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移り変わる人生
転生2度目
しおりを挟む生まれ変わった三回目の名は、アーロン。ノドリア国の辺境伯爵の第二子として生まれた。幼い頃から武術や戦い方を父である伯爵より学び、やんちゃで活発な子どもだった。
前回の人生と同様に、何かが欠けていることに対する不安感が胸の奥にずっと存在していて、夜は乳母にしがみついて時折泣いた。心配した乳母が父に相談し、武術を体得するには時期早々だったが、二歳の頃には剣の稽古が始まった。稽古が始まると、疲れてよく眠るようになり夜泣きは徐々におさまった。
今世の彼女は、サーシャという名前だった。サーシャは、家同士の関わりのある貴族の娘として生まれていた。
顔形は違えど、柔らかな光の灯る薄紫色の瞳が一度目に見た彼女のそれと同じだった事に当時は気が付かなかった。
その事には後になって気がついた。
やはり最初、僕は彼女をマリーアンヌだと認識できなくて彼女に会った時も、初めて会う人間に緊張はしていたけれど、それだけだった。けれど彼女は違った。
「…アレクセイ、様」
「……リア?」
彼女の方からそう名前を呼びかけられた時、僕は反射的にその名前を呼んだ。全く知らない人物の名前だ。
けれど、その瞬間にまた記憶が蘇った。
一度目の人生と、そして二度目の人生の分を合わせて約五十年という膨大な時間が頭の中を物凄いスピードで駆け巡り、僕は一度その場で気絶をしてしまった。
しばらく経って気がついた時、ベッドで寝かされていた僕を、目いっぱいに涙を浮かべていた彼女が見つめていた。全身が熱くて頭がぼーっとした。僕はその時まだ六歳で、医者は知恵熱だろうと言ったらしい。
僕の手をぎゅっと小さな手で握りしめていたサーシャが、僕が目を覚ましたことに気がついて人を呼びに行こうとするのを、僕は引き止めた。
「…リアなの?」
「…はい、アレクセイ様。」
「君を…あの時君を独りで死なせてしまった事を、僕はずっとずっと後悔していたんだ。」
僕の言葉に、サーシャは首を横に振った。
「…あれは仕方のなかったことです。戦争だったんですもの。
…それよりも、アレクセイ様。いいえ、今はアーロン様ですね。」
「ん?」
「ずっと、お逢いしたかったです。」
「…うん。僕も」
記憶はまるで固い殻に閉じこもった種のように僕の中に横たわり長い間芽生えることは無かったけれど、確かにマリーアンヌを探していた。物心ついた時からずっと焦燥感に駆られていたのは、彼女に逢いたかったからだと直ぐに理解した。その証拠に、世界の色が違って見えた。全てが輝いていると感じた。
サーシャは濡れていた頬を両手で拭い、僕の目を見つめながら照れたように微笑んだ。その可愛らしい笑みに、僕の胸がとくりと音を立てる。それで、彼女だけが僕の鼓動を高鳴らせる事も思い出した。
窓の外は、すっかりと暮れてしまって暗くなってしまっているが、今この時点で彼女はここに居る。聞くと、倒れて熱を出してしまったアーロンから絶対離れたくないと言って泣き喚いて駄々を捏ねたらしい。何時もは大人しく我儘を一切言わない娘のその様子に、彼女の父親は驚きながらも折れて、僕の母に娘を傍にいさせて貰えないだろうかと頼んでくれたとの事だった。
サーシャが、父親と一緒に今夜はこちらに泊まりますというのをアーロンはぼんやりと彼女の幼い顔を見ながら話を聞いていた。
「実は、…この人生の前に一度別を人生を歩んだのです。平民の娘で、小さな街で暮らしました。ずっと貴方を探していたのですが、見つけられなくて。」
「僕もだ。今はもう思い出してるよ、平民の商人の息子だった。
…待って。見つけられなかったけど、ずっと覚えていてくれたということ?」
「はい。一度も貴方様の事を忘れた日はありません。」
「…前の人生の産まれた時から?
僕を、覚えていたの?」
「はい。ずっと覚えておりました。そしてずっと探しておりましたが、見つけられませんでした…。でも漸く逢えました。」
しゅん、と悲しげにした後、今度は一転して嬉しそうに幼い少女は笑った。
その言葉に僕は戸惑い、そして。
「ごめん…。僕は前回は死ぬ直前まで君を思い出せなかった。」
「謝ることなんて何もありません!良いのです。こうしてまた出逢えたのですから。」
「…ありがとう。」
そう言って僕の手を握りしめ幸せそうに笑う少女に、アーロンとしてまた僕は恋をした。
けれど。
ずっと長い間、西の大国との小競り合いをしていた辺境は、その年の夏に攻めいられ、そして墜ちた。
攻め入った国の名は『マテア帝国』。
僕らはその争いに巻き込まれ、幼い子どものまま死んだ。
四度目に生まれ変わった時。僕はある時から心にある焦燥感の原因を探すのを辞めた。
不思議な夢を見たからだ。
深い森の中。
身体は飢え、傷つき、精神も病み。もうすぐ命の灯火が消える前の僕に、話しかけてきた者がいた。
『最後の王子様。貴方の願い事を聞いてあげてもいいわよ。』
と。
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