スウェロニア家の番犬の騎士見習い〔弟〕は騎士団長〔兄〕の「待て、おすわり」がきけない

子犬一 はぁて

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寮で迎える初めての夜

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「はぁ? こんなちんちくりんが俺の相部屋相手なのか……」

 少々残念そうに呟いた男は、どかっと机の上に寄りかかった。寮服の上からでもわかる筋肉質な腕を組んで、じろじろとぼくを見ている。その視線が気持ち悪くて、ぼくは1段目のベッドに腰掛けていたのをやめようと腰を上げた。

「……君の名前は?」

 無言の時間に耐えきれず小さな声で聞く。男はつまらなそうな顔をして口を開いた。

「ウルク」

「……よ、よろしくねウルク」

 良好な人間関係が築けるとは思えないほど、冷たい視線を一身に浴びてぼくは部屋の外に駆け出したい気分だった。

 ウルクは自身のつんつんとした黒髪を無造作にかきあげ、ぼくを見下ろした。

「おまえは2段目で寝起きしろ。それと、俺のやることに口出しするな。いいか? それがおまえがここで寝起きできる最低条件だ」

 なんてやつだ……まるで暴君みたいな言い方じゃないか。ぼくは納得できなかったけれど、歯向かえばすぐに鉄拳が飛んできそうなので黙って頷き、手荷物をクローゼットに入れベッドの2段目に登った。そこで体育座りをしてすぐそこにあるウルクのつむじを見つめた。台風の目のように激しく渦巻いている。

 ウルクからは名門貴族のような厳かな雰囲気は微塵も感じられず、どちらかというと行いがよろしくない人間の雰囲気が漂っている。

「オズワルド。俺の眠りの邪魔をしたらベランダから投げ落としてやるからな。静かにしていろよ」

 そう言い終わると、パチンと電気を消して寝入ってしまった。

 暗闇に残されたぼくは窓の方を見やる。薄明かりが落ちたそこには、傾いた月がぼくを見下ろしていた。慈悲深い青白い光で。
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