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本編
40 ギーラと聖女
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魔王が世界に現れて百年の時が経とうとしていた。
その時から世界のあちこちに悪魔が出没するようになり、瘴気がばらまかれ病魔に苦しむ人々が後を絶たなかった。
悪魔によって汚された大地から実りは得られず、水の中に住む魚も腐り食べられる状況ではなかった。
問題はそれだけではない。
瘴気に中てられた者の中には正気を失い体が別のものに変化することもあった。
鋭い牙をもち目は充血し、人の食べ物では満足できないようになってしまう。彼らの食を満たすのは人の血肉であった。
世界には人食い鬼というものも存在するが、まさか無害と思っていた人まで人を襲い食う化け物になろうなんて想像できなかった。
ここまで酷い例はまだ数例のみであるが、確かに厄介なものとして存在していた。
こうして人であったのに人を襲う者になったことを瘴気に呑まれると表現した。
そしてギーラの一族にとって不名誉なことが起きた。
ギーラの妹・セーラが瘴気に呑まれてしまったのだ。
彼女は一族の女子供を殺し村を飛び出してしまった。
追いかけた戦士たちもセーラによって食われてしまった。
これ以上汚点を残すわけにはいかない。
ギーラは妹討伐に自身も参加しようとした。一族の者たちはギーラを止めた。
いくらセーラが正気を失ったとはいえ、兄が妹を殺すなど悲劇でしかない。
ギーラが村人と言い争っている時、村へ現れたのはまだ幼さの残る少女であった。
少女は空色の澄んだ瞳でギーラを見つめた。
ギーラはその美しい瞳に思わず目を奪われてしまった。
それが聖女となって間もないレンジュであった。
2年前に聖女となったばかりのまだ14歳の少女と聞くが、体が小さく10歳以下の幼女と感じた。
こんな幼女が村まで供をつけずにやってくるなど何と不用心だと村人は強く注意した。
これがギーラとレンジュの最初の出会いであった。
「私もつれて行ってください」
瘴気に呑まれた一族の娘を処分するために戦士たちが出ようとするなか外から来たレンジュはそう嘆願した。
村人たちはさすがに何かあれば大変だとレンジュの願いを聞こうとしなかった。
村人に止められたが、こっそり村から出ようとしたギーラへレンジュは願い出る。
ギーラはレンジュを足手まといだとあしらった。こっそりと出ようとしたのに騒がられて面倒だとギーラはいらだっていた。
「連れて行って!」
レンジュはギーラにしがみつき、叫んだ。
「危なくなったら助けなくていいから」
自己責任でよいとまでいう少女にギーラはついに折れて連れて行くこととなった。
そして変わり果てた妹を発見した。
すでに数人の戦士が妹を退治しようとしたが、狂気に包まれた妹は強く戦士たちを倒しその血肉をむさぼっていた。
美しかった翠色の髪は逆毛立ち、華奢な体から獣の匂いがした。
ギーラを目の前にし妹はにたぁっと笑った。
すでに目の前にいる男が兄であることも忘れてしまったのだ。
「哀れな……何故誇り高いデーヴァ一族の娘が瘴気に呑まれるのだ」
一刻も早く妹を退治しなければならない。そして恥を雪がなければならなかった。
「いけない! 妹を殺してはいけない」
レンジュはそう叫んだ。突然の言葉にギーラはあきれ果てた。
「何を言うんだ。こんな姿になっては退治するほかない」
そういいギーラは妹へ襲い掛かった。
妹は早く動きギーラの槍をかわしギーラの首に手をかけた。
強い力で首をしめられギーラは苦悶の表情を浮かべた。
足に力を入れ、妹の腹に思いきしって蹴りを入れる。
その衝撃に妹は転がりのたうち回った。
ギーラはそれに槍を構え妹に向けおろした。
「ダメ!」
レンジュは妹を抱きしめギーラの槍から守った。そのはずみにレンジュの左肩はギーラの槍の刃で抉られる。
ぼたぼたと雪の上にレンジュの血が染まっていく。
余計なことをしてくれる。
ギーラはレンジュの行動を激しく憤った。
「馬鹿者! 死にたいのか」
「妹殺しをさせるわけにはいかない!」
「何を……瘴気に呑まれ化け物と化した妹のせいで一族は汚された。それを雪ぐ為にこの私がなんとかしなければ」
デーヴァ一族は人の中では最も神に近い一族とされていた。
天人を祖に持つデーヴァ一族はこの世の叡智を身に着ける為、厳しい修行に耐え続ける。それが何よりもの誇りであった。
その一族から瘴気に呑まれ欲望のまま人の血肉をむさぼる化け物になった者が出た。
それがどれだけ天に対する恥であろうか。
現に妹はレンジュの腕にかみついて血を吸いだそうとしていた。
なんという一族の恥。
ギーラはその恥を雪がなければならない。
そう語るがレンジュは頑なに譲らずギーラを睨んだ。
「本当に、本当にあなたは妹を殺すことをよいことと思っているの? それであなたは救われるの?」
その言葉にギーラはイラついた。
妹を殺すことを本当によいとしているかだと。
そんなの思っているわけないだろう。
妹を殺したくないという気持ちはあった。
だが、このままでは妹は多くの人を傷つけて行くだろう。
「知った口をきくな。よそ者め! お前にはできるのか。この汚名を雪ぐことが」
「汚名なんて知らない!」
レンジュはぷいっとそっぽを向いた。そして目を閉ざしすぅっと息を吸った。その瞬間レンジュから白い光が溢れだした。
「なんだ、これは……」
とても温かい光に思わずギーラは感動を覚えてしまった。
妹の体から大量の瘴気が溢れだした。
黒い靄が大量に現れては少女の光に包み込まれていく。
すべての靄がなくなった瞬間、少女の光は消えた。
「お前は……」
「私はレンジュ。救世神より力を与えられ、世界を救うように使命づけられた者」
少女レンジュがそう名乗り少女を横たわらせた。
「……ん」
少女は目を覚まし慌てだした。
「兄様」
「ララ! わかるのか」
ギーラは正気を取り戻した妹に歩みよりその顔を覗き込んだ。
それは間違いなく妹のララの表情であった。
ララは目から大粒の涙を流した。
「私、ひどいことをしてしまった」
「……お前のせいではない」
そう言われララはにこりと微笑んだ。
「ありがとう」
そういい瞼を閉ざし息を吸う。
それは吐かれることがなかった。
ララの呼吸が止まってしまったのだ。
そして肉体は徐々に崩れていき、塵のように粉々になり消えて行った。
残されたのはララの衣服だけであった。
「ララ、何故だ」
「……」
確かにララは正気に戻ったはずだ。なのに、何故肉体が消えてしまったのだ。
理解できないとギーラはレンジュの胸倉を掴んだ。
「お前は救世神の聖女であろう。妹は浄化されたのだろう」
「はい」
「何故妹は死んだ!」
「私の力も限度があります。腐った大地・水を浄化することはできます。瘴気によって病を得た者を治癒することはできます」
だが、瘴気に呑まれ悪魔と同等の者になった者の命を救うことはできない。
「体も、心も、命の全てを瘴気の飲み込まれてしまったから、できるのは死ぬ直前に元の人の心を取り戻してさしあげること」
「この無能者め。何が聖女だ!」
そういいギーラはレンジュを投げ捨てた。ギーラはララの衣服を持ちその場を去ろうとした。
「あぐっ」
苦しそうに呻くレンジュの声にギーラは大げさな奴めと睨みつけた。
その瞬間レンジュの異変に慌てた。
レンジュの顔は真っ青で体中に酷い汗をまとわせていた。
まるで瘴気によって病を得た者のように。
「おい……」
「大丈夫。休めば戻ります」
心配しないでとレンジュは笑った。
「どういうことだ」
「私の力は、瘴気を体の中にとりこみ病へと置換させ自分の体力で治癒させるんです」
「妹の瘴気が、こうさせたのか?」
レンジュは苦しげに笑った。
触れれば手足は冷たくじわりと湿っていた。
そして頬と胸は信じられない程の熱さであった。
手から触れる脈拍は信じられない程弱かった。
酷い病に冒されている状況であることはいやでも伝わってくる。
この雪の中、放置してしまえばレンジュは弱って死んでしまうだろう。
「何故……妹は、浄化せず私が殺せば良かった。お前は力を使わず楽できただろう」
どうせ死ぬ運命だったのだから。
レンジュは悲し気に笑い、首を横に振った。
「……妹さんの心をあなたの元へ返したかった」
レンジュは笑った。その笑顔がとても儚く綺麗で、ギーラの心を強く揺り動かせた。
この時からギーラはレンジュの為に、レンジュの役目の為に働こうと誓った。彼女の望みをかなえる為。
その時から世界のあちこちに悪魔が出没するようになり、瘴気がばらまかれ病魔に苦しむ人々が後を絶たなかった。
悪魔によって汚された大地から実りは得られず、水の中に住む魚も腐り食べられる状況ではなかった。
問題はそれだけではない。
瘴気に中てられた者の中には正気を失い体が別のものに変化することもあった。
鋭い牙をもち目は充血し、人の食べ物では満足できないようになってしまう。彼らの食を満たすのは人の血肉であった。
世界には人食い鬼というものも存在するが、まさか無害と思っていた人まで人を襲い食う化け物になろうなんて想像できなかった。
ここまで酷い例はまだ数例のみであるが、確かに厄介なものとして存在していた。
こうして人であったのに人を襲う者になったことを瘴気に呑まれると表現した。
そしてギーラの一族にとって不名誉なことが起きた。
ギーラの妹・セーラが瘴気に呑まれてしまったのだ。
彼女は一族の女子供を殺し村を飛び出してしまった。
追いかけた戦士たちもセーラによって食われてしまった。
これ以上汚点を残すわけにはいかない。
ギーラは妹討伐に自身も参加しようとした。一族の者たちはギーラを止めた。
いくらセーラが正気を失ったとはいえ、兄が妹を殺すなど悲劇でしかない。
ギーラが村人と言い争っている時、村へ現れたのはまだ幼さの残る少女であった。
少女は空色の澄んだ瞳でギーラを見つめた。
ギーラはその美しい瞳に思わず目を奪われてしまった。
それが聖女となって間もないレンジュであった。
2年前に聖女となったばかりのまだ14歳の少女と聞くが、体が小さく10歳以下の幼女と感じた。
こんな幼女が村まで供をつけずにやってくるなど何と不用心だと村人は強く注意した。
これがギーラとレンジュの最初の出会いであった。
「私もつれて行ってください」
瘴気に呑まれた一族の娘を処分するために戦士たちが出ようとするなか外から来たレンジュはそう嘆願した。
村人たちはさすがに何かあれば大変だとレンジュの願いを聞こうとしなかった。
村人に止められたが、こっそり村から出ようとしたギーラへレンジュは願い出る。
ギーラはレンジュを足手まといだとあしらった。こっそりと出ようとしたのに騒がられて面倒だとギーラはいらだっていた。
「連れて行って!」
レンジュはギーラにしがみつき、叫んだ。
「危なくなったら助けなくていいから」
自己責任でよいとまでいう少女にギーラはついに折れて連れて行くこととなった。
そして変わり果てた妹を発見した。
すでに数人の戦士が妹を退治しようとしたが、狂気に包まれた妹は強く戦士たちを倒しその血肉をむさぼっていた。
美しかった翠色の髪は逆毛立ち、華奢な体から獣の匂いがした。
ギーラを目の前にし妹はにたぁっと笑った。
すでに目の前にいる男が兄であることも忘れてしまったのだ。
「哀れな……何故誇り高いデーヴァ一族の娘が瘴気に呑まれるのだ」
一刻も早く妹を退治しなければならない。そして恥を雪がなければならなかった。
「いけない! 妹を殺してはいけない」
レンジュはそう叫んだ。突然の言葉にギーラはあきれ果てた。
「何を言うんだ。こんな姿になっては退治するほかない」
そういいギーラは妹へ襲い掛かった。
妹は早く動きギーラの槍をかわしギーラの首に手をかけた。
強い力で首をしめられギーラは苦悶の表情を浮かべた。
足に力を入れ、妹の腹に思いきしって蹴りを入れる。
その衝撃に妹は転がりのたうち回った。
ギーラはそれに槍を構え妹に向けおろした。
「ダメ!」
レンジュは妹を抱きしめギーラの槍から守った。そのはずみにレンジュの左肩はギーラの槍の刃で抉られる。
ぼたぼたと雪の上にレンジュの血が染まっていく。
余計なことをしてくれる。
ギーラはレンジュの行動を激しく憤った。
「馬鹿者! 死にたいのか」
「妹殺しをさせるわけにはいかない!」
「何を……瘴気に呑まれ化け物と化した妹のせいで一族は汚された。それを雪ぐ為にこの私がなんとかしなければ」
デーヴァ一族は人の中では最も神に近い一族とされていた。
天人を祖に持つデーヴァ一族はこの世の叡智を身に着ける為、厳しい修行に耐え続ける。それが何よりもの誇りであった。
その一族から瘴気に呑まれ欲望のまま人の血肉をむさぼる化け物になった者が出た。
それがどれだけ天に対する恥であろうか。
現に妹はレンジュの腕にかみついて血を吸いだそうとしていた。
なんという一族の恥。
ギーラはその恥を雪がなければならない。
そう語るがレンジュは頑なに譲らずギーラを睨んだ。
「本当に、本当にあなたは妹を殺すことをよいことと思っているの? それであなたは救われるの?」
その言葉にギーラはイラついた。
妹を殺すことを本当によいとしているかだと。
そんなの思っているわけないだろう。
妹を殺したくないという気持ちはあった。
だが、このままでは妹は多くの人を傷つけて行くだろう。
「知った口をきくな。よそ者め! お前にはできるのか。この汚名を雪ぐことが」
「汚名なんて知らない!」
レンジュはぷいっとそっぽを向いた。そして目を閉ざしすぅっと息を吸った。その瞬間レンジュから白い光が溢れだした。
「なんだ、これは……」
とても温かい光に思わずギーラは感動を覚えてしまった。
妹の体から大量の瘴気が溢れだした。
黒い靄が大量に現れては少女の光に包み込まれていく。
すべての靄がなくなった瞬間、少女の光は消えた。
「お前は……」
「私はレンジュ。救世神より力を与えられ、世界を救うように使命づけられた者」
少女レンジュがそう名乗り少女を横たわらせた。
「……ん」
少女は目を覚まし慌てだした。
「兄様」
「ララ! わかるのか」
ギーラは正気を取り戻した妹に歩みよりその顔を覗き込んだ。
それは間違いなく妹のララの表情であった。
ララは目から大粒の涙を流した。
「私、ひどいことをしてしまった」
「……お前のせいではない」
そう言われララはにこりと微笑んだ。
「ありがとう」
そういい瞼を閉ざし息を吸う。
それは吐かれることがなかった。
ララの呼吸が止まってしまったのだ。
そして肉体は徐々に崩れていき、塵のように粉々になり消えて行った。
残されたのはララの衣服だけであった。
「ララ、何故だ」
「……」
確かにララは正気に戻ったはずだ。なのに、何故肉体が消えてしまったのだ。
理解できないとギーラはレンジュの胸倉を掴んだ。
「お前は救世神の聖女であろう。妹は浄化されたのだろう」
「はい」
「何故妹は死んだ!」
「私の力も限度があります。腐った大地・水を浄化することはできます。瘴気によって病を得た者を治癒することはできます」
だが、瘴気に呑まれ悪魔と同等の者になった者の命を救うことはできない。
「体も、心も、命の全てを瘴気の飲み込まれてしまったから、できるのは死ぬ直前に元の人の心を取り戻してさしあげること」
「この無能者め。何が聖女だ!」
そういいギーラはレンジュを投げ捨てた。ギーラはララの衣服を持ちその場を去ろうとした。
「あぐっ」
苦しそうに呻くレンジュの声にギーラは大げさな奴めと睨みつけた。
その瞬間レンジュの異変に慌てた。
レンジュの顔は真っ青で体中に酷い汗をまとわせていた。
まるで瘴気によって病を得た者のように。
「おい……」
「大丈夫。休めば戻ります」
心配しないでとレンジュは笑った。
「どういうことだ」
「私の力は、瘴気を体の中にとりこみ病へと置換させ自分の体力で治癒させるんです」
「妹の瘴気が、こうさせたのか?」
レンジュは苦しげに笑った。
触れれば手足は冷たくじわりと湿っていた。
そして頬と胸は信じられない程の熱さであった。
手から触れる脈拍は信じられない程弱かった。
酷い病に冒されている状況であることはいやでも伝わってくる。
この雪の中、放置してしまえばレンジュは弱って死んでしまうだろう。
「何故……妹は、浄化せず私が殺せば良かった。お前は力を使わず楽できただろう」
どうせ死ぬ運命だったのだから。
レンジュは悲し気に笑い、首を横に振った。
「……妹さんの心をあなたの元へ返したかった」
レンジュは笑った。その笑顔がとても儚く綺麗で、ギーラの心を強く揺り動かせた。
この時からギーラはレンジュの為に、レンジュの役目の為に働こうと誓った。彼女の望みをかなえる為。
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