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本編
2 少年の訴え
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世界の崩壊がはじまりずいぶんと経つ。
魔王が生み出す悪魔によって荒らされた大地には作物が実らない。ある場所では湧き出る水も毒水と化し、人の屍が重なった。
そのむごい光景を目の当たりにした少年はいてもたっていられず村を飛び出した。
多くの土地を浄化して救った聖女は今カラムにいると聞いて、そこへ目指した。
途中悪魔に襲われるかもしれないとわかっていたとしても。
「待っていて、みんな」
大人たちに制止されるのを振り切り、少年はある場所へと向かった。
救世神の力を受け継いだ聖女の元へ。
◇◇◇
カラムの収容所の一角の部屋で食事が用意されてあった。
レンジュをもてなす為に所長が用意したものなのだという。
「美味しそう」
レンジュは目をきらきらさせテーブルの上に並ぶ御馳走の傍へ寄った。テーブルのわきに腰をかけ、ラーフとギーラに座るように示した。
「あとで所長さんに感謝しなければね」
そう言いレンジュはパンをひとつ手に取る。
幸せそうに頬張る姿はどこにでもいる普通の少女のものであった。とても世界を救う聖女とは思えない。
「で、これからどうするのだ」
ラーフはスープを何口か口に含めた後質問した。
これからの行き先を尋ねているのだ。
「うーん、魔王退治するためにはやっぱりスミアへ行くべきだと思うの」
スミアというのは元はこのシンファ国の領土であったが、魔王が降り立ってからすっかり魔の都と化してしまった場所だ。
そこで魔王は日々多くの悪魔を作りだし、世に放っている。これにより魔の領域を拡張していった。
昔、スミアへ魔王退治に出た軍隊の者の手記にこう書かれていた。スミアに近づけば悪魔も強くなっていくという。主要な地位につく悪魔は魔王の周辺を固めているという。
レンジュは魔王を倒す為スミアを目指すというのだ。
「危険な旅だな」
「だから私がいるのだ」
ギーラはつんとして言った。
「私がいればレンジュ様は悪魔にも、魔王にも手を出させない。私が魔王を殺す」
そのはっきりとした物言いにレンジュは苦笑いした。
「レンジュ様の御手を汚すまでもありません」
「私が魔王退治をしたいと言ったの。だから、私が何もしないわけにはいかないわ」
「しかし」
ラーフははぁとため息をついた。
「責任の強い聖女様だ」
皮肉をこめて言う。それにレンジュは首を傾げた。
「確かに言いだしっぺがただ守られるだけなんて嫌だろうな。だけど、あんたに何ができる?」
レンジュの身体は衣装で隠れているが華奢で筋肉もろくについていない。とてもじゃないが剣をふるったり弓を引く力は期待できそうにない。
「あんたは聖女様なんだ。神輿に乗って大人しく守られれば良い」
「でも」
「足手まといって言っているんだ」
ラーフのはっきりとした物言いにレンジュはぴくりと震えた。
泣くか? ラーフは呆れたように食事の方へ視線を戻した。
「どわっ」
突然顔に熱いものがかかってきた。ギーラが熱いスープの器をラーフに向けて投げつけたのだ。
「あっち、何するんだ!」
「レンジュ様になんて無礼な物言いだ!」
「失礼? 本当のことだろうが。お前の言えないことをそのまま言ってやったんだ」
「私はレンジュ様を足手まといなんて思っていない」
ぎらぎらとした眼で睨みつけてくる男にラーフは呆れた。
なんだよ。こいつら。世間知らずの聖女様に、聖女様にべったり甘やかしの従者か。
これから共に旅をする者がこれとは不安だ。
「ギーラ、今のはギーラが悪いよ。熱いものを人へぶつけてはいけないし、食べ物を粗末にしてはいけない」
食事をしていたレンジュはギーラを優しく諭す。
「レンジュ様、やはり私は反対です。罪人を眷属に迎えようなんて。この男は相応しくない」
「それは救世神が決めることだよ。そしてラーフ自身の強さが決めます。もし、彼が認められていなければ、こうして私に会うことだってできなかった」
レンジュはにこりと笑って言った。
言っていることが意味わからず、ラーフは質問した。
「どういうことだ?」
眷属というのは何の話だろうか。
救世神が決めること。俺の強さが決めること。
さっぱりわからない。
話を続けようとすると外の方が騒がしくなった。
「何の騒ぎ?」
レンジュが首を傾げるとギーラが窓の方を見つめた。
「あれは」
外の様子をみたギーラはレンジュに説明した。
「どうやら子供が侵入してきて兵士と揉めているみたいです」
「どうして?」
「わかりません。ですが、子供はとても必死な表情でした」
それを聞きレンジュは立ち上がり、部屋を飛び出した。
「レンジュ様」
突然の行動にギーラは慌ててレンジュを追いかけた。
「おい」
話の途中で放り出すなんて、ラーフは何度目かのため息をついた。
「まぁ、すぐに戻ってくるだろう」
そう呟きテーブルの上の食事に手を出した。
しんと静まり返る食卓にてラーフは酒杯に酒を注いだ。久々の酒をあおるが特別美味とも感じられない。食事に手をつけようにもなかなか手を出せずにいた。
「くそ」
落ち着かずラーフは立ちあがり二人のあとを追った。
◇◇◇
「お願いしますっ。救世神の聖女に会わせて下さい」
少年は門衛に訴えた。
「ええい、帰れ! どこから知ったか知らんがお前のような汚い童を通すわけにはいかない」
「救世神の聖女は力なき者の味方のはず……どうか、俺の村を救ってください。悪魔に汚された村を」
「お前の村はトラン村だったな」
「はいっ」
門衛は呆れてため息をついた。
「悪いが、聖女様はお忙しい方だ。田舎村の出来事に耳を傾ける余裕などない」
「それを決めるのは私よ」
門衛は登場したレンジュの姿に驚いた。白い髪と空色の瞳を持つ少女は少年に手を差し伸べた。
「話を聞くよ」
少年は珍しい風貌の少女に眼を奪われた。
「あなたは」
「私はレンジュ。救世神様に仕える者」
「では、聖女様?」
少年はすぐにその場にひれ伏した。
「お願いします。どうか俺の村をトラン村をお救い下さい!」
「いいよ」
レンジュは笑って即答した。
魔王が生み出す悪魔によって荒らされた大地には作物が実らない。ある場所では湧き出る水も毒水と化し、人の屍が重なった。
そのむごい光景を目の当たりにした少年はいてもたっていられず村を飛び出した。
多くの土地を浄化して救った聖女は今カラムにいると聞いて、そこへ目指した。
途中悪魔に襲われるかもしれないとわかっていたとしても。
「待っていて、みんな」
大人たちに制止されるのを振り切り、少年はある場所へと向かった。
救世神の力を受け継いだ聖女の元へ。
◇◇◇
カラムの収容所の一角の部屋で食事が用意されてあった。
レンジュをもてなす為に所長が用意したものなのだという。
「美味しそう」
レンジュは目をきらきらさせテーブルの上に並ぶ御馳走の傍へ寄った。テーブルのわきに腰をかけ、ラーフとギーラに座るように示した。
「あとで所長さんに感謝しなければね」
そう言いレンジュはパンをひとつ手に取る。
幸せそうに頬張る姿はどこにでもいる普通の少女のものであった。とても世界を救う聖女とは思えない。
「で、これからどうするのだ」
ラーフはスープを何口か口に含めた後質問した。
これからの行き先を尋ねているのだ。
「うーん、魔王退治するためにはやっぱりスミアへ行くべきだと思うの」
スミアというのは元はこのシンファ国の領土であったが、魔王が降り立ってからすっかり魔の都と化してしまった場所だ。
そこで魔王は日々多くの悪魔を作りだし、世に放っている。これにより魔の領域を拡張していった。
昔、スミアへ魔王退治に出た軍隊の者の手記にこう書かれていた。スミアに近づけば悪魔も強くなっていくという。主要な地位につく悪魔は魔王の周辺を固めているという。
レンジュは魔王を倒す為スミアを目指すというのだ。
「危険な旅だな」
「だから私がいるのだ」
ギーラはつんとして言った。
「私がいればレンジュ様は悪魔にも、魔王にも手を出させない。私が魔王を殺す」
そのはっきりとした物言いにレンジュは苦笑いした。
「レンジュ様の御手を汚すまでもありません」
「私が魔王退治をしたいと言ったの。だから、私が何もしないわけにはいかないわ」
「しかし」
ラーフははぁとため息をついた。
「責任の強い聖女様だ」
皮肉をこめて言う。それにレンジュは首を傾げた。
「確かに言いだしっぺがただ守られるだけなんて嫌だろうな。だけど、あんたに何ができる?」
レンジュの身体は衣装で隠れているが華奢で筋肉もろくについていない。とてもじゃないが剣をふるったり弓を引く力は期待できそうにない。
「あんたは聖女様なんだ。神輿に乗って大人しく守られれば良い」
「でも」
「足手まといって言っているんだ」
ラーフのはっきりとした物言いにレンジュはぴくりと震えた。
泣くか? ラーフは呆れたように食事の方へ視線を戻した。
「どわっ」
突然顔に熱いものがかかってきた。ギーラが熱いスープの器をラーフに向けて投げつけたのだ。
「あっち、何するんだ!」
「レンジュ様になんて無礼な物言いだ!」
「失礼? 本当のことだろうが。お前の言えないことをそのまま言ってやったんだ」
「私はレンジュ様を足手まといなんて思っていない」
ぎらぎらとした眼で睨みつけてくる男にラーフは呆れた。
なんだよ。こいつら。世間知らずの聖女様に、聖女様にべったり甘やかしの従者か。
これから共に旅をする者がこれとは不安だ。
「ギーラ、今のはギーラが悪いよ。熱いものを人へぶつけてはいけないし、食べ物を粗末にしてはいけない」
食事をしていたレンジュはギーラを優しく諭す。
「レンジュ様、やはり私は反対です。罪人を眷属に迎えようなんて。この男は相応しくない」
「それは救世神が決めることだよ。そしてラーフ自身の強さが決めます。もし、彼が認められていなければ、こうして私に会うことだってできなかった」
レンジュはにこりと笑って言った。
言っていることが意味わからず、ラーフは質問した。
「どういうことだ?」
眷属というのは何の話だろうか。
救世神が決めること。俺の強さが決めること。
さっぱりわからない。
話を続けようとすると外の方が騒がしくなった。
「何の騒ぎ?」
レンジュが首を傾げるとギーラが窓の方を見つめた。
「あれは」
外の様子をみたギーラはレンジュに説明した。
「どうやら子供が侵入してきて兵士と揉めているみたいです」
「どうして?」
「わかりません。ですが、子供はとても必死な表情でした」
それを聞きレンジュは立ち上がり、部屋を飛び出した。
「レンジュ様」
突然の行動にギーラは慌ててレンジュを追いかけた。
「おい」
話の途中で放り出すなんて、ラーフは何度目かのため息をついた。
「まぁ、すぐに戻ってくるだろう」
そう呟きテーブルの上の食事に手を出した。
しんと静まり返る食卓にてラーフは酒杯に酒を注いだ。久々の酒をあおるが特別美味とも感じられない。食事に手をつけようにもなかなか手を出せずにいた。
「くそ」
落ち着かずラーフは立ちあがり二人のあとを追った。
◇◇◇
「お願いしますっ。救世神の聖女に会わせて下さい」
少年は門衛に訴えた。
「ええい、帰れ! どこから知ったか知らんがお前のような汚い童を通すわけにはいかない」
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「はいっ」
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「それを決めるのは私よ」
門衛は登場したレンジュの姿に驚いた。白い髪と空色の瞳を持つ少女は少年に手を差し伸べた。
「話を聞くよ」
少年は珍しい風貌の少女に眼を奪われた。
「あなたは」
「私はレンジュ。救世神様に仕える者」
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レンジュは笑って即答した。
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