婚約破棄から始まる4度の人生、今世は隣国の王太子妃!?

緋水晶

文字の大きさ
42 / 80

女三人寄れば姦しいというけれど、おっさん四人寄れば…

しおりを挟む
その夜。
コンコンコン
「アンネローゼ、ちょっといいか?」
何の前触れもなくジェラルド殿下が部屋を訪ねてきた。
もう侍女は下がらせているので部屋には私以外誰もいない。
音が響かないように注意しながらそっと扉を開けた。
「こんな時間にすまないな」
「いえ、それは構わないのですけれど…」
中へ入るよう手で示しながら体をずらし殿下を招く。
そして日中に陛下を通したソファに殿下を座らせ、まだ暖かかったお湯でお茶を淹れた。
「どうぞ、少し温いかもしれませんが」
「いやなに大丈夫だ」
殿下はくぴりと一口飲むと「陛下…父から今日の話は聞いた」とため息混じりに話を切り出す。
私はごふっと噎せかけたが何とか紅茶を飲み下し、「さ、左様ですか…?」と引き攣った笑みを殿下に向けた。
「ああ。あの人はなんとも楽しそうに君のことを語っていたよ」
そう言い、殿下は再び紅茶を口に含んで、そのまま一気に飲み干した。
殿下は猫舌ではないと思うが、もしかしたら温めの紅茶の方が飲みやすいのかもしれない。
「もう一杯お淹れしましょうか?」
「いや、……ああいや、やはりもう一杯頼む」
「はい」
殿下はおかわりを問う私に一度否やを返そうとしたが頭に手を当てると思い悩むように二杯目を依頼した。
勿論思い悩んだ内容はおかわりについてではない。
だが私は陛下との会話を思い出しつつ、何かそこまで殿下を悩ませるような話をしただろうかと振り返った。
『…そちは不思議よな。女に興味がないと思っていたジェラルドがすぐに結婚を申し込んだかと思えば偏屈で気難しいモンドレー侯爵や珠姫までがいとも簡単に手懐けられた』
『いえ、手懐けただなんて』
『なによりもそこに控えるマイラがすぐに姫を認めたことに一番驚いたわ』
『……え?マイラ?』
『へ、陛下!!』
『はっはっはっ、こやつは私などより余程あれと関わっておるからな。マルグリット以外の令嬢に対しては我が子を守る獣の母が如き勢いで睨みを利かせておった。そのマルグリットとて認められるのに5年はかかったというのに』
『……そんなにはかかっておりません。精々4年10ヶ月くらいです』
『いやそれほとんど一緒じゃないかしら』
なんて会話をしたくらいしか思い出せない。
なにせ陛下は忙しい。
元々予定に組まれていなかったのだから分刻みの予定の中で15分も時間が取れたことの方が奇跡だ。
だから殿下が頭を悩ませる理由はこの中にあると思うのだが…。
「君に会った後、父は私とモンドレー侯爵、ライスター公爵、そしてイツアーク伯爵と会議をする予定だった。だが」
私の頭の中の疑問に答えるように殿下が話を続ける。
次第にその顔は苦虫を噛み潰したようなものへと変わっていった。
『ジェラルドよ、お主いつまで姫と部屋をわけておく気だ?』
『……は?』
『マルグリットのように不都合があるわけでもなし、いつまでも姫に淋しい思いをさせるのはどうかと思うが』
『いや、あの、陛下?突然何を』
『そうですな。いや私共も失念しておりました。相思相愛にて結ばれた二人ならば何の不都合もない、今日は無理でしょうが明日にでもアンネローゼ様には殿下の隣室に移っていただきましょう』
『モンドレー侯爵!?』
『なるほど、さすれば我が娘も後顧の憂いなくハリス殿と結婚出来ましょう。伯爵もそう思われませんか?』
『然り。我が娘など自分がアンネローゼ様の御子の家庭教師になるのだと今から教材を見繕っておりますよ』
『おや気が早い』
『なんの、早めに準備して悪いことなどありますまい』
『『『『はっはっはっ』』』』
「…なんて会話をして、今日の会議は終わったよ」
「はぁ、それはまた…」
項垂れる殿下から4対1の状況でゴリ押しされるように決まった部屋の移動について説明されるが、私の頭はまだ話を理解できていなかった。
殿下の隣の部屋に移動するということについて問題はない。
結婚すればそうなる予定なのだし、早まることに対して異議などない。
では殿下のこの様子の原因は何だと考えた時、ふと頭にある言葉が蘇った。
『我が娘など自分がアンネローゼ様の御子の家庭教師になるのだと今から教材を見繕っておりますよ』
それはイツアーク伯爵が言った言葉だったそうだが、私はこれの何に引っ掛かったのか。
単に自分の名前が出てきたからではない。
「……『おこ』?」
その言葉が意味するところはなんだっただろうか。
『お』はきっと御だろう。
では『こ』は……。
まさか。
「ああ。つまり4人は寄って集って俺と君に早く世継ぎを成せとせっついて来ているということだ」
何度目かもわからないため息と共に吐かれたその言葉で、私はようやく何故殿下がこんなにも動揺しているのかを理解した。
その瞬間上げそうになった悲鳴を喉で止めたことを誰か褒めて。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ

猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。 当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。 それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。 そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。 美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。 「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」 『・・・・オメエの嫁だよ』 執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

処理中です...