【完結】君との約束と呪いの果て

須木 水夏

文字の大きさ
14 / 25
探さないと決めた

魔女の呪いとその果て

しおりを挟む





 海の音が聞こえる浜辺にて。




「…シロは優しすぎるわ。」
 
「あら、そうかしら?でもそうね。貴女よりは優しいと思うわ。」

「彼女にを選ばせたわ。」

「それくらいは良いじゃない?より愛される為の選択肢よ。必要なことよね?」


 目の前には、美味しそうないちごのパッフェ。スプーンを握りしめたまま、此方を睨みつける少女に、チョコレートパッフェをパクパクと食べ続けながら、不思議そうに首を傾げるもう一人の少女。




「それに、もう呪いが解けちゃったのよ…。たったの六回よ!王子は二百年も生きてないわ!」

「そうねえ、私達が森に封じられていたのは六百年だからちょっと短かったわね。」

「ちょっとじゃないわよ!1/3よ?さんぶんの、いち!それにも満たない!」

「うーん。でもほら。結果的に時は二千年くらい経ってるから、同じようなものでしょう?」

「違うわよ!あの時から二千年経ってても、その間に王子が!数百年置きに1回転生するなんて聞いてない!」

「生まれ変わりなんてタイミングだし?直ぐの時も無いことは無いけど、今回はたまたま数百年置きだったのよ。仕方ないじゃない?」

「私達はまるっと六百年生きたまま閉じ込められてたでしょう?!割に合わない~!」

「そうね。でもそこまでは管理できないもの。神のみぞ知るってやつよ。」




 そう言葉を返されて。

 長く黒い睫毛を憂い気に下げて、はぁ、とクロと呼ばれた女は身体中で大きな溜息を吐いた。

 濡れているように艶やかな黒髪を背中に流し、両サイドに細く三つ編みをしてそれを頭の後ろで赤いリボンで結んでいる。その赤よりもワイン色に近いワンピースを身に付けていた。
 白く整った顔立ちの中で熟れた林檎のように赤く色付いた唇は、面白くなさそうにひん曲がっている。その顔をしていても、とても美麗な少女だった。 
 以前、彼女の闇のように真っ黒だった瞳は、真昼の空のような碧色に変化していた。




「…もういいわ。面倒くさい。」

「まあ!そうよね。そう思うわ。」

「…シロって、ほんとそういうところよ。」

「ん?」

「あっさりしすぎ!」

「やだ~、ねちっこいの嫌いなんだもの。」




 シロと呼ばれた少女は、朝日に照らされて銀色に輝く白髪を綺麗にひとつに結い上げている。パッフェを一瞬で食べ終わり、今では紅茶の入ったティーカップを優雅に傾けながらそう言って笑った。褐色の肌に馴染む美しい藍色のワンピースを身につけている。
 彼女の真っ白だった角膜は薄く水色に色付き、虹彩は黄金に輝く星の様で神秘的だった。

 二人は色は違えど、同じ美しい顏をしていた。





「クロ?やっと時間が動き出したのよ?他人なんかに構っていられないわ。そんな時間があったらオシャレがしたいでしょう?」

「…まあ、そう言われたらそうね。」

「恋、というものもしてみたいわね。」

「人間相手に?!物好きね?!」



 シロの言葉に、クロは飛び上がるくらいに驚いた。自分達を長い間閉じ込めていた相手に?信じられない、とその顔は言っている。白銀髪の少女は楽しげにくすくすと笑った。



「クロもしたらいいじゃない。犬でも猫でも何でもいいのよ、愛さえあれば。」

「何でも…。何でもは良くないのでは…。」

「だって私、興味が出てしまったのだもの。」

「興味?」


 シロの言葉に、クロは目をぱちくりとさせた。


「あの二人。」

「あの二人?」



 ほら、とシロが浜辺で遊ぶ幼子達を指さした。三歳くらいの少年と少女が、キャッキャと楽しそうに砂を掘って遊んでいる。かと思えば、思いついたように少女が走り始め、その後を少年が追った。少年は輝くような金髪に空色の瞳、そして少女は焦げ茶色の髪に薄紫色の瞳をしていた。





「…嘘でしょう?」

「嘘じゃないのよ。」

「呪は解けたわ。縁は途切れたはずでしょう?」

「また繋がったのよ。」

「……嘘でしょう?」

「だから、嘘じゃないのよ。」




 驚愕に目も口も見開くクロに、シロは首を振った見せた。
 間違いない。直ぐ目の前を元気に走り回る少年は、二千年前にあのから自分達が抜け出す為に祖先の責を負わせ呪いを返し、その後は二千年(実際に彼が生きたのは何度も言うように200年に満たないけど)に渡り縛っていた魂そのものだった。そして。
 その隣をぴょこぴょことついていく少女は、呪われた魂が死にゆく際に、来世の幸せを心より願った存在だった。



「…あの。魔女だったの?」

「そうでは無いみたい。」

「じゃあなんで?!」

「『願い』。」



 白い木製のテーブルに肘をつき、頬杖をしながらシロはふふ、と笑った。



「あの子、余程彼と幸せになりたかったみたいなの。何度生まれ変わっても、何度も距離が離れても。ずっとあの王子の事を覚えていて、忘れなかったのよ。彼の記憶が頭の中から消えても、ずっと。」

「…真逆。引き寄せの法則?」

「そうみたい。かれこれ2600年ちょっと生きてきて初めて見たわ。」



 私も初めて見たわよ、とクロは呆然としながら口の中で言った。魔女達のかけた『呪い』よりも強い少女の『願い』は、少年を、彼の『願い』によって愛される事を確約された自分の方に引き寄せたのだ。

 だから、クロとシロの呪いは。解けたのではない、彼女によってのだ。






「だからねえ、興味を持ってしまったのよ。」

「…何に?」

「人が人を愛するという気持ちに。」

「…犬でも猫でもなんでもいいんでしょ?」

「そうね、愛さえあれば。」







 少女から大人へと変化し始めたばかりのように見える双子は、穏やかに打ち寄せる波の見えるカフェで、楽しそうにお喋りを続ける。
 浜辺で遊んでいた幼子二人は、それぞれの両親が迎えに来て、手を繋いで帰ってゆく。その間も楽しそうに微笑みあっている姿が二人には見えた。

 遠くで音楽が聴こえ、そのリズムに合わせてダンスを踊る人達を見て、クロは小さく溜息を付いて微笑み、シロは幸せそうに笑った。

 まるで最初からそうであったように、穏やかな時間は流れていく。
 これからは、ずっと。







 












『終わり』









 次は番外編。魔女の双子のお話です。
 
 



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

【完結】誕生日に花束を抱えた貴方が私にプレゼントしてくれたのは婚約解消届でした。

山葵
恋愛
誕生日パーティーの会場に現れた婚約者のレオナルド様は、大きな花束を抱えていた。 会場に居る人達は、レオナルド様が皆の前で婚約者であるカトリーヌにプレゼントするのだと思っていた。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

お飾りの私と怖そうな隣国の王子様

mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。 だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。 その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。 「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」 そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。 いつかこの日が来るとは思っていた。 思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。 思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。

処理中です...