売り専の俺、眠れない写真家に“抱き枕”として買われました

子犬一 はぁて

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34 貴方のことを教えて

「え……」

「桜は身長が高いな。けど細いから他の男に羽交い締めにされたら抵抗できないだろうな。俺の勝手な願いだが、もう少し食事の量を増やしたほうがいいだろう。特にたんぱく質が豊富な鶏胸肉や、卵、ヨーグルトなどを食べれば幾分栄養がとれるだろう」

 真剣な眼差しで淡々と言葉を放つ真柴に桜は息を吸うのも忘れて見入る。初めてだった。こんなふうに自分の身体を気にかけてくれる人と出会うのは。ホームページの宣材写真と現在の体型の違いまで気づいてくれる人なんて今まで1人もいなかった。まだ、2度しか会っていないのに。そう思うと桜の胸の中にぽっとロウソクの灯が灯るような気がした。その温かさが心地いい。真柴の手が腰を引き寄せてくれるのも嫌じゃなかった。むしろ、もっと強く抱きとめてくれたら……などという意味不明な気持ちさえ浮かんだ。桜は今は仕事中だと頭を振り、早速いつものような甘える声で真柴に話しかけた。

「今日は6時間コースですけどどうしますか? まさかまた添い寝だけってことはないですよね?」

 くすっと桜が微笑めば真柴は顔色一つ変えずに視線だけで桜の笑いを止めた。

「初めからそのつもりだが何か困るか?」

「……あ、その。添い寝だけを希望されるお客様は少ないので……」

 遠慮がちに呟けば真柴はふっと軽く息をついて桜の腰をよしよしと撫でてきた。

「そんなに身構えなくてもいい。俺はただ抱き心地のいい抱き枕が欲しいだけだ」

「……抱き心地いいですか。僕?」

 素直な疑問だった。桜の問いに真柴が目元を垂らして微笑む。

「ああ。俺が190センチだから、同じくらいの大きさだろう。桜も。それに筋肉質だから抱き潰してしまう不安もないからな」

 つん、と真柴が桜のバスローブ越しに胸の辺りをつついてきた。

「あっ」

 突然の触れ方に思わず小さく声が洩れてしまった。桜はまるでこれでは真柴を性的なサービスへ誘導しているように見えてしまうのではないかと不安に思いおずおずと真柴の顔を見上げた。薄ら開いた瞳に真柴の後頭部が見えた。ベッド周りを整えてくれているらしい。桜の変な声については触れてこなかったのが救いだった。

「ん」

 真柴がベッドに横になり毛布を持ち上げてくれる。

「……失礼します」

 桜はそこにするりと入り込んだ。とりあえず対面で向き合っていると真柴の顔を間近で見つめることができるポジションにいたので観察してみる。

(あれ? なんか目の下クマか? 仕事で疲労が溜まってんのか?)

 桜の観察眼が冴え渡る。真柴はリラックスしたように目を細めている。

(もしかして超絶眠いとか……?)

 桜は接客に徹しようと思い真柴の腕の中に自分から入り込んだ。

「僕でよかったら好きなように抱き枕にしてください。真柴さんお疲れのようですから」

「……」

 ぴくり、と真柴の耳が震えた。真一文字に結んでいた唇が柔らかく開く。まるで白百合の蕾が花びらを開く時のように淡く、美しい微笑だった。

「ああ。そうしよう」

 桜の背を真柴の腕が引き寄せる。腰と腰がくっつくくらい近い。互いに痩せているのもあってバスローブ越しだというのに、ごつんと骨ばった腰同士が擦れた。桜はきゅっと目を瞑り胸の鼓動をおさめようとする。ドクンドクンと激しい音が目の前にいる真柴に聞こえませんようにと願いながら。すると頭の上で真柴の寝息が聞こえてきて肩の力が抜けた。見れば真柴はとうに夢の中らしい。桜もそのままうとうととし始め、毛布のぬくさと真柴の体温に温められて眠りに落ちた。
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