35 / 91
34 貴方のことを教えて
「え……」
「桜は身長が高いな。けど細いから他の男に羽交い締めにされたら抵抗できないだろうな。俺の勝手な願いだが、もう少し食事の量を増やしたほうがいいだろう。特にたんぱく質が豊富な鶏胸肉や、卵、ヨーグルトなどを食べれば幾分栄養がとれるだろう」
真剣な眼差しで淡々と言葉を放つ真柴に桜は息を吸うのも忘れて見入る。初めてだった。こんなふうに自分の身体を気にかけてくれる人と出会うのは。ホームページの宣材写真と現在の体型の違いまで気づいてくれる人なんて今まで1人もいなかった。まだ、2度しか会っていないのに。そう思うと桜の胸の中にぽっとロウソクの灯が灯るような気がした。その温かさが心地いい。真柴の手が腰を引き寄せてくれるのも嫌じゃなかった。むしろ、もっと強く抱きとめてくれたら……などという意味不明な気持ちさえ浮かんだ。桜は今は仕事中だと頭を振り、早速いつものような甘える声で真柴に話しかけた。
「今日は6時間コースですけどどうしますか? まさかまた添い寝だけってことはないですよね?」
くすっと桜が微笑めば真柴は顔色一つ変えずに視線だけで桜の笑いを止めた。
「初めからそのつもりだが何か困るか?」
「……あ、その。添い寝だけを希望されるお客様は少ないので……」
遠慮がちに呟けば真柴はふっと軽く息をついて桜の腰をよしよしと撫でてきた。
「そんなに身構えなくてもいい。俺はただ抱き心地のいい抱き枕が欲しいだけだ」
「……抱き心地いいですか。僕?」
素直な疑問だった。桜の問いに真柴が目元を垂らして微笑む。
「ああ。俺が190センチだから、同じくらいの大きさだろう。桜も。それに筋肉質だから抱き潰してしまう不安もないからな」
つん、と真柴が桜のバスローブ越しに胸の辺りをつついてきた。
「あっ」
突然の触れ方に思わず小さく声が洩れてしまった。桜はまるでこれでは真柴を性的なサービスへ誘導しているように見えてしまうのではないかと不安に思いおずおずと真柴の顔を見上げた。薄ら開いた瞳に真柴の後頭部が見えた。ベッド周りを整えてくれているらしい。桜の変な声については触れてこなかったのが救いだった。
「ん」
真柴がベッドに横になり毛布を持ち上げてくれる。
「……失礼します」
桜はそこにするりと入り込んだ。とりあえず対面で向き合っていると真柴の顔を間近で見つめることができるポジションにいたので観察してみる。
(あれ? なんか目の下クマか? 仕事で疲労が溜まってんのか?)
桜の観察眼が冴え渡る。真柴はリラックスしたように目を細めている。
(もしかして超絶眠いとか……?)
桜は接客に徹しようと思い真柴の腕の中に自分から入り込んだ。
「僕でよかったら好きなように抱き枕にしてください。真柴さんお疲れのようですから」
「……」
ぴくり、と真柴の耳が震えた。真一文字に結んでいた唇が柔らかく開く。まるで白百合の蕾が花びらを開く時のように淡く、美しい微笑だった。
「ああ。そうしよう」
桜の背を真柴の腕が引き寄せる。腰と腰がくっつくくらい近い。互いに痩せているのもあってバスローブ越しだというのに、ごつんと骨ばった腰同士が擦れた。桜はきゅっと目を瞑り胸の鼓動をおさめようとする。ドクンドクンと激しい音が目の前にいる真柴に聞こえませんようにと願いながら。すると頭の上で真柴の寝息が聞こえてきて肩の力が抜けた。見れば真柴はとうに夢の中らしい。桜もそのままうとうととし始め、毛布のぬくさと真柴の体温に温められて眠りに落ちた。
「桜は身長が高いな。けど細いから他の男に羽交い締めにされたら抵抗できないだろうな。俺の勝手な願いだが、もう少し食事の量を増やしたほうがいいだろう。特にたんぱく質が豊富な鶏胸肉や、卵、ヨーグルトなどを食べれば幾分栄養がとれるだろう」
真剣な眼差しで淡々と言葉を放つ真柴に桜は息を吸うのも忘れて見入る。初めてだった。こんなふうに自分の身体を気にかけてくれる人と出会うのは。ホームページの宣材写真と現在の体型の違いまで気づいてくれる人なんて今まで1人もいなかった。まだ、2度しか会っていないのに。そう思うと桜の胸の中にぽっとロウソクの灯が灯るような気がした。その温かさが心地いい。真柴の手が腰を引き寄せてくれるのも嫌じゃなかった。むしろ、もっと強く抱きとめてくれたら……などという意味不明な気持ちさえ浮かんだ。桜は今は仕事中だと頭を振り、早速いつものような甘える声で真柴に話しかけた。
「今日は6時間コースですけどどうしますか? まさかまた添い寝だけってことはないですよね?」
くすっと桜が微笑めば真柴は顔色一つ変えずに視線だけで桜の笑いを止めた。
「初めからそのつもりだが何か困るか?」
「……あ、その。添い寝だけを希望されるお客様は少ないので……」
遠慮がちに呟けば真柴はふっと軽く息をついて桜の腰をよしよしと撫でてきた。
「そんなに身構えなくてもいい。俺はただ抱き心地のいい抱き枕が欲しいだけだ」
「……抱き心地いいですか。僕?」
素直な疑問だった。桜の問いに真柴が目元を垂らして微笑む。
「ああ。俺が190センチだから、同じくらいの大きさだろう。桜も。それに筋肉質だから抱き潰してしまう不安もないからな」
つん、と真柴が桜のバスローブ越しに胸の辺りをつついてきた。
「あっ」
突然の触れ方に思わず小さく声が洩れてしまった。桜はまるでこれでは真柴を性的なサービスへ誘導しているように見えてしまうのではないかと不安に思いおずおずと真柴の顔を見上げた。薄ら開いた瞳に真柴の後頭部が見えた。ベッド周りを整えてくれているらしい。桜の変な声については触れてこなかったのが救いだった。
「ん」
真柴がベッドに横になり毛布を持ち上げてくれる。
「……失礼します」
桜はそこにするりと入り込んだ。とりあえず対面で向き合っていると真柴の顔を間近で見つめることができるポジションにいたので観察してみる。
(あれ? なんか目の下クマか? 仕事で疲労が溜まってんのか?)
桜の観察眼が冴え渡る。真柴はリラックスしたように目を細めている。
(もしかして超絶眠いとか……?)
桜は接客に徹しようと思い真柴の腕の中に自分から入り込んだ。
「僕でよかったら好きなように抱き枕にしてください。真柴さんお疲れのようですから」
「……」
ぴくり、と真柴の耳が震えた。真一文字に結んでいた唇が柔らかく開く。まるで白百合の蕾が花びらを開く時のように淡く、美しい微笑だった。
「ああ。そうしよう」
桜の背を真柴の腕が引き寄せる。腰と腰がくっつくくらい近い。互いに痩せているのもあってバスローブ越しだというのに、ごつんと骨ばった腰同士が擦れた。桜はきゅっと目を瞑り胸の鼓動をおさめようとする。ドクンドクンと激しい音が目の前にいる真柴に聞こえませんようにと願いながら。すると頭の上で真柴の寝息が聞こえてきて肩の力が抜けた。見れば真柴はとうに夢の中らしい。桜もそのままうとうととし始め、毛布のぬくさと真柴の体温に温められて眠りに落ちた。
あなたにおすすめの小説
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
たとえば、俺が幸せになってもいいのなら
夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語―――
父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。
弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。
助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。