18 / 28
17
しおりを挟む「ねえ、聞きました?マスティマリエ公爵家の…」
「ええ、政略的なお話の件でしょう?」
「王族派と貴族派の橋渡し的な役割でしたでしょう?対外的に国内の力が結束している事を示す為だとか」
「でも、それも外向きな理由なのだとか」
「え?どのような理由がほかにあるんですの?」
「そこ迄よ」
「!!」
凛としたその声に、廊下で話し込んでいた少女達はびくりと身を竦めた。
恐る恐る後ろを振り返ると、アリア・フィラメスティア公爵令嬢とそのお付きの侍女であるアイリス・パスファー伯爵令嬢の姿がそこにあった。
艶やかな黒髪、薔薇色の瞳の妖艶な美女であるアリアは「貴女方」と少女達に話し掛けた。
「公にされている以外の事を噂でも囀るのはおやめなさい。
余計な事を言って何処かの公爵家に目をつけられ、誰かのように修道院へと送られるのも嫌でしょう?」
「……」
アリアの言葉に、少女達は顔色を悪くしたまま大きく首を縦に振った。
「解ったならお行きなさい」
そう言われて、慌てたように頭を下げると蟻の子を散らすようにパタパタとそこから去っていった。
「アリア様。見つける度にご注意されるのですか?」
「まさか。一度目をつけられたと分かったら早々口に出すものも居なくなるでしょう?」
アリアの後ろに控えていたアイリスの言葉に、少女は肩を竦めた。そして、大きなため息をつく。
「流石に、今回の件は私達が発端でしょうからね」
「罪の償いということですの?」
「…そうね。あの子があんなに短絡的な事をすると読めなかった私が悪かったわ」
ラディア・サムルが、ティアリーネ・マスティマリエに直接的な言葉で攻撃を仕掛けた件に関して、フィラメスティア公爵家の後継であるアリアは状況の認識不足だったことを悔いていた。
確かに王族派の中でも筆頭公爵家の娘であるティアリーネに対して、アリア達貴族派は慇懃無礼な態度をとっていた。しかしこれは、お互いを牽制してのこと。相互で近づかないようにとある意味では気を使っての事だったというのに。
何故か、取り巻きが心得違いにて暴走した。
「ある意味、貴族向きでは無いことが分かって良かったのではないかしら?」
「…確かに。どうやら彼女はマスティマリエ公爵令嬢の出自に関して、個人的に貶めても問題ないと思っていたようですし」
「出自?…私が生まれは貴族では無いと言ったことで?」
「その様ですよ」
「…本当に短絡的ね。貴族でなかったら平民だと思ったということでしょう?」
「ええ」
「平民だったら平民だと言うわよ。私は」
「ええ、アイリスは存じております。サムル伯爵令嬢は分からなかったのです。それだけの事です」
アリアは再び溜息をついた。
「今回の事がなければ、王族派と貴族派の結び付きの為、養子まで用意してマスティマリエ公爵令息へと嫁ぐ準備もあったというのに。人生とはままならないものね。」
「そこを逆手に取られましたものね、アリア様」
「そうね。まさか、ティアリーネ様をわたくしの家の養女にするなんて、思わないじゃない。私の妹として、マスティマリエ公爵家に嫁いだことにするなんて」
「相手が一枚上手でしたわね」
「腹立たしいわ、本当に」
そう言いながらも、アリアは微笑んでいた。
それもそのはず、彼女が自ら自分の代わりを務める養子にと選んだ男はアリアがずっと幼い頃より恋い焦がれていた想い人であったからだ。領地から呼び寄せた男は、そのままアリアの婚約者としてこちらに残ることになった。
事態は周り巡って、丸く収まったのだった。
308
あなたにおすすめの小説
これからもあなたが幸せでありますように。
石河 翠
恋愛
愛する男から、別の女と結婚することを告げられた主人公。彼の後ろには、黙って頭を下げる可憐な女性の姿があった。主人公は愛した男へひとつ口づけを落とし、彼の幸福を密やかに祈る。婚約破棄風の台詞から始まる、よくある悲しい恋の結末。
小説家になろうにも投稿しております。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。
石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。
やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。
失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。
愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)
京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。
生きていくために身を粉にして働く妹マリン。
家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。
ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。
姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」
司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」
妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」
※本日を持ちまして完結とさせていただきます。
更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。
ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる