【完結】え、別れましょう?

須木 水夏

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贈り物





 父が喜び勇んで快諾の手紙を出した後、アシェル・ランドーソン男爵名義にて荷物が届けられたのはその二日後だった。

 それはアリエット宛だったので、家令よりそのまま少女付きの侍女へと手渡され、そして今現在アリエットの部屋のローテーブルの上へと置かれている。
 その前で、少女は腕組みをしてその物体を顰め面で見つめていた。



(うーん、どうしよう)




 第一に、夜会のパートナーは引き受けたが、アシェルに何かを贈ってもらうような仲では無い。
 第二に、アシェルという人物が何の意図でこの目の前の物体を送ってきたのか全く読めない。
 第三に、怖い。何が入っているのだ、これ。想像が出来ないから恐怖を感じるんだけど。




「…悩んでいても仕方ないわね」




 苦虫を噛み潰したような顔で呟きながら、アリエットは箱に手を伸ばした。一応、家令が中身を確認していてその上で少女の元へと到達しているのだから、危険なものでは無いはずだ。多分。恐らく。…うん。


 白い光沢のある箱の上蓋をそっと持ち上げると、一番最初に見えたのは光沢のあるペーパークッションに包まれた四角い何かと、水色の封筒エンベロープだった。

 封筒をひっくり返すと、男爵家の家紋の入った封蝋が押してある。威厳を表わす白百合と、薬草を表わす蔦で構成されている。
 封筒を手に取り光に透かしてみても何も見えるわけも無かったので、アリエットはペーパーナイフでそっと封を切った。
 中に入っていたのは、白線で描かれた優美な蔦模様で囲われたメッセージカード。





『アリエット・ティンバーランド様


 この度は私の不躾な誘いに、快くパートナーを引き受けてくだりありがとうございます。
 ささやかな物ですが、当日是非身につけて頂ければ、心より嬉しく思います。

 夜会の日を楽しみにしております。


       アシェル・ランドーソン』






「…流麗な文字だわ。」



 それが一番最初の感想だった。
 そういえば、生徒会の仕事をしている時に彼の書いた数字を見たことがあったが、その時も見た目通りの文字だなと感心した事を思い出した。
 次にもう一度文字に目を通して、意味を考える。快く引き受けた記憶はないんだけど、恐らく父がのだろう。娘はとても喜んでいますとか何とか言って。



「ささやかな、物」


 
 ささやか、という言葉を頭の中で呟きながら、アリエットは手に持っていたカードを一度机の上に置くと、箱の中の紙をぺらりと捲った。
 そこにあったのはもう一つの重厚な箱だった。箱の中に箱?と思いながらも、手前に着いている留め金を恐る恐る外して木の上蓋をさらに開けた。

 カタンと音がして開いた箱の中、白いベルベットの台座に、美しく煌めく銀細工の髪飾りと同じく銀細工のピアス、ネックレスが埋め込まれるように美しく配置されている。

 それぞれ、大小の大きさをした空色を映した氷のような宝石と深く青いセルリアンブルーの宝石がバランス良く配置されていて。
 アリエットはそのキラキラと輝く物体を凝視した後、そのまま蓋を閉じ紙を元通りの位置に戻した。




「…ささやか?」




 ささやかってなんだっけ?



 ランドーソンは男爵家。男爵家ではあるが、薬学や研究などの形ある実績で王家の寵を欲しいままにしていることは知っている。
 それに伴い、莫大な金額の予算が組まれ、それを元手に更に研究に邁進し資金を得たかの領地が潤っている事も勿論アリエットは知っている。
 寧ろ学園の歴史の授業で習う。それくらいには我国の有名人である。同世代の女の子達は一度は夢見るのだ。いいな、ランドーソン家のような由緒もお金もあるお家に嫁ぎたいなと。(アリエットは婚約者がいたので思ったことは無かったけれど)
 話がズレてしまったけれど。




「…待って。」



 
 もしかして見間違いだったのかもしれないと、アリエットは思った。そして、もう一度パッと蓋を開けてみる。

 しかし何度覗き込んでも、そこに装飾品は煌びやかに柔らかく輝きながら存在していた。

 セルリアンブルーの宝石は実物は遠くからしか見た事はないが、恐らくブルーダイヤモンドだろう。王女様の成人の式典で、王冠に着いているものと同じ輝きをしている。
 そしてその色よりも薄く透き通る宝石はブルートパーズ、もしくはパライバトルマリン。
 アリエットの頭に思い浮かんでいるそれらの宝石は全てがかなり高価な物だ。プラチナを使った繊細な細工なんて。王都の一等地を余裕で買えるんじゃないかしら。そんな事を考え始めてしまうとダラダラと冷や汗が身体中から吹き出してきた。
 他人から贈り物を貰ってこんなに肝が冷える気持ちになったことはなかった。むしろ初めてのことだ。

 パートナーに与える物としては破格過ぎるから、もしかしたら全てイミテーションかも。そうであって欲しい。もしかして、これも嫌がらせの一環?そうなの?

 …ああ、全然分からない。

 アリエットは暫くうろうろと室内を歩き回った後立ち止まり、もう一度贈り物を振り返った。
 




「ダメだわ、これ。こんなもの、貰えるわけない。本人に聞かなきゃ。」
 
 
 






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