婚約破棄から始まる4度の人生、今世は隣国の王太子妃!?

緋水晶

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侯爵令嬢の企みを明かしました

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「モンドレー侯爵令嬢の狙いはこうです。まず私と仲良くなったマリー様に『巷ではこんな噂がある。もしアンネローゼ様がなにも知らずに貴女の身代わりとして嫁いできたのであれば彼女が可哀想ではないか』というようなことを暗に匂わせながら正しい意味を教えず伝え、彼女の口から私の耳に入るようにする」
「……仰る通りのことを言われましたわ」
「そうでしょうね。次に私がマリー様の言葉の意味を問う。その際マリー様に聞くか侍女に聞くかはわからないでしょうけど、仮に侍女に聞けばその場で本来の意味が発覚し、私が激怒する」
「……するか?」
「さあ?ですが少なくともモンドレー侯爵令嬢は激怒する人間でしょう。だから彼女は自分の感覚のままに私がマリー様に怒り、彼女に処罰を与えると考えた」
途中マリー様の同意や殿下の問いかけなどがあったが、彼女の行動の理由を詳らかにしていくと、どんどんとマリー様の表情が暗くなる。
モンドレー侯爵令嬢の企みに気づけなかったことを考えれば「彼女は悪くない」とは言えないが、少なくとも利用されただけだということはわかっているから、彼女を罰する気など私にはさらさらないのだが。
「あの、それはわかるのですが、その場合、失脚するのはマルグリット様だけでは…?」
するとおずおずと手を挙げながらジスが私に質問を投げかける。
なるほど、彼の顔は『途中までわかったものの、真意までは解き明かせなかった者』の顔だったのか。
どこまでも中途半端な男だな。
「本当にそうお思いですか?」
私は自分の中で彼の評価をさらに下げながら問い返した。
彼はその声に若干の怯えを滲ませながらも「え、ええ…」と頷いたが、それを聞いた私はため息を吐き、殿下はまた天を仰いだ。
『ジェラルド殿下に天を仰がせ大会』を開いたら、優勝は間違いなくこの男だろう。
準優勝は私な気もするが、さておき。
「マリー様が殿下の元婚約者で、私が現婚約者、そしてマリー様は大国の公爵令嬢、私は小国の侯爵令嬢。その関係を含めて考えてみても、それは変わりませんか?」
私の再度の問いかけに、彼は今度は「あ」と小さく声を漏らして目を見開いた。
考えは浅いが馬鹿ではないのか。
マリー様も今度こそ理解した様子だが、彼女の場合はおっとりした性格と、自分の立ち位置をいまいち正しく理解していないせいだということが大きい気がする。
「おわかりいただけたようですね。小国の侯爵令嬢に過ぎない私が現婚約者として元婚約者ではあるものの大国の公爵令嬢のマリー様に何かをすれば、現状ではマリー様が優先して守られることとなるでしょう。しかし私がマリー様に言われた言葉を口にした瞬間、その形勢は逆転します。元婚約者が現婚約者にとんでもない内容の根も葉もない噂を聞かせたのですから」
「……っ」
「殿下たちの婚約破棄の理由を知らない多くの人たちはそれをマリー様の嫉妬故と捉えるでしょう。まして内容が醜聞ともなれば怒った私に自分を襲わせようと考えて画策したのだと推測されかねない。そして私がこの件でオークリッドを去ろうものなら、マリシティはもちろん周辺諸国はこれ幸いとオークリッドやジェラルド殿下を責め立てるでしょうね。小国だからとマリシティを侮った傲慢な大国として」
私がモンドレー侯爵令嬢の策が成った場合に今後起きたであろうことを口にする度にマリー様とジスの顔色が悪くなっていく。
知らず知らずのうちに自分たちの行動が国の危機を招いていたのかもしれないのだから無理もない。
今後はこの経験を活かしてほしいものだ。
「さてそうなった場合、では一体誰が王太子妃の位に座ることになるのでしょう。国内には目ぼしい貴族令嬢もおらず、国外からは望めないその状況で、座れる人間は限られています」
「まさか!?」
「やっぱりそういうことですか…、くそっ!!」
「そのまさかですわ。実に回りくどい方法ではありますが、彼女はそうして王太子妃の椅子を手に入れようとしたのです」
私がそう断言すれば、部屋にはしばしの間沈黙が満ちた。

まだ話を聞かねばならないために家に帰すわけにはいかないが、目に見えて顔色を失っていたマリー様を別室で休ませることにした私は彼女を移動させるよう侍女に指示を出す。
すぐにエルがマリー様の侍女と共に部屋を出て行った。
それを見届けた私はすっかり冷めてしまった紅茶を一口啜り、殿下に向けて口を開いた。
「さて、今回の件についてですが」
「ああ」
殿下も重々しく頷いて私の言葉を待つ。
ジスは殿下の後ろで険しい顔をしていた。
「私は事を公にするつもりはありません」
「だろうな」
「ちょっと待ってください!」
私が静かにそう言えば殿下は頷き、後ろのジスは納得がいかないと声を荒げた。
「おかしいでしょう!?侯爵家の令嬢とはいえ、未来の王太子妃と公爵令嬢を陥れようとしたのに何のお咎めもないなんて!」
彼は慌てたように両手をブンブン振りながら力説するが、私に言わせれば「お前が言うな」である。
自分がまんまと企みにハマってしまったことで彼女への怒りが強いのだろうが、さりとて事はそう簡単なものではない。
「ですが残念ながら、今回のこれは状況証拠からの推測に過ぎない上に、実際には何も起こっていないのだから彼女を罰するための罪もない状況なのですよ」
「はっ!?」
「だってそうでしょう?私がマリー様の言葉の意味を正確に理解してしまって、でも伝言役にされただけのマリー様がその意味をわからないまま口にしたのだということもわかっていて、その状況で私は彼女に事情を聞いたから全てがモンドレー侯爵令嬢の企みだと推測したけれど、そこには何の証拠もなければ罪もないのですよ?」
「そんな!?」
「まあ多少は騒ぎになりましたからその責任の所在を噂話を広めたモンドレー侯爵令嬢に求めてもいいのですが、その場合は恐らく彼女のお父様が出てきて何もなかったことにするか、悪くすれば言いがかりをつけたと私やマリー様を糾弾するでしょう。であれば事を大きくするのは悪手です」
「くっ……」
ジスは余程悔しいのか顔を歪めギリギリと歯を食いしばっている。
けれど私の言った意味を理解してもいて、それを打開できないかと考えているようだ。
「まあ、あの侯爵がどう出るかはわからないが、それで?君はどうするつもりなんだ?」
「どう、とは?」
「君のことだ、このままで終わらす気などないのだろう?」
だが殿下はこの短期間のかかわりの中でも私のことをよく理解してくれていたようだ。
少しだけ薄い唇をにやりと笑みの形に歪ませながら私に問い掛ける。
「当然ですわ」
だから私もにやりと笑って返した。
思った以上に私たちは似た者同士で、お似合いなのかもしれない。
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