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魔王の子孫
ミュジック伯爵家は、魔族の血を引いている。魔族というか、魔王の。
とんでもなく、それはもう遥か昔にこの世界で一番美しく、性格は醜悪、暴力的で、その上人々を虜にするカリスマ性を持った魔王がいたのだと言う。
その子どもであった次世代魔王がひょんな事から人間の娘を愛してしまい、俺は魔王を辞める!と宣言して魔を離れた。
彼らは漆黒の闇のような髪色と、灼熱の太陽のように明るく金色に光る瞳。口には長く大きな牙が生えていて、鷹のように鋭く尖った爪で時に神や人々を殺戮した、らしい。
凶猛で邪悪な魔術を使い、それはまあとんでもない虐殺の限りを働いた、らしい。
ミュジック家の長女であるミアは、その魔王の直系の子孫の一人、……らしい(と、伯爵家の裏向きの家系図には書いてある)。
らしい、と言うのはお察しの通り。
子孫達はとんでもなく昔の魔族の血をほんの~り薄く引いているだけ以上の情報が伝説以外に無いからだ。
ちなみに家族仲は至って良好で、極平凡に領地経営をする伯爵家である。
今現在のミュジック伯爵家直系である祖父、父、兄、ミア、妹、弟は、魔力をほとんど持っていない。
父は真面目な性格で、小さな事からコツコツと領地経営するタイプで、兄も努力型で良く似ている。ミアも、どちらかと言うと勤勉型だし、双子の妹弟は明るく活発で天真爛漫である。揃いも揃って全然魔族っぽくない性格だ。
黒髪。これは皆が引き継いだ。ミアまでは青みがかって見えるほど漆黒で、双子の妹弟は少し明るめだが、黒よりの茶髪といったところだ。ちなみに祖父は既にグレイヘアだし、父も白髪が目立ってきている。
黄金色の瞳。祖父は辛うじて明るめの小麦色の瞳だが、父は琥珀、兄は母方の色が濃く出て緑、妹と弟は更に強く出てほぼ青。
ミアはというと、何故か灰色である。
牙。このちょびっとと尖ってる犬歯のことかな?
鷹のように鋭い爪?んなものある訳ない。
摩訶不思議邪悪パワー。
使えない。そもそも魔法なんてものは、魔力を持っていたとしても専門的に鍛錬しないと扱うことは出来ない。歯の存在を知っていても、歯医者にはなれないのと同じ原理である。
現在の魔法の用途は主に防衛と医療で、その為の学園も勿論存在しているが、ミュジック伯爵家はその道を選ぶ事を自ら回避した。魔王の血筋なのだ。もしかしたらそっちの才能に目覚めてしまうかも知れない事を恐れた、これ迄の当主達の賢明な判断である。
近年は更に隣接する国々との国交が盛んになる中で、魔力に頼らずとも物質により生活できるように時代は移り変わり、この世界は安定している。
代を追うごとにごくごく一般的(しかも少し地味目)な見た目になっていったミュジック家の人々。
そもそも彼らの祖先が魔王だったという極秘事項が外に漏れ出してしまったのは、ミュジック家より数代前に出奔した一人の小説家のせいだった。彼は嫡男だったが、メァーナス神という芸術の神に傾倒、その結果父親に反発して家なんか継ぎたくない!と飛び出し、ずっとなりたかった小説家になった。
家を出て小説家になるのは、まあ良い。
良くなかったのは、彼がまるで腹いせかのように自身が魔王の血筋であった事を自伝小説として出版した事だった。
しかも、それが物語としてよくできていて人気が出てしまい、市民や貴族の間で飛ぶように売れて広まった為に、ミュジック伯爵家は今代までこそこそと裏で言われるようになったのだ。
「魔王の子孫と自分のこと言う痛いやつが出た家系」
と。
しかし、本当に魔王の子孫である当時の当主は、自分の息子が描いた物語(暴露本)に泡を吹いて倒れたのだという。その後はミュジック家の働きでその小説は直ぐに絶版となり、今では手に入らない様になっているのだが。
しかし、現代に生きるミアもその小説の影響が多大に出ていた。
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