国でチャドと話をして上手くエヴァ様を逃すことができる。了承すれば共謀として口を割れないだろうし、拒絶されても能力を使って時間を稼げば何とかなるかもしれない…)
「…おい、ルカ。何笑ってんだよ?」
指摘されてルカはハッと我に帰った。つい今まで自分の能力に怯えていたくせに、たった一人の為ならばこうにも簡単に思考が変わるのかと腹黒さと驚きと共にいつの間にか口角が上がっていたのだろう。口元を手で覆いながらチャドを見た。
「…チャド、お前が命を賭けてエヴァ様をお護りするならば私からエヴァ様に同盟にのみ集中するように申し伝える」
「…命を賭けて?はっ…そんな簡単に死なねえよ。いざとなったらあいつ一人くらい抱えて翔んでやる」
「…その言葉忘れるなよ?」
「一々上からものを言うな。話はそれだけだ、じゃあな」
溜息混じりの言葉を残すと、チャドは音も立てずにその場から姿を消した。
たった今チャドが立っていたその場所を何事もなかった様に通り過ぎると、ルカは芳ばしい香りが漏れるその部屋のドアを開けた。
調理室で作られたものが運ばれて保存されている部屋だ。王族と側近一人一人に充てがわれたきっちり一食分、その中から自分の名とエヴァの名を見つけていつも通りに目を細めた。
(少な過ぎると昨日も料理長に伝えたはずだが…)
随分昔からだが、エヴァの食事量が他と比べて少ないのだ。上からの命令なのか、料理長自らの意思なのか定かではないが、見る度に気分が悪くなる。
自分の食事を少しずつエヴァの食事へ分け入れると、最後にチャドの料理からパンを抜き取り、これもエヴァの皿に乗せる…これがここ数年の流れとなっていた。
残念ながら今日は既にチャドの料理がなくなっている。元々エヴァは食が細いが、この先まともに何が食べれるのか分からない。何としても食べさせなければとルカは自分の分全て分け入れると、急ぎ足でエヴァの部屋へと向かった。
人の気配がしない静か過ぎる廊下を薄っすらと照らす月明かりに何となく立ち止まると丁度体が月と重なった。不気味な空気を醸し出していたからか、何故かそれはルカを不安にさせた。
「……」
『惹かれる月明かりは禍事への誘い。向かう先には必ず良くないことが起こる』
…信憑性もないのにいつか誰かが言っていたその言葉が一瞬頭を過ぎった。
「…馬鹿馬鹿しい」
抱いた不安を捨てる様に直ぐに月へ背を向けると、ルカは主人の元へと急いだ。
「……それはエヴァ様がきちんとご帰国されるまでか?」
「そうだな。だがいつ帰国できるかは、あいつ次第だけどな」
チャドの表情からして恐らく嘘はないとすると、ルカに一つの考えが浮かんだ。
(命の保証をしてくれるならば、最後に向かう氷の国でチャドと話をして上手くエヴァ様を逃すことができる。了承すれば共謀として口を割れないだろうし、拒絶されても能力を使って時間を稼げば何とかなるかもしれない…)
「…おい、ルカ。何笑ってんだよ?」
指摘されてルカはハッと我に帰った。つい今まで自分の能力に怯えていたくせに、たった一人の為ならばこうにも簡単に思考が変わるのかと腹黒さと驚きと共にいつの間にか口角が上がっていたのだろう。口元を手で覆いながらチャドを見た。
「…チャド、お前が命を賭けてエヴァ様をお護りするならば私からエヴァ様に同盟にのみ集中するように申し伝える」
「…命を賭けて?はっ…そんな簡単に死なねえよ。いざとなったらあいつ一人くらい抱えて翔んでやる」
「…その言葉忘れるなよ?」
「一々上からものを言うな。話はそれだけだ、じゃあな」
溜息混じりの言葉を残すと、チャドは音も立てずにその場から姿を消した。
たった今チャドが立っていたその場所を何事もなかった様に通り過ぎると、ルカは芳ばしい香りが漏れるその部屋のドアを開けた。
調理室で作られたものが運ばれて保存されている部屋だ。王族と側近一人一人に充てがわれたきっちり一食分、その中から自分の名とエヴァの名を見つけていつも通りに目を細めた。
(少な過ぎると昨日も料理長に伝えたはずだが…)
随分昔からだが、エヴァの食事量が他と比べて少ないのだ。上からの命令なのか、料理長自らの意思なのか定かではないが、見る度に気分が悪くなる。
自分の食事を少しずつエヴァの食事へ分け入れると、最後にチャドの料理からパンを抜き取り、これもエヴァの皿に乗せる…これがここ数年の流れとなっていた。
残念ながら今日は既にチャドの料理がなくなっている。元々エヴァは食が細いが、この先まともに何が食べれるのか分からない。何としても食べさせなければとルカは自分の分全て分け入れると、急ぎ足でエヴァの部屋へと向かった。
人の気配がしない静か過ぎる廊下を薄っすらと照らす月明かりに何となく立ち止まると丁度体が月と重なった。不気味な空気を醸し出していたからか、何故かそれはルカを不安にさせた。
「……」
『惹かれる月明かりは禍事への誘い。向かう先には必ず良くないことが起こる』
…信憑性もないのにいつか誰かが言っていたその言葉が一瞬頭を過ぎった。
「…馬鹿馬鹿しい」
抱いた不安を捨てる様に直ぐに月へ背を向けると、ルカは主人の元へと急いだ。
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