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言い募る
しおりを挟む「……もし貴女が許したとて、王は許さない。」
自分が、最早何を言っているのか。何を理由に彼女の言葉を拒絶しようとしているのか、シギエルは分からなかった。
けれど彼は必死で、それは出来ないと言い募った。
冬の良く晴れた空のような、美しい瞳の縁に、涙の膜が出来る。
彼女は自分がどんな顔をして、シギエルを見ているのか理解しているのだろうか。何故、そんな顔で自分を突き放そうとするのか。
「承諾は、既に得ております。」
「王の許しを得た上で、貴方にこれを伝えているのです。
……お父様には、もう病気は治ったと伝えました。
……貴方はもう、私には必要ないとも。」
「……何故、そんな嘘を……?」
彼女の震える声に思わず問いかけたシギエルの小さな呟きは、彼女の耳には届かなかったのだろう。彼は困惑しきって彼女を見つめていたが、それに対する返事はなかった。
──もしかしたら。もしかしたら、彼女は本当は分かっていないのかもしれない。本当に自身の生命が保てない事を、理解出来ていないのかもしれない。そう思い、シギエルはゆっくりと言葉を繰り返す。
「……貴女の病気は、自然に治ることは無い。」
「知っています。」
目を伏せ、そう言いきったエメラルディアの言葉は明瞭で、とても静かだった。分かっているなら、何故?
「それならば、「シギエル。」
薄らと涙の溜まった、澄んだ瞳が真っ直ぐと彼を射抜いた。
「父も母も兄弟達も、私が本当に回復したと思っている今の間に──貴方の力がこの身体に残っている内に、この国を離れて欲しいのです。」
彼女は何を言っているのだろうと、シギエルは頭の隅で思った。
そもそも、この誓約は期限付きだ。エメラルディアの生きている間だけ有効なものだった。そう改めて考えた瞬間、シギエルは自身の身体が急激に冷えるのを感じた。
彼女の死を、その時になって身近に感じたのだ。
エメラルディアは、自分の死に対してまるで気にする様子なく、呆然としたままのシギエルに優しく言葉を続けた。
「……漸く春になりましたね。花の芽吹く時期であれば、地より力を少しでも多く吸えるでしょう?」
「そういう、問題ではなく」
彼女は何を言っているんだ。
何故その事を知っているんだ。
調べていたのはその事なのか。
何が言いたいんだ。
「この一年間、私は他の人の前で発作を起こしておりません。」
「それは、」
違う。彼女が治っているように他の者に見せたかったわけではない。ただ、苦しむのを見たくなくて。
「ええ、分かっています。貴方が苦しみを極限まで減らしてくれたから。だから、もう治療はしなくて良いと父様に伝えました。
……貴方のお姉様をサンヴィカラナへとお送り出来きたのも、貴方を手放す準備が出来たからです。ごめんなさい。神国まで送ることが出来なくて。
……お姉様を迎えに行って、そしてそのまま、貴方の国まで帰って欲しいのです。」
シギエルは、ゆっくりと頭を横に振った。全てを否定をしたい気持ちで声が必然的に低くなる。
「……できない。
……貴女が死ぬと分かっているのに、傍から離れる事が本当にできると思っているのですか?」
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