ビジネス番契約ですが欠陥αに不器用に溺愛されて偽りΩは幸せです

子犬一 はぁて

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「部長、おかえりなさい」

 部屋の奥から出てきた岸本を見つめる。ぱたぱたとスリッパの足音を立ててこちらに向かってくる。

 はやく言ってしまえ。言えば俺は楽になれる。このもどかしい気持ちから逃れられる。自分の本当の気持ちから逃げられる。今逃げなければ、これ以上はもう勝手にひとりで傷つきたくない。小鳥遊はゆっくりと口を開いて軽く息を吸う。

「岸本」

「なんですか、部長?」

 心配そうな顔をして俺を見る岸本が不憫になった。俺はこれからお前を傷つける言葉を放つのに。わかっているのに、胸がツキンと痛んだ。

「もう終わりだ。岸本」

「え?」

 岸本は持っていた布巾を床にはらり、と落とした。一歩、一歩踏みしめるように俺に近づいてくる。その表情は怒っているようにも、泣き出しそうにも見えた。目元が潤んでいる。

「終わりって何がですか。勝手なこと言わないでください」

 はぁ、とわざと大きなため息をつく。嫌われるのなら一瞬で嫌われたかった。岸本を侮辱する言葉は一言だけにしたかった。

「俺とおまえとの番の契約を終わらせる」

 岸本の瞳は一瞬色を失ったように見えた。そして、わなわなと肩を揺らし始めると叫ぶように言った。拳を作った手がふるふると震えている。顔はくしゃくしゃだった。泣いてる赤子のようだった。

「俺、何かしましたか? 部長に嫌われるようなこと、しましたか?」

 俺が帰ってくるまでテレビを見ていたのだろう。ニュース番組の音が部屋に響く。それが今はひどく虚しく感じられた。それは無機質なBGMとなって鼓膜に響く。

「お前とのセックスには飽きたってことだ」

「っ!?」

 あえて突き放すように淡々と言う。岸本は大きな衝撃を伴って、静かに項垂れた。そして、へらへらと笑い始めた。

「そんな冗談、部長らしくないですよ。わかりました。今日はツンデレの日なんですね。俺、頑張りますから。部長のこと気持ちよくさせますからっ」

 岸本は、あははと空笑いをして俺を見つめる。その空虚さが、振る舞いが、無理をしている様子で見ていて辛かった。

「そういうのに腹が立つと言っているんだ」

 我ながら雷を落としたようだと思った。その一撃は岸本にとって大きかったのか、ぴたりと笑い声を引っ込めた。岸本の表情は抜け落ちている。
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