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解き放たれる
しおりを挟むエメラルディアは、この数年で瞬く間に美しい女性と変化した。
いつもの窓際に用意された椅子に腰掛け、無垢に外の様子を彼に尋ねていた少女は何時の間にか、もうどこにも居なくなっていた。
夢見がちであった澄んだ青い瞳は以前と同じようであったが、いつの頃からか無邪気な瞳に憂いが浮かぶようになった。
成長して行く過程で、彼女の微笑みも仕草もどんどんと大人になってゆき、シギエルは時の流れの速さを感じた。
発作は相変わらず起こるものの、体力が少しついた彼女は困った事に発作を起こしてもその事をシギエルに隠すようになった。
エメラルディアの発作を感知して慌てて駆けつけた彼に、額に冷や汗をびっしりと浮かべながらも「大丈夫、大丈夫」と譫言のように繰り返す。まるでシギエルが神聖力を使う事を嫌がるかのような反応に、彼はエメラルディアが自身の体力を過信していると思い、その事が度々無性にシギエルを苛立たせた。
(呪いを跳ね返すほどの体力はないと言うのに……。)
十の歳を越えた頃から、彼女は言葉数が少なくなり、シギエルの顔を見ると何処か悲しげな表情を浮かべるようになった。
シギエルは、最初なぜ彼女がそんな顔をするのか理解ができなかった。しかし、彼女が宮殿にある莫大な書物の中に何かを探している事は知っていた。そしてその中に、セガンティヌについての書物が含まれていた事も。
以前シギエルが国王と彼女の件で会話をした後、扉を開けるとエメラルディアが立っていた事があった。その時に、シギエルに関しての何かを聞いていたのかもしれない。シギエルはその時までずっとそう思った。
「貴女のお姉様は『サンヴィカラナ』へと渡り終えました。」
だからまさか、そんな言葉をエメラルディアが言うとは思っていなかった。
アシェルの存在は彼女には隠されていたはずだ。シギエルはずっとそう思っていた。侍女が何かを伝え漏らしたのだろうか。彼の頭の中をぐるぐると思考が空回る。
そうしているうちに、彼女は言葉を続けた。
「南の国のとある場所に咲くという『ブルースター』を、取ってきて欲しいのです。これは貴方への命令です、シギエル。」
シギエルはその花をよく知っていた。気候の変動に弱く、土地を離れるとどう保管をしていても枯れてしまうブルースターと言う名の花。彼女の言葉の意味するところは、言わずもがなもう戻ってくるなというものだった。
シギエルは動揺して思わず言葉を返した。
「……私がここから離れれば、貴女の命は尽きます。」
それは真実だった。そして、エメラルディアも、その言葉を本当の事だと理解していたはずだ。けれど、彼女は小さく微笑んだだけだった。
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