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探さないと決めた
魔女の呪いとその果て
しおりを挟む海の音が聞こえる浜辺にて。
「…シロは優しすぎるわ。」
「あら、そうかしら?でもそうね。貴女よりは優しいと思うわ。」
「彼女に道を選ばせたわ。」
「それくらいは良いじゃない?より愛される為の選択肢よ。必要なことよね?」
目の前には、美味しそうないちごのパッフェ。スプーンを握りしめたまま、此方を睨みつける少女に、チョコレートパッフェをパクパクと食べ続けながら、不思議そうに首を傾げるもう一人の少女。
「それに、もう呪いが解けちゃったのよ…。たったの六回よ!王子は二百年も生きてないわ!」
「そうねえ、私達が森に封じられていたのは六百年だからちょっと短かったわね。」
「ちょっとじゃないわよ!1/3よ?さんぶんの、いち!それにも満たない!」
「うーん。でもほら。結果的に時は二千年くらい経ってるから、同じようなものでしょう?」
「違うわよ!あの時から二千年経ってても、その間に王子が生きてた時間は二百年もない!数百年置きに1回転生するなんて聞いてない!」
「生まれ変わりなんてタイミングだし?直ぐの時も無いことは無いけど、今回はたまたま数百年置きだったのよ。仕方ないじゃない?」
「私達はまるっと六百年生きたまま閉じ込められてたでしょう?!割に合わない~!」
「そうね。でもそこまでは管理できないもの。神のみぞ知るってやつよ。」
そう言葉を返されて。
長く黒い睫毛を憂い気に下げて、はぁ、とクロと呼ばれた女は身体中で大きな溜息を吐いた。
濡れているように艶やかな黒髪を背中に流し、両サイドに細く三つ編みをしてそれを頭の後ろで赤いリボンで結んでいる。その赤よりもワイン色に近いワンピースを身に付けていた。
白く整った顔立ちの中で熟れた林檎のように赤く色付いた唇は、面白くなさそうにひん曲がっている。その顔をしていても、とても美麗な少女だった。
以前、彼女の闇のように真っ黒だった瞳は、真昼の空のような碧色に変化していた。
「…もういいわ。面倒くさい。」
「まあ!そうよね。そう思うわ。」
「…シロって、ほんとそういうところよ。」
「ん?」
「あっさりしすぎ!」
「やだ~、ねちっこいの嫌いなんだもの。」
シロと呼ばれた少女は、朝日に照らされて銀色に輝く白髪を綺麗にひとつに結い上げている。パッフェを一瞬で食べ終わり、今では紅茶の入ったティーカップを優雅に傾けながらそう言って笑った。褐色の肌に馴染む美しい藍色のワンピースを身につけている。
彼女の真っ白だった角膜は薄く水色に色付き、虹彩は黄金に輝く星の様で神秘的だった。
二人は色は違えど、同じ美しい顏をしていた。
「クロ?やっと時間が動き出したのよ?他人なんかに構っていられないわ。そんな時間があったらオシャレがしたいでしょう?」
「…まあ、そう言われたらそうね。」
「恋、というものもしてみたいわね。」
「人間相手に?!物好きね?!」
シロの言葉に、クロは飛び上がるくらいに驚いた。自分達を長い間閉じ込めていた相手に?信じられない、とその顔は言っている。白銀髪の少女は楽しげにくすくすと笑った。
「クロもしたらいいじゃない。犬でも猫でも何でもいいのよ、愛さえあれば。」
「何でも…。何でもは良くないのでは…。」
「だって私、興味が出てしまったのだもの。」
「興味?」
シロの言葉に、クロは目をぱちくりとさせた。
「あの二人。」
「あの二人?」
ほら、とシロが浜辺で遊ぶ幼子達を指さした。三歳くらいの少年と少女が、キャッキャと楽しそうに砂を掘って遊んでいる。かと思えば、思いついたように少女が走り始め、その後を少年が追った。少年は輝くような金髪に空色の瞳、そして少女は焦げ茶色の髪に薄紫色の瞳をしていた。
「…嘘でしょう?」
「嘘じゃないのよ。」
「呪は解けたわ。縁は途切れたはずでしょう?」
「また繋がったのよ。」
「……嘘でしょう?」
「だから、嘘じゃないのよ。」
驚愕に目も口も見開くクロに、シロは首を振った見せた。
間違いない。直ぐ目の前を元気に走り回る少年は、二千年前にあの森から自分達が抜け出す為に祖先の責を負わせ、その後は二千年(実際に彼が生きたのは何度も言うように200年に満たないけど)に渡り縛っていた魂そのものだった。そして。
その隣をぴょこぴょことついていく少女は、呪われた魂が死にゆく際に、来世の幸せを心より願った存在だった。
「…あの娘。魔女だったの?」
「そうでは無いみたい。」
「じゃあなんで?!」
「『願い』。」
白い木製のテーブルに肘をつき、頬杖をしながらシロはふふ、と笑った。
「あの子、余程彼と幸せになりたかったみたいなの。何度生まれ変わっても、何度も距離が離れても。ずっとあの王子の事を覚えていて、忘れなかったのよ。彼の記憶が頭の中から消えても、ずっと。」
「…真逆。引き寄せの法則?」
「そうみたい。かれこれ2600年ちょっと生きてきて初めて見たわ。」
私も初めて見たわよ、とクロは呆然としながら口の中で言った。魔女達のかけた『呪い』よりも強い少女の『願い』は、少年を、彼の『願い』によって愛される事を確約された自分の方に引き寄せたのだ。
だから、クロとシロの呪いは解かれた。解けたのではない、彼女によって解かれたのだ。
「だからねえ、興味を持ってしまったのよ。」
「…何に?」
「人が人を愛するという気持ちに。」
「…犬でも猫でもなんでもいいんでしょ?」
「そうね、愛さえあれば。」
少女から大人へと変化し始めたばかりのように見える双子は、穏やかに打ち寄せる波の見えるカフェで、楽しそうにお喋りを続ける。
浜辺で遊んでいた幼子二人は、それぞれの両親が迎えに来て、手を繋いで帰ってゆく。その間も楽しそうに微笑みあっている姿が二人には見えた。
遠くで音楽が聴こえ、そのリズムに合わせてダンスを踊る人達を見て、クロは小さく溜息を付いて微笑み、シロは幸せそうに笑った。
まるで最初からそうであったように、穏やかな時間は流れていく。
これからは、ずっと。
『終わり』
次は番外編。魔女の双子のお話です。
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