【完結】君との約束と呪いの果て

須木 水夏

文字の大きさ
9 / 25
移り変わる人生

魔女達の戯れ

しおりを挟む






『…本当にそう願うの?』

『……』

『本当にそれでいいの?』

『……』

『もう返事もできないかしら?
 それにしても、最期だから特別に聞いてあげようとしているのにつまらない願いね。』






 ぼんやりとの声が脳裏に蘇る。


 アレクセイの霞みゆく視界の中、目の前に立ちこちらを見下ろしていた漆黒の髪の少女はそう言って呆れたように首を傾げ、退屈そうにため息をついた。
 髪の色も目の色も、着ている服も闇よりも黒いのに、肌の色だけが異様に白く、まるで浮かび上がっているように見える。

 彼は返事をしなかったが、彼女は溜息をつきながらも尚も言葉を続けた。





「お優しい事ね、王子様。けれど知っている?優しいだけでは誰の事も救えはしないのよ?を聞くために、この時間を設けたわけではないのよ?」

「クロ。そんなこと言わずに願いを聞いてあげなさいな。」

「…まあ、貴女も優しいのね。シロ。」

「そうね。貴女よりは優しいと思うわ。」






 黒い髪の少女の向こう側から、別の少女の声が聞こえた。まだ幼く、高めな声が鬱蒼とした森の中に響いているように聞こえる。
 もう顔を動かす力もないアレクセイが、半分も開いていない目を僅か動かしてそちらを見た。
 そこに居たのは輝くような白い髪に白い目の、肌の色の黒い少女だった。黒目の全くない目でアレクセイを見ると、その少女は笑った。





「何でも良いから願いなさい、なんて貴女が言うからよ。」

「あら?王族ならもっとこう、あるじゃない。『自分だけを助けて欲しい』とか『永遠の命が欲しい』とか。そっちを想像していたのよ。」

「じゃあ、その王子様はクロが思うような王族ではなかったのね。」



 可哀想に、と小さく呟く声が続けて聞こえたが。




「でも、その願いでは確かにつまらないわね。
 もしも来世があるならだなんて。」

「本当にガッカリだわ。」

「ああ、ちなみにあるわよ来世次の命。貴方の場合は、今から私達が呪をかけるから永遠に続いてしまうかも?でも、そんなはちょっとね。」

「ねえ。つまらないわ。」

願いの副作用呪いの方を工夫するしかないわね。」

「まあ、素敵!そうしましょう!」




 クロ、と呼ばれた少女が嬉々としてその声に相槌を打った。そして、こうしましょうよ、と言う。




「来世、その娘は必ず愛されるわ。そして生涯幸せに生きる。但し、。どうかしら?」

「いいわね。もう一つどう?二人が出逢えばと。」

「まあ、それもいいわ。採用よ。」




 くすくす、と森の中に笑い声が響いた。何かを言い返す力はアレクセイにはもうとっくに無かった。言葉は尚も続けられる。




『もう一つ、追加しましょう。
 。思い出した途端に貴方の鼓動は止まるの。はいやり直し~って。
 大丈夫、貴方が願った通り彼女は幸せになるわ。安心して。』

『そうよ。あの子は幸せに生きるわ。
 貴方と出逢わなければ。
 ごめんなさいね、貴方が悪い訳では無いの。でももやられた分はやり返さねばは終わらないから。』

『怨むならどうぞご自身のを怨んでね。』




 その言葉を最後に、目の前が真っ暗になった。軽やかな、まるでお茶会を楽しんでいるかのような柔らかな少女達の笑い声だけが遠くに響いていた。





 北の魔女の森。
 随分と昔に、アレクセイの血筋の祖先が森へと追いやった、呪われた血の双子の娘。白と黒と呼ばれたその双子は怪しげな術を使い人々を惑わした、と王家に伝わる古文書には記載されていた。だからその身体に永遠に森から出られぬ呪をかけて、北の森に封印したと。


 遠のく意識の中、アレクセイは最後に見た彼女達の姿を思い浮かべた。

 その姿は、まだ年端のいかない子ども達だった。


 

 幼い子ども達を、こんな薄暗い森へと追いやり閉じ込めた、過去の王族やその周りにいた大人達の方が恐ろしい存在なのではないか。朦朧とした頭の中でそんなことを考える。
 結局、何時だって犠牲になるのは力を持たぬ弱い存在なのだ。それを分かっていながら何も出来なかった自分の不甲斐なさを、アレクセイは憎んだ。


 



(ああ、どうか。)




 それでも願ってしまった。マリーアンヌの幸せを。アレクセイと共に生きる事で、幸せだと言ってくれたあの娘の真っ直ぐな心を。
 アレクセイが守れなかった、少女の心からの笑顔を。






 全てが闇に鎖される前に、

「解けた」と。

 弾けるような笑い声が聞こえた気がした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

異母姉の身代わりにされて大国の公妾へと堕とされた姫は王太子を愛してしまったので逃げます。えっ?番?番ってなんですか?執着番は逃さない

降魔 鬼灯
恋愛
やかな異母姉ジュリアンナが大国エスメラルダ留学から帰って来た。どうも留学中にやらかしたらしく、罪人として修道女になるか、隠居したエスメラルダの先代王の公妾として生きるかを迫られていた。 しかし、ジュリアンナに弱い父王と側妃は、亡くなった正妃の娘アリアを替え玉として差し出すことにした。 粗末な馬車に乗って罪人としてエスメラルダに向かうアリアは道中ジュリアンナに恨みを持つものに襲われそうになる。 危機一髪、助けに来た王太子に番として攫われ溺愛されるのだか、番の単語の意味をわからないアリアは公妾として抱かれていると誤解していて……。 すれ違う2人の想いは?

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

処理中です...