婚約破棄から始まる4度の人生、今世は隣国の王太子妃!?

緋水晶

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二人からの謝罪

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「大変申し訳ございませんでしたー!!」
「伏してお詫び申し上げますぅー!!!」
城中に響かんばかりにそう叫んだ二人の令嬢が今私の前で床に額を擦り付け這いつくばっている。
所謂土下座というものだが、生憎と私は令嬢の土下座を眺めて悦に入る趣味はない。
「モンドレー侯爵令嬢、シスナ伯爵令嬢、それはもう何度も聞きましたわ。いい加減お顔を上げてくださいません?」
だから目の前の二人、メアリーとミンディにやめるように言ったのだが、私もどうしたものかと戸惑っていた。
先日謹慎が解けた彼女たちは今日、マリー様を使って私たちを追い落とそうとした件の謝罪をと私の元を訪れていた。
当然マリー様にも声をかけたが生憎都合がつかなかったそうで、私だけが彼女たちの謝罪を受ける羽目になったわけだが。
「そういうわけには参りません!!」
「どうぞ気が済むまで私たちを罰してください!!」
これである。
発端は彼女たちとはいえ、追い詰めて罪を明らかにし、結果的に罰を与えたのは紛れもなく私だ。
正直逆恨みだとしても今後恨まれ続けるくらいは覚悟の上だった。
とはいえ彼女たちは謹慎という相応の罰を受けたのだから私の方にはもう思うところはない。
精々が禍根の残る令嬢というだけで、私からは何をするつもりもないのに。
「そんなところにいては足が痛いでしょう?話ならこちらで聞くから」
「いえ、それには及びません!!」
「私たちのような者には床が似合いですから!!」
けれども彼女たちは納得しない。
そんなに罰を受けたいなら与えてあげましょうかと言いたくなるが、きっと彼女たちは私に直接罰せられることで許されたいとでも考えているのだろう。
目に見える形でしか人の気持ちを推し量れないのね。
普通なら再三に亘る私からの要望を断り続ける方が顔を上げるより余程不敬になると思うのだけれど、彼女たちの中ではそうではないらしいし。
……ああもう、正直凄くめんどくさいわ。
「いいから顔を上げなさいと言っているの。私の言うことが聞けないのかしら?」
私が敢えて苛立たしげな声でそう言った途端、二人は弾かれたように顔を上げた。
ようやく許してもらえるという思いと、何を言われるのだろうという恐怖。
それらが入り混じった顔は青褪めていて、唇もぶるぶると震えていて、目はまるで怯えた猫のようにまん丸になっていた。
けれど苛立った棘のある声音とは裏腹に苦笑している私を見て、
「うびゅぅぅうううぅぅぅ~…」
「ふぐううううぅぅぃぃ~…」
今度は二人揃って泣き崩れてしまった。
しかも高位貴族の令嬢にあるまじき声で。
ここにルード様がいらっしゃらなくてよかったわね。
「お二人ともいい加減にちゃんとなさいませ」
「メアリーもシスナ伯爵令嬢もそろそろ不敬が過ぎるぞ」
でもそんな彼女たちにあっさりと厳しいことを言えてしまう、二人の友人であるアゼリアとメアリーの父であり二人の引率責任者でもあるモンドレー侯爵はこの場にいらっしゃるのよね。
そしてこの二人は私よりも何倍も険しい目で彼女たちを見ているのだ。
だからメアリーとミンディが怯えているのは二人のせいでもあると思う。
ていうかアゼリアはどちらかというと彼女たちの側だったのでは。
「違います。あれは侯爵からの依頼でこの二人が大きなやらかしをする前に止める役で傍にいただけであって、あんな稚拙な作戦に賛同していたわけではございません」
「うぐ、だから表情を読まないでと」
「失礼しました」
そう考えているとアゼリアはいつもの如く私の表情から声に出していない言葉を先読みしてつんと澄ましながら言葉を返してくる。
これから先一体私は何度それに呻くことになるのだろうか。
「あ、でもアゼリアだってアンネローゼ様のお人柄を知るいい機会だからって言って、なかったかもしれないわごめんなさい睨まないで」
しかしミンディのアゼリアのひと睨みで引っ込めてしまったこの言葉を聞いて思い出した。
そういえばこの子、確かにあの時そんなことを言っていたわ。
「否定はしません。けれどお陰で我が主たるアンネローゼ様の為人を知ることができましたので、私にとっては大変有意義でした」
「あ、そう…」
怪訝の目を向ければアゼリアはむしろ胸に手を当て誇ったように言う。
別にいいけれど、表情を読むなという私の言葉は早々に無視されているようね。
「それで言えば私とてそうですな。あの件がなければ私は当家の罪にも気づかず、娘可愛さにアンネローゼ様と殿下の仲を引き裂いていたやもしれません」
「そうかしら?」
そして隣の侯爵もアゼリアに同調する。
うんうんと頷いているが私としては疑問だ。
あんなにルード様に対して厳しい侯爵が、果たしてその相手に可愛い娘を嫁に出すだろうか。
「そうですね。殿下にアンネローゼ様は勿体なくともメアリー様くらいであれば丁度いいでしょうから」
そう思っているとまたもやアゼリアが表情を読んで答えを返してくる。
その行いにも返答内容にももう指摘する気にはなれなかった。
だってアゼリアだし。
というか、そういえばあの件が発端となって私やルード様の巻き戻りの調査が格段に進んだのだ。
それに対してはむしろ礼をしなければならないくらいなのだから、やはりもうこれ以上の罰を彼女たちに望むことはない。
放っておいてしまった二人を見れば、嗚咽は止まっているもののまだ涙は止まり切っていなかった。
泣いたことで赤くなった頬がなんだか幼子のようで妙に可愛らしく見える。
「ねぇ、貴女たちは私に罰を与えられたいのよね?」
その顔が頑是ない子供がいたずらをして叱られた後のようだと言ったら彼女たちはなんて言うのだろう。
「ひゃ、ひゃいっ!」
「おおおお、お気の済むよう…」
少なくとも今みたいに私の言葉一つでガタガタ震えるようなことにはならないのではなかろうか。
「それなら、貴女たちへの罰は」
それに、私だってできることなら禍根なんて残したくないもの。
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