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第一部
35 楽しいってこういう気持ちだっけ
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「シュウもこっちおいでよ。冷たくて気持ちいいよ!」
アレンと一緒に水をかけ合っている様子を眺めていた俺にクインはそう声をかけてきた。左手首を隠すために薄手の長袖パーカーを着ていたが、思ったよりも暑くて遊ぶ気力がわかなかったのだ。
「シュウ。俺もう降参。クインの相手変わって」
疲れた顔でアレンがこちらに歩いてくるので入れ替わりになってクインの相手をする。まだ二十歳という年齢のクインだが、見た目的には高校生くらいにも見える。それほどまでに童顔なのだ。
初めて見る海にほんとうはどきどきとしていた。塩辛い海の匂いに鼻が膨らむ。ざらざらとした足の裏の感触も新鮮だった。地球上の七割を占めているのが海水だと学校で習った記憶がよみがえる。今、たしかに俺はその七割の水の中にいる。それが不思議で、嬉しくてたまらないのだ。クインに負けず劣らずはしゃいでいたらしい。アレンが手を叩いて笑う。
「シュウ。海を知りたての子供みたいな顔してる。写真撮ってもいい?」
写真はちょっと恥ずかしいなと思って手をバツにしようとしたら、クインが体を寄せてきた。アレンが内カメラにしてこちらに近づいてくる。
「スリーツーワン」
アメリカ式の音頭で写真を撮った。すぐにクインが見せて見せてとアレンにせがむ。俺も二人の隙間からそっと覗き見た。変な顔をしていないだろうか。写真を撮るなんて初めてのことでうまく笑えたかもわからない。でも嫌な気はしなかった。この二人となら何枚だって写真を撮ってもいい。心からそう思えた。
「シュウめっちゃスマイルじゃん。これじゃ僕の可愛い顔がかすんじゃう」
ぶうぶうと文句を垂れるクインをおさえてアレンがははっと笑った。
「大丈夫だって。また撮ればいいんだから」
それもそうだねとクインが笑って、そのあと何枚も写真を撮った。俺の顔そんなにスマイルだったかな。先ほど見た写真を思い出す。自分の笑った顔なんて初めて見たかもしれない。鏡の前で笑うことなんてないし。そんなことを思っていると、クインが遊び疲れたのか砂浜に戻っていく。その後ろを歩きながら近くで遊ぶ親子の様子を盗み見ていた。
あんなふうに遊ぶのがやっぱり普通だよな……。
どこか遠い国の話のような理想的な親子を見つめながら砂浜に腰を下ろす。
「送信!」
とクインが入道雲の漂う空に向かってスマホを突き上げる。
「蓮さんに?」
とアレンが問うとむふふと含みのある笑顔で秀治を見た。
「正解! しかも最初に撮った三人の写真付き」
てへ、と言わんばかりに舌を出してそう笑うクインを見て一瞬凍りつく。なんてものを送ってくれたんだ、と。あの降谷が写真を見てどう思うのか。すぐに想像がついた。きっとまた鼻で笑って馬鹿にするんだろう。あのとき死ななくてよかっただろう、と。
礼を伝えるつもりで教えてもらった連絡先も、これではどうしていいかわからない。秀治は頭を抱えて悩んだ。帰りの車の中でもクインに降谷からの返信がないか何度も聞いた。仕事で忙しいのか、というかなんの仕事をしているかも知らないのだが返事はないという。
一日羽を伸ばした秀治たちは休養日のクインを置いてアレンと二人で店に出向く。厨房スタッフの秀治は休みがほとんどない。ダグは毎日働いているのに、疲れた様子は一切見せない。この仕事が本当に好きなんだなと秀治は思った。
裏口から入るとダグが仕込みの準備にとりかかっていた。夕陽に染まる空が窓の向こうに見える。今日も一日頑張ろうと思ってエプロンをきゅっと締めた。
アレンと一緒に水をかけ合っている様子を眺めていた俺にクインはそう声をかけてきた。左手首を隠すために薄手の長袖パーカーを着ていたが、思ったよりも暑くて遊ぶ気力がわかなかったのだ。
「シュウ。俺もう降参。クインの相手変わって」
疲れた顔でアレンがこちらに歩いてくるので入れ替わりになってクインの相手をする。まだ二十歳という年齢のクインだが、見た目的には高校生くらいにも見える。それほどまでに童顔なのだ。
初めて見る海にほんとうはどきどきとしていた。塩辛い海の匂いに鼻が膨らむ。ざらざらとした足の裏の感触も新鮮だった。地球上の七割を占めているのが海水だと学校で習った記憶がよみがえる。今、たしかに俺はその七割の水の中にいる。それが不思議で、嬉しくてたまらないのだ。クインに負けず劣らずはしゃいでいたらしい。アレンが手を叩いて笑う。
「シュウ。海を知りたての子供みたいな顔してる。写真撮ってもいい?」
写真はちょっと恥ずかしいなと思って手をバツにしようとしたら、クインが体を寄せてきた。アレンが内カメラにしてこちらに近づいてくる。
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アメリカ式の音頭で写真を撮った。すぐにクインが見せて見せてとアレンにせがむ。俺も二人の隙間からそっと覗き見た。変な顔をしていないだろうか。写真を撮るなんて初めてのことでうまく笑えたかもわからない。でも嫌な気はしなかった。この二人となら何枚だって写真を撮ってもいい。心からそう思えた。
「シュウめっちゃスマイルじゃん。これじゃ僕の可愛い顔がかすんじゃう」
ぶうぶうと文句を垂れるクインをおさえてアレンがははっと笑った。
「大丈夫だって。また撮ればいいんだから」
それもそうだねとクインが笑って、そのあと何枚も写真を撮った。俺の顔そんなにスマイルだったかな。先ほど見た写真を思い出す。自分の笑った顔なんて初めて見たかもしれない。鏡の前で笑うことなんてないし。そんなことを思っていると、クインが遊び疲れたのか砂浜に戻っていく。その後ろを歩きながら近くで遊ぶ親子の様子を盗み見ていた。
あんなふうに遊ぶのがやっぱり普通だよな……。
どこか遠い国の話のような理想的な親子を見つめながら砂浜に腰を下ろす。
「送信!」
とクインが入道雲の漂う空に向かってスマホを突き上げる。
「蓮さんに?」
とアレンが問うとむふふと含みのある笑顔で秀治を見た。
「正解! しかも最初に撮った三人の写真付き」
てへ、と言わんばかりに舌を出してそう笑うクインを見て一瞬凍りつく。なんてものを送ってくれたんだ、と。あの降谷が写真を見てどう思うのか。すぐに想像がついた。きっとまた鼻で笑って馬鹿にするんだろう。あのとき死ななくてよかっただろう、と。
礼を伝えるつもりで教えてもらった連絡先も、これではどうしていいかわからない。秀治は頭を抱えて悩んだ。帰りの車の中でもクインに降谷からの返信がないか何度も聞いた。仕事で忙しいのか、というかなんの仕事をしているかも知らないのだが返事はないという。
一日羽を伸ばした秀治たちは休養日のクインを置いてアレンと二人で店に出向く。厨房スタッフの秀治は休みがほとんどない。ダグは毎日働いているのに、疲れた様子は一切見せない。この仕事が本当に好きなんだなと秀治は思った。
裏口から入るとダグが仕込みの準備にとりかかっていた。夕陽に染まる空が窓の向こうに見える。今日も一日頑張ろうと思ってエプロンをきゅっと締めた。
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