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第一部
28 羽目を外す日 R18
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伊織といえば、ホールスタッフ唯一の日本人じゃないか。たまにお疲れ様ですと挨拶をする程度の仲だが……。普段は飄々としていて無口な彼が今はとんでもない声をあげている。その事実に驚いた口が塞がらない。ぱっと薄闇の中でアレンを振り返ると、あちゃーとした顔で秀治を見下ろしていた。そしてこそこそと秀治の耳元で話しかける。
「今日はさ、その、もうわかっちゃったと思うけど月に一度のハメを外す日なわけさ」
「それってどういう……」
言いかけた瞬間にアレンの手が秀治の口を塞ぐ。すぐそばのカウンター席で男二人が絡み合い始めたからだった。
「もう……義則さんてば、強引だなぁ。でも、そういうの大好物」
クインの声!? 身近な友人の声に体がびくりと震える。いつもよりもっと甘ったるい声で男に詰め寄っているらしい。
「おまえは戯れる猫みたいだから。ほら、こっち向きなよ」
「にゃー、なんちて」
にゃーってなんだよ。そう胸の中で突っ込む余裕がまだあった。
それから二人の熱いキスの音を聞きながら、ふうっと大きなため息をつく。こういう場所に出くわすなんて思ってもみなかった。しばらくはこの場所から動けそうにない。
性行為に繋がる行為も、性行為自体にも嫌悪感がある。やはり、すべてはあの母親のせいだとは思うが。狭い部屋の中で秀治の存在を知りながら見せつけるように絡む二つの肉の塊に、いつも吐き気を覚えていた。ワニのような母が細い蛇に巻きつかれて悦んでいる姿。いつ思い出しても、おえっと胃液があふれてくるようだった。
「あっ…ん」
想像よりももっと高い声でクインが鳴いている。友人のそういう姿を盗み聞きするのは良心が痛むので、そっと耳を両手で塞ぐ。アレンは苦笑いを浮かべながら秀治を見ていた。
「アレン」
と、厨房の横からアレンを呼ぶ太い声が聞こえてピクリと肩を揺らす。
「なんだ、ここにいたのか。今日はエプロンなんかつけやがって……って、もうヤってんのか」
嘘だろーー。秀治は慌ててアレンを仰ぎ見る。アレンはゆったりと体を上げると男の方へ歩いていった。その距離二メートル弱。そんな、すぐそばで見ることなんてできない……。
「拓馬さん……。ごめんなさい。拓馬さん来るの遅いから、同じキャスト同士で軽く遊んでて」
「へぇ。どんな奴? こっちに顔見せろよ」
明らかに自分に話しかけている拓馬という男に秀治は顔を背けた。体ごと体育座りをして後ろを向く。
「なんだ照れ屋なのか。心配するな、気持ちいいことしかしない」
拓馬さん、とアレンが引き止める声を無視して拓馬と呼ばれた男は秀治の腕を掴む。
「……っ」
目が合ってしまった。野性の獣のような鋭い瞳。どこかで見たことがあると思えば、降谷の目とどことなく似ている。他者を押さえつける目。そんな印象を持った。
「俺、違くて……」
その熱い眼差しに耐えかねて白状するように口を開こうとすると拓馬に唇を奪われた。
「…ん…っ」
肉厚な舌が驚いて開いてしまった口内を蹂躙する。目を丸くしてそれを受け身になって耐えていると、黒い鉱石のような瞳と目があった。真っ黒なその瞳に溺れてしまいそうになる。
「今日はさ、その、もうわかっちゃったと思うけど月に一度のハメを外す日なわけさ」
「それってどういう……」
言いかけた瞬間にアレンの手が秀治の口を塞ぐ。すぐそばのカウンター席で男二人が絡み合い始めたからだった。
「もう……義則さんてば、強引だなぁ。でも、そういうの大好物」
クインの声!? 身近な友人の声に体がびくりと震える。いつもよりもっと甘ったるい声で男に詰め寄っているらしい。
「おまえは戯れる猫みたいだから。ほら、こっち向きなよ」
「にゃー、なんちて」
にゃーってなんだよ。そう胸の中で突っ込む余裕がまだあった。
それから二人の熱いキスの音を聞きながら、ふうっと大きなため息をつく。こういう場所に出くわすなんて思ってもみなかった。しばらくはこの場所から動けそうにない。
性行為に繋がる行為も、性行為自体にも嫌悪感がある。やはり、すべてはあの母親のせいだとは思うが。狭い部屋の中で秀治の存在を知りながら見せつけるように絡む二つの肉の塊に、いつも吐き気を覚えていた。ワニのような母が細い蛇に巻きつかれて悦んでいる姿。いつ思い出しても、おえっと胃液があふれてくるようだった。
「あっ…ん」
想像よりももっと高い声でクインが鳴いている。友人のそういう姿を盗み聞きするのは良心が痛むので、そっと耳を両手で塞ぐ。アレンは苦笑いを浮かべながら秀治を見ていた。
「アレン」
と、厨房の横からアレンを呼ぶ太い声が聞こえてピクリと肩を揺らす。
「なんだ、ここにいたのか。今日はエプロンなんかつけやがって……って、もうヤってんのか」
嘘だろーー。秀治は慌ててアレンを仰ぎ見る。アレンはゆったりと体を上げると男の方へ歩いていった。その距離二メートル弱。そんな、すぐそばで見ることなんてできない……。
「拓馬さん……。ごめんなさい。拓馬さん来るの遅いから、同じキャスト同士で軽く遊んでて」
「へぇ。どんな奴? こっちに顔見せろよ」
明らかに自分に話しかけている拓馬という男に秀治は顔を背けた。体ごと体育座りをして後ろを向く。
「なんだ照れ屋なのか。心配するな、気持ちいいことしかしない」
拓馬さん、とアレンが引き止める声を無視して拓馬と呼ばれた男は秀治の腕を掴む。
「……っ」
目が合ってしまった。野性の獣のような鋭い瞳。どこかで見たことがあると思えば、降谷の目とどことなく似ている。他者を押さえつける目。そんな印象を持った。
「俺、違くて……」
その熱い眼差しに耐えかねて白状するように口を開こうとすると拓馬に唇を奪われた。
「…ん…っ」
肉厚な舌が驚いて開いてしまった口内を蹂躙する。目を丸くしてそれを受け身になって耐えていると、黒い鉱石のような瞳と目があった。真っ黒なその瞳に溺れてしまいそうになる。
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