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俺:養え!灯織:うん。養うっ
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「ふふふふ~ん。ふふん。ふ~ん」
灯織が開店前のクラブのトイレ掃除をしている。
珍しい。あんなに掃除キライの灯織が鼻歌を歌いながらせっせと掃除してるなんて。
歌舞伎町のホストクラブCLUB SOLT幹部の大貫 雪は、その様子を片目におさめていた。
灯織が入店したのは、2年前の秋頃。体入でサクっと50万稼いだ灯織を気に入った店長が、灯織の働きぶりに価値を見出して、今年の春に幹部補佐に昇格させた。
雪は現在、年間売上1億を超えるCLUB SOLTのNo.1ホストだ。テレビの取材もちょくちょく受けている。ホストになって3年目でこんなに売上を伸ばせていられるのは、応援してくれる姫のおかげだ。
灯織はまだ21歳で若いし、容姿も整っている。美容へのケアを欠かさず、毎月きちんとヘアサロンやネイルサロン、美容医療に通っている売れっ子ホストだ。
この業界では珍しい、かわいいマスコットキャラクターのような性格をしていて、女の子への営業も熱心。何人もの太客を抱えていて、最近は灯織のバースデーのために、色々と動いている様子だった。
しかし、雪が灯織を見ていて違和感を覚えたのは4日ほど前。なんとなく、いつもの溌剌とした元気の良さがなくて体調でも悪いのかと思った。灯織は酒ヤクザだが、かなり細身で雪が見ても心配になる。灯織に「ちゃんとメシ食えよ」と、言いまくるのが他のホストとの合言葉のようだった。
それから、3日くらいは浮かない表情をしていた灯織だったが、今日になって出勤したらるんるんでトイレ掃除をしている。まあ、不思議なことはあるもんだと胸にしまい、雪は自身の姫にメッセージを送る。
ーーーーー
灯織は、トイレ掃除をしながら今朝した綾人との約束を思い出す。
「まず、おもちは良いとして、灯織。お前にはきっちり生活費を納めてもらう」
「うんっ!もちろん! 俺はホームレスから抜け出せて願ったり叶ったりだよう」
綾人が眉間に皺を寄せて言い切った。
「家賃、食費、交通費は俺と割り勘だ。おもちの養育費はお前に任せる」
「うん、いいけど、なんで?」
すう、と綾人が目を細める。きっとこれは、真剣なことを言うときの目だ。
「俺は日々、職場で動物の命を預かることの大切さを学ばせてもらっている。しかし、お前はまだ知らないだろう。まずは、養育費というかたちでおもちを養え。わかったら、わんって言え」
言葉のおしりのほうはなんか意地悪だったから、灯織は、
「うぉぉぉおーん」
と、部屋の丸い電球に向かって狼の遠吠えを真似した。
その時の「お前には呆れたよ」って苦笑する綾人の顔が面白かったから、またやってやろう。
そして、おもちには不自由のない生活を送って欲しいから、まずはおもちのケージを買って、おもちゃとか、ご飯とかおやつとか、いつかキャットタワーも買いたいなんて話を綾人にしてたら、「まずは飼い主の俺らが焦らずおもちの成長を見守ろう」なんて言うもんだから、年下の扱いうますぎて笑う。
灯織が開店前のクラブのトイレ掃除をしている。
珍しい。あんなに掃除キライの灯織が鼻歌を歌いながらせっせと掃除してるなんて。
歌舞伎町のホストクラブCLUB SOLT幹部の大貫 雪は、その様子を片目におさめていた。
灯織が入店したのは、2年前の秋頃。体入でサクっと50万稼いだ灯織を気に入った店長が、灯織の働きぶりに価値を見出して、今年の春に幹部補佐に昇格させた。
雪は現在、年間売上1億を超えるCLUB SOLTのNo.1ホストだ。テレビの取材もちょくちょく受けている。ホストになって3年目でこんなに売上を伸ばせていられるのは、応援してくれる姫のおかげだ。
灯織はまだ21歳で若いし、容姿も整っている。美容へのケアを欠かさず、毎月きちんとヘアサロンやネイルサロン、美容医療に通っている売れっ子ホストだ。
この業界では珍しい、かわいいマスコットキャラクターのような性格をしていて、女の子への営業も熱心。何人もの太客を抱えていて、最近は灯織のバースデーのために、色々と動いている様子だった。
しかし、雪が灯織を見ていて違和感を覚えたのは4日ほど前。なんとなく、いつもの溌剌とした元気の良さがなくて体調でも悪いのかと思った。灯織は酒ヤクザだが、かなり細身で雪が見ても心配になる。灯織に「ちゃんとメシ食えよ」と、言いまくるのが他のホストとの合言葉のようだった。
それから、3日くらいは浮かない表情をしていた灯織だったが、今日になって出勤したらるんるんでトイレ掃除をしている。まあ、不思議なことはあるもんだと胸にしまい、雪は自身の姫にメッセージを送る。
ーーーーー
灯織は、トイレ掃除をしながら今朝した綾人との約束を思い出す。
「まず、おもちは良いとして、灯織。お前にはきっちり生活費を納めてもらう」
「うんっ!もちろん! 俺はホームレスから抜け出せて願ったり叶ったりだよう」
綾人が眉間に皺を寄せて言い切った。
「家賃、食費、交通費は俺と割り勘だ。おもちの養育費はお前に任せる」
「うん、いいけど、なんで?」
すう、と綾人が目を細める。きっとこれは、真剣なことを言うときの目だ。
「俺は日々、職場で動物の命を預かることの大切さを学ばせてもらっている。しかし、お前はまだ知らないだろう。まずは、養育費というかたちでおもちを養え。わかったら、わんって言え」
言葉のおしりのほうはなんか意地悪だったから、灯織は、
「うぉぉぉおーん」
と、部屋の丸い電球に向かって狼の遠吠えを真似した。
その時の「お前には呆れたよ」って苦笑する綾人の顔が面白かったから、またやってやろう。
そして、おもちには不自由のない生活を送って欲しいから、まずはおもちのケージを買って、おもちゃとか、ご飯とかおやつとか、いつかキャットタワーも買いたいなんて話を綾人にしてたら、「まずは飼い主の俺らが焦らずおもちの成長を見守ろう」なんて言うもんだから、年下の扱いうますぎて笑う。
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