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第2章魔法少女見習いと大海の怪物
研究室のジョシュア
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「しかしこんなことになるとは」
救難信号は出したらしいが、助けが来るかは正直あやしい。追われていた魔道士たちは船で保護したそうだが、話しを聞いている最中に怪人が現れ、絶命したようだ。どうやら研究室(ラボ)から逃げてきたらしい。彼らは空のクジラを攻撃し、反撃を受けたようだ。
怪人たちは1枚岩ではないようだ。海の研究室と空の研究室では役割が違うようで、海の研究室は怪人の生産を、空の研究室は人類の観察をしているらしい。どういう意味か聞くために問い詰めたところ怪人が彼らを食い破り、外で暴れだした。多くの死傷者をだし、また船も件の化け物に襲われ半壊してしまったようだ。
「ぼっちゃんの留守を守れず申し訳ございません」
ばあやが辛そうに言う。ほかの執事たちも同様だ。
「はぁ、はぁ、構わない、さ」
曲がり角で出くわした怪人を盾で切り裂き、突き進んでいく。幸いそこまで強くない。
「何体いるんだ。この化け物どもが。ソウルアーツ!!」
執事の左腕が光り、怪人を殴り飛ばす。そこに盾を突き立てる。
「坊ちゃん、はぁ、はぁ、ナイスです!」
「セーバ。きみの力もなかなかだ。無理はするなよ」
銅クラスほどか。杖を解放しなくても倒せるくらいだ。だが、量が多い。報告で聞いた鮭の怪人を思いださせる。執事たちも奮闘しているが。
「魔法が使えなくとも、我々は、ソウルアーツを使えます!どうか坊ちゃん1人だけでも生き延びて」
「僕が倒す。心配するな」
魔法使いが、マジブロッサムの外の世界で戦う時、その戦力は激減する。これはマジブロッサムの地中に多く埋められている魔法石や世界樹の恩恵を得られないためだ。そのため、外界では世界樹の葉や枝を持参するか、旧魔法が使われることが多い。それらはつかい尽くしてしまった
あとはソウルアーツ。ワルス家に伝わる秘術。魔力とは別の力。坊ちゃんは魔法が強いから習う必要はないといつも教えてくれなかった。
幼い時に父に言われたことがある。
「数多の世界線、魚人世界線、巨人世界線、獣人世界線、魔道世界線……。魔女は世界を作り替えるが、はじまりの世界線に到達はしていない。だが、技術は継承されてきた。痕跡は残っている。残すことができる。ソウルアーツは俺が遺跡で見つけた秘術。使用人たちにも教えるが、リスクは知らせてない。」
「リスク?」
「HAHAHA。力にはリスクが付き物さ。」
「坊ちゃん!!!」
盾を重ねて突如現れた魔法を防ぐ。白衣の男が立っていた。
「よぉ」
ボサボサの頭の男が現れた。その手には血まみれになった人間を持って。
「あ、が、が、」
微かに声が聞こえる。生きては居るようだが。
「貴様」
「おぅ。お前か。盾の魔法のボンボン」
咥えたタバコから煙を吸い、吐き出す。その煙が飛びかかった執事を捕まえる。
「セーバ!?」
「坊ちゃん逃げて!こいつは、特級の指名手配犯です!!」
「勝手に犯罪者にされてしまったら困るんだが。お前たちの方が捕まるべきだろ」
「黒煙のジョシュア!旦那様の邪魔ばかりしやがって、ソウル…アーツ!!!」「ソウルアーツ」「ソウルアーツ!」「ソウル…アーツ…」
煙の拘束を払い除ける。他の執事たちも、敵意むき出しでその男を睨みつける。
「…へぇ、ソウルアーツ、ねぇ。あいつめ。執事になんてもん仕込ませてんだよ」
「ワルス家の執事として、今ここで貴様を殺す」
「よせ!!」
止めに入ろうとする。この男の実力は計り知れない。さきほど海上で戦った時も、底が見えない位強かった。盾の魔法を使う自分が命辛々逃げてくるほどだ。
「黒煙?だせー二つ名つけんなよ。この世代の連中は、人の名前も覚えられねーのか。第二研究室(ラボ)副室長。ジョシュア=フラスコだ。教授(プロフェッサー)からは助手くんと呼ばれてる。…ソウルアーツは多用しないほうがいいぜ」
「この海域で戦うなら他に方法は、ない!!」
「だから、あの木の周りから出てくんじゃねーよ。ったく。」
手に持っていた人を壁に投げつけ、タバコを取り出し火をつける。ばあやを除く全員がソウルアーツを使用し肉薄する。
「肉体強化のさらに上を行く、魂を使用した体術強化。一撃につき、一年くらいか。上級魔法ですら殴り消すその技術、お前ら、何年寿命を使った?」
「何をごちゃごちゃと訳のわからぬことをこれは、我らの誇り!一人前の証!!旦那様から教えていただいた!唯一無二の!」
「ソウルアーツ…黒衣」
その言葉は、ジョシュアから発せられた。黒い煙が白衣を黒く染めあげる。五人の執事の周りを黒い煙が一瞬通り過ぎて
「え…」
「三世代前巨人世界線の技術だ。てめぇらのじゃあない。長命の彼らだからこそ使えた超パワー」
男の声がした頃には、執事たちはもれなく叩き潰されていた。
「ばかな、」
「ふぅうう」
煙を吐く。白衣姿に戻る。
「わざわざ滅ぼした文明を呼び起こしてくれんなよ。めんどくせー。」
ジョシュアは近づいてくる。通路に充満しつつある黒い煙を闇のように纏いながら、その威圧感に2人は気圧される。
「世界を作り直す意味がなくなるだろう?ソウルアーツが広まったら、魔法に頼らなくなる。魔法が発展しない結果魔法石が増えない。世界樹が成長しない。だからリセットされる。同じ末路をたどりたくないなら、もう少し考えて貰いたいもんだな。」
世界を作り変えている。はじまりの魔女みたいなことを言っている。
「ばあや。すまない。ボクはあれには勝てそうもない」
これでも修羅場はくぐり抜けてきたほうだ。実力差くらいはわかる。海上で会った時よりも魔力の密度が違いすぎる。
「…私は過去に3度。この男と会っています」
ばあやが懐から小刀を出す。深紅の刃。珍しい魔石から直接削り出した刀。逆手に持ち、静かに呼吸を整える。
「何、本当か」
「はい。旦那様の就任式、30年前の大戦の時。そして私が子供の時…。いずれもこの姿のままでした。すこし若返っているようにすら感じます。」
「?!」
ばあやの年齢は正確にはしらないが、半世紀以上前のことだ。
「へぇ、俺と出会って生きているなんて、幸運だな。あんた名前は」
「名乗るほどのものではありません。ただのメイドでございます」
「はっ、謙虚だな。対敵するなら、女でも容赦しねーよ」
既に廊下は煙が充満し先が見えない。
「ふふっ。この年で女扱いされるのは嬉しいですね。…バレオ坊ちゃん。行きなさい。甲板に出て、世界樹のある方向へ向かってできるだけ遠くへ行きなさい。」
「…ばあや。……長い間ワルス家に仕えてくれてありがとう。僕の魔法を託すよ」
杖を素早く振り、生み出した結晶を渡す。
「この上なきお言葉。…はやく行きなさい」
赤い刃が煙を引き裂く。彼が走り去るのを見届けて振り返る。咥えタバコをし、板のようなものに指をなぞらせていた。
「お優しいのですね。攻撃してこないとは」
「あぁ、まぁ、結末は変わらないからな。一服もしたかったし。…誰かに尽くす人生なんて俺はゴメンだな。俺は俺のために生きたいぜ」
「空の研究室。バレオ坊ちゃんから聞いた鉄のクジラ。恐らく…宇宙船ですかね。はじまりの魔女のいた世界線の科学技術。空に上がると、あなた方がいる。あなた方さえいなければ、もっと早く魔女に旦那様が手が届いていたはずなのに」
ジョシュアの顔色が少し変わる。
「まるで邪魔してるかのようないい草は気に入らないな。誰のおかげで今の世界があるのかわかっているのか。今の人類のレベルが低いのさ。魔女のお眼鏡にかなわなければ、Restartがはじまる。いままでの苦労がパァだ。ワルス家は厄介だな。スペースシャトルのことまで知ってるか。歴史の中に閉じ込めておかないと、世界線がズレてしまう。アホほどめんどい計算しないといけないんだぞ」
煙がばあやを襲う。ばあやの姿が揺らぎ、蜃気楼のように姿が消える。赤い閃光が廊下を縦横無尽に飛び回る。あの赤い小刀か。わざわざ光らせて、なんの真似だ?
「ふぅぅ、身軽だな、ばあさん。あんた獣人か、新人類と旧人類は殺し合う運命だと思うんだがな。ん?」
ジョシュアの白衣に切り跡がつけられていく。ジョシュアはゆっくりと腕を振る。煙がうねるように動き、暗殺者の位置をあぶりだそうとする。赤い小刀。魔石のたぐいか。それ自体に魔力が帯びており、ばあさんの魔力を微かなものにして、眩ませる。赤い光の動く方向の少し先に狙いを定める。
「そこだ」
だが、予想外の方向から彼の首元に赤い小刀が牙のように襲いかかる。
「ちっ、ダミーかよ」
煙に自身の身体を引っ張らせ躱す。そして
「そら!」
「!!」
すれ違いざまに一撃。手応えが薄い。ばあやの頭には、小型の盾が現れ彼女を守っていた。託された魔結晶が割れ、盾の魔法が現れなかったら頭蓋骨が砕けていた。黒衣と化した右腕が、ばあやのこめかみをかする。
「暗殺中に反撃を受けたのは初めてですよ。凄まじい動体視力ですね」
「いくら速かろうと、実体が無いわけじゃねーからな。…自動発動の盾魔法か。便利だな。解剖して魔心臓を取り出したいからあの坊主を差し出せば見逃してやるよ」
「ご冗談を。ワルス家に仕えて30年。旦那様への恩は深く。坊ちゃまたちは実の息子と思い愛しております。メイド長としてワルス家にふりかかる火の粉は払わせていただきましょう。」
スカートの裾をそっと持ち上げる。
「んじゃあ、さっさと終わらせて、自分で捕まえることにするさ」
バレオは沈みゆく船を1度だけ振り返る。赤刀が月明かりに光る。だが、次第にその光も小さくなっていく。
「ボクは生き延びなければならない。生き延びなければ」
脳裏には、執事やばあやの姿がよぎる。弱い弟の姿がよぎる。
自らが乗っている盾の魔法に拳をつきたてる。
「守れなくて何が盾の魔法だ。」
救難信号は出したらしいが、助けが来るかは正直あやしい。追われていた魔道士たちは船で保護したそうだが、話しを聞いている最中に怪人が現れ、絶命したようだ。どうやら研究室(ラボ)から逃げてきたらしい。彼らは空のクジラを攻撃し、反撃を受けたようだ。
怪人たちは1枚岩ではないようだ。海の研究室と空の研究室では役割が違うようで、海の研究室は怪人の生産を、空の研究室は人類の観察をしているらしい。どういう意味か聞くために問い詰めたところ怪人が彼らを食い破り、外で暴れだした。多くの死傷者をだし、また船も件の化け物に襲われ半壊してしまったようだ。
「ぼっちゃんの留守を守れず申し訳ございません」
ばあやが辛そうに言う。ほかの執事たちも同様だ。
「はぁ、はぁ、構わない、さ」
曲がり角で出くわした怪人を盾で切り裂き、突き進んでいく。幸いそこまで強くない。
「何体いるんだ。この化け物どもが。ソウルアーツ!!」
執事の左腕が光り、怪人を殴り飛ばす。そこに盾を突き立てる。
「坊ちゃん、はぁ、はぁ、ナイスです!」
「セーバ。きみの力もなかなかだ。無理はするなよ」
銅クラスほどか。杖を解放しなくても倒せるくらいだ。だが、量が多い。報告で聞いた鮭の怪人を思いださせる。執事たちも奮闘しているが。
「魔法が使えなくとも、我々は、ソウルアーツを使えます!どうか坊ちゃん1人だけでも生き延びて」
「僕が倒す。心配するな」
魔法使いが、マジブロッサムの外の世界で戦う時、その戦力は激減する。これはマジブロッサムの地中に多く埋められている魔法石や世界樹の恩恵を得られないためだ。そのため、外界では世界樹の葉や枝を持参するか、旧魔法が使われることが多い。それらはつかい尽くしてしまった
あとはソウルアーツ。ワルス家に伝わる秘術。魔力とは別の力。坊ちゃんは魔法が強いから習う必要はないといつも教えてくれなかった。
幼い時に父に言われたことがある。
「数多の世界線、魚人世界線、巨人世界線、獣人世界線、魔道世界線……。魔女は世界を作り替えるが、はじまりの世界線に到達はしていない。だが、技術は継承されてきた。痕跡は残っている。残すことができる。ソウルアーツは俺が遺跡で見つけた秘術。使用人たちにも教えるが、リスクは知らせてない。」
「リスク?」
「HAHAHA。力にはリスクが付き物さ。」
「坊ちゃん!!!」
盾を重ねて突如現れた魔法を防ぐ。白衣の男が立っていた。
「よぉ」
ボサボサの頭の男が現れた。その手には血まみれになった人間を持って。
「あ、が、が、」
微かに声が聞こえる。生きては居るようだが。
「貴様」
「おぅ。お前か。盾の魔法のボンボン」
咥えたタバコから煙を吸い、吐き出す。その煙が飛びかかった執事を捕まえる。
「セーバ!?」
「坊ちゃん逃げて!こいつは、特級の指名手配犯です!!」
「勝手に犯罪者にされてしまったら困るんだが。お前たちの方が捕まるべきだろ」
「黒煙のジョシュア!旦那様の邪魔ばかりしやがって、ソウル…アーツ!!!」「ソウルアーツ」「ソウルアーツ!」「ソウル…アーツ…」
煙の拘束を払い除ける。他の執事たちも、敵意むき出しでその男を睨みつける。
「…へぇ、ソウルアーツ、ねぇ。あいつめ。執事になんてもん仕込ませてんだよ」
「ワルス家の執事として、今ここで貴様を殺す」
「よせ!!」
止めに入ろうとする。この男の実力は計り知れない。さきほど海上で戦った時も、底が見えない位強かった。盾の魔法を使う自分が命辛々逃げてくるほどだ。
「黒煙?だせー二つ名つけんなよ。この世代の連中は、人の名前も覚えられねーのか。第二研究室(ラボ)副室長。ジョシュア=フラスコだ。教授(プロフェッサー)からは助手くんと呼ばれてる。…ソウルアーツは多用しないほうがいいぜ」
「この海域で戦うなら他に方法は、ない!!」
「だから、あの木の周りから出てくんじゃねーよ。ったく。」
手に持っていた人を壁に投げつけ、タバコを取り出し火をつける。ばあやを除く全員がソウルアーツを使用し肉薄する。
「肉体強化のさらに上を行く、魂を使用した体術強化。一撃につき、一年くらいか。上級魔法ですら殴り消すその技術、お前ら、何年寿命を使った?」
「何をごちゃごちゃと訳のわからぬことをこれは、我らの誇り!一人前の証!!旦那様から教えていただいた!唯一無二の!」
「ソウルアーツ…黒衣」
その言葉は、ジョシュアから発せられた。黒い煙が白衣を黒く染めあげる。五人の執事の周りを黒い煙が一瞬通り過ぎて
「え…」
「三世代前巨人世界線の技術だ。てめぇらのじゃあない。長命の彼らだからこそ使えた超パワー」
男の声がした頃には、執事たちはもれなく叩き潰されていた。
「ばかな、」
「ふぅうう」
煙を吐く。白衣姿に戻る。
「わざわざ滅ぼした文明を呼び起こしてくれんなよ。めんどくせー。」
ジョシュアは近づいてくる。通路に充満しつつある黒い煙を闇のように纏いながら、その威圧感に2人は気圧される。
「世界を作り直す意味がなくなるだろう?ソウルアーツが広まったら、魔法に頼らなくなる。魔法が発展しない結果魔法石が増えない。世界樹が成長しない。だからリセットされる。同じ末路をたどりたくないなら、もう少し考えて貰いたいもんだな。」
世界を作り変えている。はじまりの魔女みたいなことを言っている。
「ばあや。すまない。ボクはあれには勝てそうもない」
これでも修羅場はくぐり抜けてきたほうだ。実力差くらいはわかる。海上で会った時よりも魔力の密度が違いすぎる。
「…私は過去に3度。この男と会っています」
ばあやが懐から小刀を出す。深紅の刃。珍しい魔石から直接削り出した刀。逆手に持ち、静かに呼吸を整える。
「何、本当か」
「はい。旦那様の就任式、30年前の大戦の時。そして私が子供の時…。いずれもこの姿のままでした。すこし若返っているようにすら感じます。」
「?!」
ばあやの年齢は正確にはしらないが、半世紀以上前のことだ。
「へぇ、俺と出会って生きているなんて、幸運だな。あんた名前は」
「名乗るほどのものではありません。ただのメイドでございます」
「はっ、謙虚だな。対敵するなら、女でも容赦しねーよ」
既に廊下は煙が充満し先が見えない。
「ふふっ。この年で女扱いされるのは嬉しいですね。…バレオ坊ちゃん。行きなさい。甲板に出て、世界樹のある方向へ向かってできるだけ遠くへ行きなさい。」
「…ばあや。……長い間ワルス家に仕えてくれてありがとう。僕の魔法を託すよ」
杖を素早く振り、生み出した結晶を渡す。
「この上なきお言葉。…はやく行きなさい」
赤い刃が煙を引き裂く。彼が走り去るのを見届けて振り返る。咥えタバコをし、板のようなものに指をなぞらせていた。
「お優しいのですね。攻撃してこないとは」
「あぁ、まぁ、結末は変わらないからな。一服もしたかったし。…誰かに尽くす人生なんて俺はゴメンだな。俺は俺のために生きたいぜ」
「空の研究室。バレオ坊ちゃんから聞いた鉄のクジラ。恐らく…宇宙船ですかね。はじまりの魔女のいた世界線の科学技術。空に上がると、あなた方がいる。あなた方さえいなければ、もっと早く魔女に旦那様が手が届いていたはずなのに」
ジョシュアの顔色が少し変わる。
「まるで邪魔してるかのようないい草は気に入らないな。誰のおかげで今の世界があるのかわかっているのか。今の人類のレベルが低いのさ。魔女のお眼鏡にかなわなければ、Restartがはじまる。いままでの苦労がパァだ。ワルス家は厄介だな。スペースシャトルのことまで知ってるか。歴史の中に閉じ込めておかないと、世界線がズレてしまう。アホほどめんどい計算しないといけないんだぞ」
煙がばあやを襲う。ばあやの姿が揺らぎ、蜃気楼のように姿が消える。赤い閃光が廊下を縦横無尽に飛び回る。あの赤い小刀か。わざわざ光らせて、なんの真似だ?
「ふぅぅ、身軽だな、ばあさん。あんた獣人か、新人類と旧人類は殺し合う運命だと思うんだがな。ん?」
ジョシュアの白衣に切り跡がつけられていく。ジョシュアはゆっくりと腕を振る。煙がうねるように動き、暗殺者の位置をあぶりだそうとする。赤い小刀。魔石のたぐいか。それ自体に魔力が帯びており、ばあさんの魔力を微かなものにして、眩ませる。赤い光の動く方向の少し先に狙いを定める。
「そこだ」
だが、予想外の方向から彼の首元に赤い小刀が牙のように襲いかかる。
「ちっ、ダミーかよ」
煙に自身の身体を引っ張らせ躱す。そして
「そら!」
「!!」
すれ違いざまに一撃。手応えが薄い。ばあやの頭には、小型の盾が現れ彼女を守っていた。託された魔結晶が割れ、盾の魔法が現れなかったら頭蓋骨が砕けていた。黒衣と化した右腕が、ばあやのこめかみをかする。
「暗殺中に反撃を受けたのは初めてですよ。凄まじい動体視力ですね」
「いくら速かろうと、実体が無いわけじゃねーからな。…自動発動の盾魔法か。便利だな。解剖して魔心臓を取り出したいからあの坊主を差し出せば見逃してやるよ」
「ご冗談を。ワルス家に仕えて30年。旦那様への恩は深く。坊ちゃまたちは実の息子と思い愛しております。メイド長としてワルス家にふりかかる火の粉は払わせていただきましょう。」
スカートの裾をそっと持ち上げる。
「んじゃあ、さっさと終わらせて、自分で捕まえることにするさ」
バレオは沈みゆく船を1度だけ振り返る。赤刀が月明かりに光る。だが、次第にその光も小さくなっていく。
「ボクは生き延びなければならない。生き延びなければ」
脳裏には、執事やばあやの姿がよぎる。弱い弟の姿がよぎる。
自らが乗っている盾の魔法に拳をつきたてる。
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