54 / 80
賑やかになりました
しおりを挟む
「今日からお世話になります、メアリアナ・モンドレーですわ」
「ミンディ・シスナと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
翌日、メアリーとミンディは再び私の前に立っていた。
しかし昨日とは違いドレスではなく、お仕着せと呼ばれる服を着ている。
それは彼女たちの向かいに立つマイラやエル、リリと同じ衣装だ。
「カーマイラ・イルネージュです」
「エルルカ・ニールセンです」
「リーミリア・ククリカーナです!」
「家名でおわかりの通り私は伯爵家、エルは子爵家、リリは侯爵家の出ですが、ここでは実家の爵位に関係なく仕事が割り振られますのでそのつもりで。よろしいですね」
「はい」
「はい!」
マイラたちがそれぞれ名乗り、長としてマイラが締める。
それに二人が力強く頷き背筋を伸ばした。
「ではこれよりお二人のことはメアリーとミディと呼ばせていただきます」
「ここにいる間はただのメアリーとミディとして頑張ってくださいねー」
エルとリリも先輩として二人に優しく声をかけている。
エルはともかくリリは少し心配に思っていたが、二人に接する態度を見る限りは頼もしい先輩にしか見えない。
それが今だけの魔法でないことを祈ろう。
「承知しました」
そしてこの二人の殊勝な態度も。
まだまだ始まったばかりだから油断はできないけれど、私がどうこう言うことでもないだろうし気長に見守ることにする。
それにしても。
「そういえば私、三人の家名を初めて聞いたわ」
というか本名を初めて聞いた。
侍女は貴族子女が多いから元の爵位に左右されないよう普段から本名を隠してはいるのは知っていたけれど、今みたいに本名を名乗られたら名乗り返すのが礼儀ではなくとも当たり前のはずなのに。
「あ、そういえばそうでしたね」
リリがハッとしたように口元に手を当てる。
次いでエルもオロオロと目を彷徨わせる。
そしてマイラがキリッとした顔をして言うことには。
「すみません、初対面時はアンネローゼ様の為人がわからなかったので隠すよう私が指示しました。今さらですがお叱りは私がお受けします」
「いえ怒ってはいないのだけれど…、ええっと、それはつまり」
「はい。アンネローゼ様のことを殿下を誑かした女狐の可能性があると思い警戒しておりました。殿下からは婚約破棄をされたばかりの侯爵令嬢としか紹介されておりませんでしたし、城へのお招きも常軌を逸した早さでしたから」
ということらしい。
つまりは全てルード様のせいか。
そりゃこちらの侍女の手配が間に合わないくらいの早さで来たものね、疑いたくもなるわよ。
「実際に殿下との様子を傍で拝見して直接お話しをしてみましたら、そんな疑念を一瞬でも抱いていた自分が恥ずかしくなりました。しかしすぐに訂正すればよかったものをおしゃべりが楽し過ぎてうっかり正式な名乗りを忘れ、そのまま今に至ったのです。申し訳ございません」
マイラが頭を下げると、エルとリリも合わせて「申し訳ございませんでした」「すみませんでしたー!!」と頭を下げた。
まあそういう事情なら私からは特に何も言うことはない。
だって主君を思ってのことだもの、文句なんか言えないわ。
「私は怒っていないから。むしろ三人がいなかったらこんなに楽しく過ごせなかったんだもの、貴女たちには感謝しかしてないわ」
だからこれからもどうぞよろしくねと私が微笑みながら三人の手を取れば、
「なんてお優しい…」
「私たちもあの中に加えていただけるのかしら…」
メアリーとミンディ改めミディが呆けたような顔で私たちを見ていた。
そういえばマリシティにいた頃から侍女に甘過ぎると注意されていたっけ。
でも私のお世話をしてくれる彼女たちによくしたいと思うのはそんなに変なことかしら?
「当たり前じゃない。見習いとはいえ、貴女たちはもう私の侍女なんだもの」
二人の呟きに私はそちらに向き直ってちゃんと答える。
こんな形で侍女にされて不満かもしれないけれど、彼女たちも私の侍女になるなら大切にしたい。
ルード様とのことで今後絶対に迷惑をかける自信があるし。
なのに二人は感極まったように両手を胸の前で組むと「ありがとうございます」と言って再び涙を流し始めた。
大袈裟だなあと思わないでもないが、それだけ私からどう扱われるかが不安だったのだろう。
これで誤解が解けてくれればいいな。
「そうですね。まずはアンネローゼ様をよく知るところから始めていただきましょうか」
「あ、それならお衣装や装飾品の確認をしてもらったらいいんじゃないですかぁ?」
「そうね。アンネローゼ様のお好みやお似合いになるものを知るのは侍女の嗜みですから」
マイラが泣く二人の肩に手をかけて言うと、その後ろからリリが笑顔で人差し指を立て提案し、エルが頷いている。
メアリーとミディは仲が良いけれど、この三人も仲良しよね。
話しがまとまり、これから本格的に侍女修業が始まるようだと感じた私はソファに座って少し冷めたお茶を啜った。
マイラに掴まれたメアリーとミディの肩がみしぃっと嫌な音を立てていたことも、リリの笑顔に暗い影が差していたことも、エルがちっとも笑っていなかったことにも気がつかないままで。
「ミンディ・シスナと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
翌日、メアリーとミンディは再び私の前に立っていた。
しかし昨日とは違いドレスではなく、お仕着せと呼ばれる服を着ている。
それは彼女たちの向かいに立つマイラやエル、リリと同じ衣装だ。
「カーマイラ・イルネージュです」
「エルルカ・ニールセンです」
「リーミリア・ククリカーナです!」
「家名でおわかりの通り私は伯爵家、エルは子爵家、リリは侯爵家の出ですが、ここでは実家の爵位に関係なく仕事が割り振られますのでそのつもりで。よろしいですね」
「はい」
「はい!」
マイラたちがそれぞれ名乗り、長としてマイラが締める。
それに二人が力強く頷き背筋を伸ばした。
「ではこれよりお二人のことはメアリーとミディと呼ばせていただきます」
「ここにいる間はただのメアリーとミディとして頑張ってくださいねー」
エルとリリも先輩として二人に優しく声をかけている。
エルはともかくリリは少し心配に思っていたが、二人に接する態度を見る限りは頼もしい先輩にしか見えない。
それが今だけの魔法でないことを祈ろう。
「承知しました」
そしてこの二人の殊勝な態度も。
まだまだ始まったばかりだから油断はできないけれど、私がどうこう言うことでもないだろうし気長に見守ることにする。
それにしても。
「そういえば私、三人の家名を初めて聞いたわ」
というか本名を初めて聞いた。
侍女は貴族子女が多いから元の爵位に左右されないよう普段から本名を隠してはいるのは知っていたけれど、今みたいに本名を名乗られたら名乗り返すのが礼儀ではなくとも当たり前のはずなのに。
「あ、そういえばそうでしたね」
リリがハッとしたように口元に手を当てる。
次いでエルもオロオロと目を彷徨わせる。
そしてマイラがキリッとした顔をして言うことには。
「すみません、初対面時はアンネローゼ様の為人がわからなかったので隠すよう私が指示しました。今さらですがお叱りは私がお受けします」
「いえ怒ってはいないのだけれど…、ええっと、それはつまり」
「はい。アンネローゼ様のことを殿下を誑かした女狐の可能性があると思い警戒しておりました。殿下からは婚約破棄をされたばかりの侯爵令嬢としか紹介されておりませんでしたし、城へのお招きも常軌を逸した早さでしたから」
ということらしい。
つまりは全てルード様のせいか。
そりゃこちらの侍女の手配が間に合わないくらいの早さで来たものね、疑いたくもなるわよ。
「実際に殿下との様子を傍で拝見して直接お話しをしてみましたら、そんな疑念を一瞬でも抱いていた自分が恥ずかしくなりました。しかしすぐに訂正すればよかったものをおしゃべりが楽し過ぎてうっかり正式な名乗りを忘れ、そのまま今に至ったのです。申し訳ございません」
マイラが頭を下げると、エルとリリも合わせて「申し訳ございませんでした」「すみませんでしたー!!」と頭を下げた。
まあそういう事情なら私からは特に何も言うことはない。
だって主君を思ってのことだもの、文句なんか言えないわ。
「私は怒っていないから。むしろ三人がいなかったらこんなに楽しく過ごせなかったんだもの、貴女たちには感謝しかしてないわ」
だからこれからもどうぞよろしくねと私が微笑みながら三人の手を取れば、
「なんてお優しい…」
「私たちもあの中に加えていただけるのかしら…」
メアリーとミンディ改めミディが呆けたような顔で私たちを見ていた。
そういえばマリシティにいた頃から侍女に甘過ぎると注意されていたっけ。
でも私のお世話をしてくれる彼女たちによくしたいと思うのはそんなに変なことかしら?
「当たり前じゃない。見習いとはいえ、貴女たちはもう私の侍女なんだもの」
二人の呟きに私はそちらに向き直ってちゃんと答える。
こんな形で侍女にされて不満かもしれないけれど、彼女たちも私の侍女になるなら大切にしたい。
ルード様とのことで今後絶対に迷惑をかける自信があるし。
なのに二人は感極まったように両手を胸の前で組むと「ありがとうございます」と言って再び涙を流し始めた。
大袈裟だなあと思わないでもないが、それだけ私からどう扱われるかが不安だったのだろう。
これで誤解が解けてくれればいいな。
「そうですね。まずはアンネローゼ様をよく知るところから始めていただきましょうか」
「あ、それならお衣装や装飾品の確認をしてもらったらいいんじゃないですかぁ?」
「そうね。アンネローゼ様のお好みやお似合いになるものを知るのは侍女の嗜みですから」
マイラが泣く二人の肩に手をかけて言うと、その後ろからリリが笑顔で人差し指を立て提案し、エルが頷いている。
メアリーとミディは仲が良いけれど、この三人も仲良しよね。
話しがまとまり、これから本格的に侍女修業が始まるようだと感じた私はソファに座って少し冷めたお茶を啜った。
マイラに掴まれたメアリーとミディの肩がみしぃっと嫌な音を立てていたことも、リリの笑顔に暗い影が差していたことも、エルがちっとも笑っていなかったことにも気がつかないままで。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
王妃を蔑ろにし、愛妾を寵愛していた王が冷遇していた王妃と入れ替わるお話。
ましゅぺちーの
恋愛
王妃を蔑ろにして、愛妾を寵愛していた王がある日突然その王妃と入れ替わってしまう。
王と王妃は体が元に戻るまで周囲に気づかれないようにそのまま過ごすことを決める。
しかし王は王妃の体に入ったことで今まで見えてこなかった愛妾の醜い部分が見え始めて・・・!?
全18話。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる