黄金の空

ちゃん

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第一章 最初の国

青年と鳥3

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 肌に当たるサラサラとした風がとても心地良い…風の国へ来て一番最初にエヴァが感じた事だった。
 暑くもなく寒くもない丁度良い気温に混じって吹く風は、何処かに腰掛けていたら寝入ってしまいそうなくらい柔らかかった。

 一先ず入国証を発行してもらう為に国境検問所へと向かうと、何となく人が一列になっている所へ同じようにエヴァ達も加わった。
 
 「時間がかかるかしら?」
 「この人数なら大した事ないだろ」
 「チャドって陽の国以外にも…」

 …カーン!カーン!

 他国に来ても平然としているチャドを見上げて質問を投げかけようとした時、検問所の入り口から鐘を鳴らす音が聞こえた。
 中から中年の男が出てくると、口元に手を添えて列に並ぶ人々へ聞こえるように叫んだ。

 「皆様!今朝、魔石が発見されたそうです!密売や偽物の疑いもありますので、陽の国から来られた方は荷物検査の後、こちらの検問所にて二日間審査させて頂きその後、入国証を発行させて頂きます!」

 耳を疑うような話しに、直ぐにチャドが列から離れると中年の男の元へ向かい何かを話し込んでいるようだ。

 (魔石って絶対にパーロンが持っていったペンダントよね?)

 既にこの検問所に話が回っているという事はパーロンが飼い主の元に戻ったか、考えたくないが何処かに落としたという事になる。

 「…ヴァ。エヴァ!聞いてるのか」
 「は、はい!…え…どうしたの?」

 俯き考え込んでいたエヴァが驚いて顔を上げると、チャドが検問所の中年の男を連れて目の前に立っていた。

 「あのう…先程こちらの男性から、陽の国のご出身で、来られる途中で丁度魔石を落としたというお話を聞いたのですが…お間違えないでしょうか?」
 「…?」

 チラリとチャドを見やると、話を合わせろと言いたげな顔をしていた。
 中年の男の話はあながち間違いではない。只、簡単に落としたなんて言ってしまって良いものかとも思うが…取り敢えず何かチャドなりに考えがあるのだろうとエヴァは首を縦に振った。

 「はい…来る途中で落としてしまったようです」

 あくまで、落とした以外は何も語らないようにして答えると何故か中年の男の表情がパァッと明るくなった。

 「ああ、そうでしたか!それではどうぞこちらへお越し下さい」
 「…え?」
 「あ!入国証ならまた後程またお渡ししますので大丈夫ですよ」
 「いや…あの?」

 怪訝な顔をして聞き返すエヴァに、チャドが耳打ちをしてきた。

 「魔石の偽物と詐欺師が他国にはゴロゴロ溢れてる。陽の国出身で魔石を保持し、落としたならそれは本物であると同時に目が利くって事だ。そして目利きが出来る事は身分が高いことも証明できる」
 「…!」

 つまりチャドは中年の男に、本物の魔石か分かるからそれを見せろと交渉したのだ。
 
 「…なるほどね」
 「取り敢えず着いて行ってみるぞ」

 固まったままボソボソと話し動かないエヴァ達に不思議そうな顔をして少し先で待つ中年の男の後を慌てて追った。




 「ちょ、ちょっとチャド…此処って」
 「…風の城だな、多分」

 穏やかな街並みを通りながら辿り着いた先は大きく聳え立つ城の前だった。
 淡い緑色の屋根に白っぽい壁の色をして全体的に可愛らしい感じの外観をまじまじと眺めていると、中年の男の声がした。

 「到着しました、こちらが風の城でございます。城内に魔石が保管してあります。王陛下も王子も既に御覧になった後なので直ぐにご案内致します」
 「え…あの、他国の者がそんな勝手に城の中に入って大丈夫なのでしょうか?」
 「勿論です。我が国は基本的には入城される際に門番に確認を取れば大丈夫です。早々悪者も現れませんからね」
 「……」

 緩すぎる規則に流石にチャドと目を合わせた。考えてみれば城に辿り着く前も、珍しい衣服と風貌をしたエヴァを誰も気にする者もいなかったし、何なら気持ち良さげに眠り込んでいる者達が沢山いた。
 この中年の男だって何処となく人が良さそうで直ぐに騙されてしまいそうな雰囲気をしている。

 「では、ご案内致します。あ!私、国境検問所の職員兼、側近補佐をしております、エメットと申します」
 「…側近補佐?」

 側近補佐など陽の国には無い。聞き慣れない言葉に思わずエヴァはそのまま聞き返した。

 「はい、文字通り側近の補佐をしております。もしかしたら城内で側近に会うかもしれませんね。風の国の側近は変わり者が多いですが、気にされないで下さい」

 愛想良く笑いながら説明するエメットにチャドがハッとしたように口を開いた。

 「おっさん、もしかして側近の中に鳥使いがいたりしないか?」

 急に何を聞き出したのかとチャドを見ると、彼の口角は僅かに上がって見えた。
 そしてチャドを見たエメットもまた、にこにこと笑った。

 「ええ、一人。鳥使いというか、遊び相手に近い感覚で飼っている者がおりますね」

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