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棘が刺さる
最初は、ふとした瞬間の違和感だった。
ディオラルドと目が合う瞬間が減ったように感じた事が、始まりだったように思う。
一緒にいる時間は毎月四回のお茶会でずっと変わりないのに、ユリアーナと微笑みをかわし見つめ合いながら、とめどなく色々な事を語り合う時間が、大切にしていた愛を育む時間が少なくなった。
正確には、以前のように柔らかい笑みを浮かべながら二人は会話を交わしていたけれど、そこにはもう一人の声が足された。それは、アゼリアのものだった。
「ディオ義兄様、好きな食べ物は何ですか?」
「ディオ義兄様は、この国へと旅行へ行かれたのですか?私、とても興味があるんです!どうでしたか?」
「ディオ義兄様は剣もお馬もお上手なんですね!すごい!」
「ディオ義兄様は冬がお好きなんですか?私は春が好きです!でも冬も好きです!」
「このようなお菓子は初めて見ました!私にもくださるんですか?ディオ義兄様、ありがとうございます!」
「ディオ義兄様は難しい事も知っていらっしゃるんですね!尊敬します!」
「ディオ義兄様…ディオ義兄様…」
それらの事は、幼い頃からユリアーナがディオラルドと会話を交わし、全て知りえている彼の情報で。彼女にとっては、目新しく無い会話で。
けれど、彼の話を聞くアゼリアはいつも目を輝かせていて。それは、話を聞かせる側のディオラルドも同じだった。
何時の頃からか、ユリアーナはそのお茶会が誰の為のものであるのか分からなくなっていた。
本来は、婚約者同士であるユリアーナとディオラルドが絆を深める為のもの。そうであったはずなのに。
何時の間にか、それはアゼリアとディオラルドが向かい合い楽しそうに会話をしているのを、横でそっと微笑みながらたまに相槌を打つ時間に変わってしまった。
ディオラルドがユリアーナに笑いかけた後、その微笑みよりもさらに優しくアゼリアに話しかける度、小さな棘がユリアーナの胸の奥深くに刺さる。
彼女自身ですら触れない場所にあまりにもはっきりと感じるその初めての痛みに、ユリアーナは戸惑った。
それが所謂嫉妬なのだと、その時初めて理解した。
それ以上、彼らが会話するのを見聞きしたくない。そう思いながらも、婚約者であるディオラルドにも、自分よりも幼い義妹にも何と言葉をかければいいのか分からなかった。
彼らは純粋に会話を楽しんでいるだけだったし、気にする事はないと何度も自分に言い聞かせる。
父も母も、アゼリアがディオラルドとユリアーナのお茶会に参加している事に対して、何も言ってこない。三つも年下の妹がユリアーナよりもさらに二つ歳上のディオラルドを兄様と慕っている姿を見ていれば、何を言うことがあるだろうか。
『小さなことで心を波立たせてはいけません。いつも平穏でありなさい。悪い事を考えるのではなく、その先を読んでより良い未来を選びとる権利が貴女にはあります。
もしも、困難に直面してしまった時には一度深呼吸をして、胸に手を当て考えて見てください。きっと、貴女であれば改善策をみつけられるでしょう』
家庭教師のシモンヌ先生はいつもそうやってユリアーナの心の情緒を安定させるようにと言った。少女自身もそうしたいと思っていたのだ。
それなのに。
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