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しおりを挟むティアリーネ・マスティマリエ公爵令嬢は、十四歳。マスティマリエ家の次女だ。
少しピンクがかった白金髪に、明度の高い水色の瞳。愛くるしい人形のような整った顔立ちに小さく華奢な身体は、庇護欲をそそるらしく、周りに可愛がられ大事にされながら育てられてきた。
本人の表情は、何処と無くいつも冷めていたけれど。
「ティア。またその本を読んでいるの?」
「レイラお姉様」
屋敷内の図書館にて、書籍に没頭していると、やってきた姉に声をかけられた。
姉のレイラミアは二十一歳。
ティアリーネよりも鮮やかな色味の金髪と海のように深い青色の瞳に、スラッと背の高い美しい人だ。半年後には隣国へと嫁ぐことが決まっている。
一緒にやってきた侍女が二人分の茶器を運んできているのを見て、ティアリーネは手元の本を閉じた。レイラミアはティアリーネが図書館にいると、彼女とお茶をする為に良くやってくるのだ。私が出向きます、とティアリーネが言うと「ティアが本を読んでいるところを見たいのよ、癒しなの」とよく分からない事を言われたが、それで良いなら良いかと納得した。
白を貴重にした美しく優美な石造りの広い図書館には、秘蔵書を含め1万冊以上の本が天井にまで届く本棚に整然と並べられている。
その中央の円状の広場に当たる部分に、何時の頃からか毛足の長い青色のラグが敷かれ、その上に華奢な足の白い木製のテーブルと二脚の椅子が置かれていて。
その周りに積み重ねられている本の間にちょこんと小さく座るティアリーネは、まるで妖精のように儚げに見えた。レイラミアは小さな妹が可愛くて仕方がなかった。
嬉しそうに妹の近くの席に座ると、レイラミアは改めてティアリーネの手元を覗き込んだ。
「まあ。貴方、その本が本当に好きなのね」
「…はい。いえ」
「ふふ、どっちなの?」
「好きというか、興味はありまして」
「聖女に?」
「…ええ」
「会ってみたいのかしら?」
「いいえ、そういう訳ではなくて。ただ、何となく」
誤魔化すように小さく笑った妹の顔を、レイラミアは一瞬首を傾げ見つめたけれど。やがて優しく微笑むと「そういえばこの前お母様がね…」と何時もの他わいもない会話をし始める。
ティアリーネはそれにどこかほっとしながら、手元の本の題名に少しだけ目を滑らせた。
少女が読んでいる本の表紙には『聖女列伝』というタイトルがついている。
中身は、世界各国に存在していた過去の聖女達の生まれや偉業、そしてその半生が手記されているものだ。
聖女は貴族や平民、そして地域や場所も関係なく、突如として生まれ出人間だ。
この国の聖女の定義は、その名の通り『聖なる力』を持っていること。
神に選ばれたその不思議な力で人々の怪我や病を治し、魔と呼ばれる物に触れればそれを浄化する力を持つ、とされている。
必ずいなければならない人間ではなかった筈だが、彼女達が存在をしていると国が栄えると言われ、名の通り力がある者や、そうでなくても聖女と担ぎあげられる人間も多くいた。
全て引っ括めて、所謂縁起物だとティアリーネは思っているけれど。
その彼女達の生き様を誰がどうやって集めたのか─想像するに易くきっと教会の関係者だろうけれど─事細かく載っている、珍しい書物だった。五十年ほど前に起こった大戦で大火事が起こり、教会内の書物も殆どが燃えたが、その貴重な本がこの侯爵家には残存していた。
マスティマリエ公爵家は、建国当時より続く由緒正しい血筋の貴族だった。先代の侯爵は博識で学者としても名高く、今代も父に負けず劣らずの頭脳を持ち、宮廷大臣である。
ティアリーネの五つ歳上の兄も賢く、現在は王太子の側近の一人となっており、将来的にはそのまま宮廷に仕える身だ。
レイラミアは、隣国の第二王子との婚約が決まっていて、その淑女としての名声は名高い。
また過去に存在した侯爵家に名を連ねる故人も、それぞれに名誉ある人物ばかりだった。
(それなのにどうしてこの家は、私なんかを引き取ったのかしら)
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