【完結】君との約束と呪いの果て

須木 水夏

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運命の始まり

始まりの廻廊

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 私の記憶に残る一番古い記憶は、広がる青空の欠片。温かい風の吹き抜ける季節。貴方と微笑みあった花々の見事に咲き誇る、庭園での出来事。




『約束です。』

『…解った。』





 陽の光を受けて淡色の長い睫毛の間から目映いばかりに煌めく、貴方の碧い瞳。少し俯いたその頬が、照れて少しだけ赤く染っていて。

 愛しい人。恋しい人。心から大切な人。灰色だった私の世界に、温かな光をくれた人。
 
 私を救ってくれた、心優しき私の






 貴方を求めて、私はいつからこんな風に彷徨っているのでしょうか?







 










 真っ白な四角と真っ黒な黒の羅列。
 どこまでも続くそれは、ざあざあと遠くから聞こえてくる風に騒めぐ木々の音のような、波打ち際で聞く波の音のような。
 はいつもそんな何かの音で、そして突如として目の前から消えてしまう。


 音が止み、目を開けたは自分の目の前を見上げた。



 視界いっぱいに聳え立つ、左手に脈打つ心臓を持ち右手に死神の鎌を持つ大きな石像の前で、私は立ちつくしていた。
 美しい女性の、けれど冷たい表情の石のそれはどこか遠くを見つめている。何処を見ているのだろうと振り返ってみても、見えるのは雷鳴響く真っ黒な空だけだった。不思議と恐怖は感じない。過去にあんなものよりももっと。そんな気がするのだ。




(また、ここに来たのね。)





 どっちに行くのが正しいのだろう?
 左手の指す穏やかで平穏な愛される人生か、右手の示す、死線を駆け抜ける波乱の人生か。
 暫くの間選べなくて、ずっと上を見上げていた。

 どっちに行くのか迷っている理由は一つだけ。

 左に進めば、穏やかに長く愛されそれなりに幸せに生きることは出来るだろう。けれどがそこにはいない。
 右に進めば、戦に巻き込まれ若くして命を落とすが、ずっと思い焦がれているがいるのだ。




「それは繰り返し、知っている真実。」



 言葉に出してみると不思議だし、とても滑稽な事にも思える。



 一度目の人生は鮮明に覚えている。

 幼い頃に結ばれた婚約。とても優しくて素敵な婚約者様。美しい海の碧の瞳が、印象的だった、最愛の人。
 けれど、成人が近づいた頃に突如始まってしまった戦に巻き込まれた。
 否、本当は気がついていなかっただけで生まれた時からその国は脅かされていたのだろうと今になっては思う。
 自分達が存在していた護られた繭の外側の世界は、暴力と死に怯える人々が沢山居たはずなのだ。最終的には、その暴力の中へと投げ出され、死を待つしかない日々の中で、それでも自分が護りたい、傍にいたいと願った存在
 けれど結局、その人生では彼よりも長く生き残れなくて死んでしまい、目が覚めたらこの廻廊にいた。
 目の前の石像は何も言わずに、二つに別れた道の中央で、彼女に行き先を選択させようとするだけだった。
 恐る恐る左への道を選択したら、二度目の人生は、周りから愛され何にも脅かされることなく。そしてに出逢うことはなく、平穏な人生が終わった。
 でもずっと探していた。その顔も温もりも名前も忘れることなく、生きている間、ずっと彼に逢いたかった。



 そうして、またこの廻廊に辿り着いた。

 三度目にもう一度右の路を選択すると、また別の戦乱の世に送り出され、そして再びと出逢えた。
 名前を呼んだ瞬間の、彼の驚いた表情が忘れられない。そして、私の一度目の人生の名を呼んでくれた。
 その後やはり戦のせいで直ぐに死んでしまったけれど、お互いの生命が短くとも心から愛おしいと思える人だった。




 そしてまた、廻廊へと辿り着いた。

 四度目はまた左の路を選び、世界のどこかにその人がいる、絶対に見つけ出すという気持ちで世界中を旅した。色々な国を訪ね、多種多様な人々と交流し、見たことも食べたこともなかったたくさんの物事に出逢い経験を重ねた。
 それは有意義な時間であったのに結局を見つけられなくて、幸せで、けれど何処かぽっかりと心に穴が空いたまま、老衰で死んだ。


 そして五度目は続けて左の路を選んだ。一度で良いから幸せな世界で、に逢いたいと望んだから。
 その世界では地球を飛び立ち、夫々の宇宙へと人々が飛び立つのをアルプスの麓で見届けた。その頃には珍しくなっていた羊飼いを家族とヒューマロイドと共に営みながら、宙に流れる人々の軌跡を眺めていた。相変わらず心の中では、をずっと探し求めていたけれど、その前の人生よりもその衝動は穏やかなものだったように思う。けれど、忘れた事は一度もなかった。
 その人生ととても緩やかに流れ、幸福なものだった。

 そして、六度目。







「…あなたを、忘れた方が良いのだろうか。」




 ぽつりと、言葉が口から転がり落ちて地面にぶつかり散ってゆく。誰からも返事はない。




「あなたと居なくとも、私は幸せになれると。」



 最早私は知ってしまっているのだ。
 平穏な中で出逢った、あの人では無い誰かの温もりも優しさも。愛されることも、愛することも。でも。




「それでも、…どうしてあなたに逢いたいと思うのだろう。」




 逢いたい。ただ逢いたい。あなたが恋しくて恋しくて、胸が張り裂けそう。どれだけ他の人といても、埋まらない穴が心の中に空いている感覚が消せない。
 それなら。



「…もう一度、貴方に逢いに行きます。」 






 石像の右手の指す方向へと、私はゆっくりと歩き始めた。











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