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報告と別れ
「…そう」
「はい。縁を断ち切ることになってしまい誠に申し訳ございません。」
母へディオラルドとの事を報告したユリアーナは、そっと目を伏せた。
膝に置いた手をきつく握りしめているが、何処かそれも遠くで見ているような、そんな不思議な感覚で。言葉にしながらも、まだ自分の中で現実味を帯びていないのだと、ユリアーナは思った。
「お前のせいではない。私達ももっと気をつけておくべきだったな。まさかアゼリアを…な。アヴダントはその意味が分かっているのか?」
「…リア、貴女は大丈夫なの?」
父の悔いる声と母の心配げな声に、ユリアーナはゆっくりと視線を上げた。
そのまま、悲しそうにこちらを見つめる両親と目が合った瞬間に、ユリアーナの翳った薄青色の瞳からぽろり、と大粒の涙が転がり落ちた。
「大丈夫では…ないかも、しれません。」
「リア…」
「けれど、仕方がないことです。私はディオに選ばれなかったのですから。」
ぽろぽろと涙を零しながら、ユリアーナは震える声で続けた。
「お母様…、アゼリアは、私が全てを持っていると言っておりました…。私は…外から見るとそのように見えるのですね。
この力は確かに特別なものでしょう…。けれど、だからこそ守らなければならない掟や出来ないこともたくさんあるのに。他所から見れば、ただ沢山の物を持っているように見えてしまうのですね…」
「リア…」
母に抱き寄せられて、ユリアーナはやっと声をあげた泣いた。
ユリアーナの本当の辛さを知っているのは、この伯爵家の直系である母だけだ。
聖女の直系と言われている彼女達は、このステイフィルドの土地から離れることが出来ない。ステイフィルド以外の土地では彼女達は生きて行く事が出来ないからだ。ここから出た途端に彼女達の生命はまるで蝋燭が燃え尽きるかのように消えてなくなってしまう。そしてその遺体もまるで塵のように消えてしまい、伝承にあるような繭は出来ない。
白蘭に選ばれたせいなのか。それは呪いでもあり、彼女達にとっては加護でもあった。
過去に、王族により連れ去られたステイフィルドの聖女だった何人かの子女は、そうやって生命を刈り取られた。連れ去る事でも殺す事でもその力を利用できないと知った王家は、彼女達をこのステイフィルドの土地から出る事を禁じた。そして、彼女達を外部のありとあらゆる暴力より護る代わりとして、力の提供を求めたのだ。
ディオラルドとの婚約は、ステイフィルドより離れられないユリアーナにとって結ばれるべくして結ばれた縁であったが、少女はいつしか本当に彼に恋をしていた。誰かを愛する心だけでも自由に、というささやか願いは叶うことなく。
「リア、ごめんなさい…」
「お、お母様のせいではありません…。ただとても、悲しいのです。私は愚かにも、裏切られてしまったと感じているのです…大好きな二人だったから、とても辛いだけなのです」
子どもの頃から大切だと思っていたのは、自分だけだったのか。
二人と、心を通わせられていると思っていたのは自分だけだったのか。
そう考えるとユリアーナの心はまるで嵐の夜のように激しく吹き荒れて。痛む胸をぎゅっと押さえたまま、母に抱かれた少女はただ嗚咽を堪えながら目を閉じることしか出来なかった。
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