黄金の空

ちゃん

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第一章 最初の国

獣道3

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 苛々しながら来た道を引き返すチャドに、少しずつ焦りが混じり始めていた。

 (あいつ…一体どこ行ったんだ。本当に面倒なやつだな)

 足音が遠のいた気がして何となく振り返ったら姿が見えず、呼んでも返事は返ってこない…そんな事が起こったのがおよそ十五分前だ。
 エヴァの荷物はチャドが背負っていたから、何かを落としていくなんて事も無く、それでも遠くに行ける程余力も無いだろうと辺りを探してみたが、未だに気配すら感じられない。

 「おい…いるなら早く出てこい!」

 荒げた声は虚しく響き、すぐにまた静寂が訪れた。

 「…くそ…っ」
 
 段々、静かすぎる事にさえ腹立たしくなってくる。
 吹いた風が、春先だというのに溜まった額の汗を一瞬で蒸発させていった。早足で引き返したせいで火照っている体には心地良いと目を閉じたと同時に何か妙な違和感を感じた。

 (今の時期に吹く風にしては冷たすぎる…。いや…冷たい風というより、これは…)

 体に感じるは吹いているというより、一気に温度が低くなってそこに風が吹いたという感覚に近い気がした。
 そもそもエヴァはこんな獣道でいつまでも隠れているような人物ではないし、見失いそうになったら声をあげるはずだ。
 妙な違和感は次第に嫌な予感に変わっていった。

 (考えられる事は二つ…連れ去られたか、異空間に引き込まれたか。前者ならば俺と似た様な能力ちからが必要…だが、一体何の為にだ?そもそもあいつの顔は他国に知られていないだろうし、陽の国の皇女だなんて気付かない筈。そして万が一、後者だったら…?)

 後者ならば先ず異空間を探す事がほぼ不可能であり、奇跡的に見つけたとしても入り込む事もできない、そうなれば…最悪な結幕を想定すると、チャドはギリギリと音が鳴りそうな位奥歯を噛み締めた。

 そんな事があってはならない。
 まだ陽の国から離れて幾日も経ってないのだ。

 「くそっ…知らない所で勝手に死ぬなよ?」

 陽が沈んでしまえば益々危険が増えてくると判断し、その身を一番高い木の真上まで一気に移動させた。
 見える範囲でエヴァの姿はやはり無い。
 
 (今ならまだギリギリ陽の国へ引き返すことができる。すぐに戻って他の側近にも伝えて……)

 何が最善なのか思考を巡らせていると、肩から掛けていたエヴァの鞄が突然ビクリと動いた。

 「は…?鞄が勝手に動いた…あいつまさか、何か連れてきてるのか?」

 不気味に一瞬動いただけの鞄の口紐を恐る恐る開けると、掌に収まるほどの箱から漏れ出る光を見つけ目を細めた。
 
 「……石?いや、ピアス…か?」

 箱の中身は、形こそはピアスだが飾りとして付いている青い石が強い光を放っていた。
 手に取ってまじまじと見入るが、ピアスは光を放っているだけで先程のように動いたりもしない。

 (こんなもの…何の為だ?最初から光ってたのか?それとも今動いた時から?)

 心なしか暖かさが感じられるのは気のせいだと思いながら、それピアスを握り締め元いた地へと移動し足が地面についたその瞬間、先程感じた冷たさよりも更に冷えた空気がチャドを包んだ。
 尋常ではない冷気に辺りを警戒すると、電流のようなピリッとした何かが頬を掠った。

 (一体何が起こってる…!?)

 訳が分からないままに困惑していると、強い風が吹き起こり次第に空から雨粒がポツ、ポツと落ちてきた。
 衣服の中へと染み込む程の大雨へと変わり始めた時、握りしめていたピアスが再びビクリと動く。

 「…?」

 思わず手を開くと、ピアスは小刻みに震えていた。

 「…まさか…」

 元々エヴァの鞄にあって、いつから光っていたのかは分からないが、この異常な冷気に包まれた途端に動き出した。
 それならばきっとこのピアスは…

 「…エヴァ、ここにいるのか?」

 姿も見えなければ気配もない。
 雨と木々以外に見えないに向かってその名を呼ぶと、目も開けられない程の光が現れたと同時に、何かが小さな悲鳴をあげて覆い被さるように降ってきた。

 


 
 

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