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仲直りとそれから
しおりを挟む「…なんですか、それ」
「…」
「どうして?どうして今頃、そんなことを言うのです?私が、どれだけ傷ついた、と…」
泣きたくない。泣きたくないのだけれど。
レオンの無事と、思いがけない謝罪の言葉と、そしてどう扱っていいのか分からない自分の内側の気持ちと。その全ての要因で、ディアの涙腺は弱くなっているようで、嗚咽が漏れ始めるのを止められなかった。
真珠のような大粒の涙を零すディアに、レオンはますます眉尻を下げ、寝たまま身体をこちら側に向けると、空いていたもう片方の手を伸ばしてディアの濡れた頬にそっと触れた。少女がそれを避け無かったのをほっとしながら見つめて。
そして、気まず気に目を伏せた。
「…最低な事をしておいてなんなんだけど」
「…」
「本当にどうしようもないと思ってくれて構わないんだけど」
「…何、ですか。言ってもらえないと、分かりません」
混乱する気持ちの中、まだ泣きながらディアはレオンを恨めしそうに睨んだ。下らない内容だったら叫んでしまいそう、と思いながら。
「…一目惚れ、だったんだと分かったんだ」
「…は?」
「いやだから、その」
ディアの手を強く握りしめたまま、レオンは観念したように強く一度目を閉じると、ぱっと開いて。
昔と何一つ変わっていない煌めく宝石のような青い目で少女を見つめた。
「初めて教会であった日、ディアが、その、あまりにも可愛すぎて」
「…は?覚えてらしたんですか…?」
「勿論、覚えていたよ。僕の言葉ににこにこしていた君が可愛すぎて…。」
「はぁぁぁあ?!」
ディアは、あまりの衝撃に叫んだ。覚えていたなんて、思いもしなかったから。そう言えば一度もレオンに確認した事がなかったことを今更ながらに少女は思い出した。
「本当にガキだった。素直に直ぐに謝れなくて、ごめんなさい。」
「な、…」
あんなに傷ついて悩んで毎日毎日悲しかった日々の答え。回答には自分で辿り着いていたけれど、真逆それを本人に謝られる日が来るとは。
あの日々は思い出すと、今でも胸が痛む。正直これ以上彼に付き合ってやる義理もない。そう分かっているのに、たった一言「一目惚れ」という言葉を聞いて。
あの時のレオンとディアは同じ気持ちだったのだということを知って、それだけで幸せな心持ちになってしまう自分の、なんてチョロい事か。
(すごく腹立たしいわ。今までの事を一言で無かったことにしようとしてるんだわ)
レオンにそんなつもりは無いことは分かっている。本当に心の底から謝っているのも理解している。
でも、やられた本人の心が素直にそれを認めたくないとそう憤っているのだ。
掴まれた手を振りほどこうとしても、ぎゅっと握りしめられていて出来ないから、肩を震わせながらレオンを泣き腫らした目で睨みつけた。自分の言葉遣いが荒くなるのも全部相手のせいだ。
「有り得ないです。なんで今更そんな事言うの。今まで十年もあったのに。その間にいくらでも、いくらでもタイミング、あったじゃない…!」
「本当にごめん!死ぬって思った時に気がついたんだ!」
「何に?!」
「好きなんだ!」
「はあ?!」
「俺はお前の事が好きなんだよ!」
「ばっ…」
馬鹿なこと言わないで、と言おうとして最後までいえずにディアは目を見開いた。
レオンが今まで見た事がないくらいに顔を赤く染めていたから。
「…死にかけて分かるなんて、何を言ってるんだと思ってるのは分かる。今までの俺が酷すぎる。それをどんなに責められてもそれも全部受け入れる。だからそばに居てくれないか?」
「そ…、な、なんですか、それ…」
「俺のことが嫌いか?…いや嫌われてるよな…。分かってるんだ、全部自業自得だ。俺が悪いんだ、ディアはこんなに優しくて健気で可愛いのに、俺がガキみたいな態度をずっととってたから…」
しょんぼりとしながら、話し続けるレオンに、ディアは生まれて初めて感じる程の複雑な気持ちで胸がいっぱいになり、言葉が紡げなかった。
ずるい。ずるいわよ。嫌いなわけがない。こっちはずっと好きだったんだから。でも嫌い。好きだけど嫌い。酷いこと言われたし。でもそんなこと言われたら、直ぐにでも許して受け入れたくなっちゃうじゃない…。
「あ、いてて」
相手は怪我人だったことを、ディアはその瞬間まで忘れていた。慌ててレオンを見ると、ディアの手を捕らえている反対の手で頭をそっと触り、顔を顰めていた。けれど少女の視線に気がつくと、ふんわりと微笑む。
(あー、だめだわ。その笑顔に恋したのよ。無理じゃない。)
何も言えずに黙っていると、ふと握り締められていた手を、またぎゅっとされた。彼の手は、日陰で眠る猫の背中のようにひんやりとしていて。ディアの中の色んな感情が、その心地よい冷たさに吸い取られていくようで。
「…君の手は、こんなに小さかったんだな。…そして温かい」
と呟いた。
なんなの、そのしみじみとした感想みたいな言葉は。私だって貴方の手がこんなに大きいなんて知らなかったわよ、とは言わずに。
「…今、知ることが出来て良かったでしょう?」
と、少し上から目線で言ってやった。手は握らせてあげるけど、握り返してなんて、今はしてあげない。それくらいしか、ディアは思いつく仕返しがなくて。
ディアの言葉に、レオンは嬉しそうに笑って。そして「うん」と頷いたのだった。
そう言えば。
「…サニーさんは」
「サニー?サニーがどうかしたのか?」
「本当に従妹なのですか?」
「当たり前だ。それ以上でもそれ以下でもない。…まあ、少し相談には乗ってもらっていたけれど。」
「そ、相談?」
ディアが濡れた目を上げると、レオンが何とも言えない顔で頷いた。
「…どうやって、ディアに接したら良いのか分からなくて。」
「はい?」
「同じ女性に聞けば何か分かるかと思ったんだ。」
「…何か分かったのですか?」
「……何も。からかわれただけだった」
(駄目じゃないの)
【終わり】
最後までお読み頂きまして、ありがとうございました!(´ᴗ ·̫ ᴗ`)
素直になれない系男子&初恋諦められない系女子の組み合わせでした!暴言、ダメですよね。無視する系男子と暴言系男子ならどっちかなあ。どっちも嫌だなあ。
面白かったと思ってくださいましたらお気に入りよろしくお願いします~!次の作品に繋がります( ܸ. .ܸ )゛
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