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番外編
はじめてのクリスマス
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※本編最終回から1年後のギャグ話です。オチはありません。
「こんばんは。みなさん。アリーシャさまのサンタクロースのドロシーです! 今日は12月25日、アリーシャさまの為にプレゼントを届けようと思います」
どこに向けて話しているか不明であるドロシーは赤い衣装に身を包み白い袋に何かしら詰め込んでいた。
アリーシャは幼少時の環境によりサンタクロースというものを知らない。
あの村は異教徒の世界だし、それは仕方ないことである。
去年はティティスの呪いでごたごたしてクリスマスどころではなかった。
今年はアリーシャがはじめて迎えるクリスマスイベントなのだ。
「待っててくださいね、アリーシャさま」
ちなみにスポンサーはベルタ宮の主、王太后テレサさまの提供でお送りしています。
浮足だってドロシーはアリーシャが棲んでいる屋敷へと訪れた。
王都郊外の閑散とした土地、夜はとても静かなものであった。
敬虔なロマ教信者である夫のシオンは、クリスマスの夜は静かに祈りを捧げ家族と過ごすものと考えて良そうだ。
「はじめてのクリスマスがこんな静かで寂しいものだなんて思わせるのはあまりに酷です。行きますよ、トナカイさん」
「何でだよ」
トナカイの着ぐるみを来た護衛の男は呆れながらツッコミを入れた。
「そもそも何故俺はここにいるんだ」
トナカイは呆れてため息をついた。
「それはレディー一人夜道を歩くのは危険だからと護衛を用意しましょうとテレサ様がいってくださったので、あなたを指名したからです」
「王太后の侍女が、侯爵を護衛に指名するなんて」
トナカイ、否クロックベル侯爵アルバートは深くため息をついた。
「いいじゃないですか。シャーリーストーン家についてご存じでアリーシャ様の兄だったあなた程最適者はいません」
「というか今の俺はあいつとは他人なんだけど」
アリーシャは世間的に死んだということになっており、今のアリーシャはただのアリーシャである。
クロックベル侯爵家とは関わる予定もないと聞いていた。
「でも、あなただって気になるでしょう。アリーシャさまとシオンさまのこれからとか色々。このまま会わずに過ごすつもりですか」
「そのつもりだ。そもそも会わす顔もないだろう」
アリーシャの受けた悲劇はクロックベル侯爵家に責任がある。
アルバートは回帰前結果的にアリーシャを救い出すこともできず、今回もアリーシャを助けることもできなかった。
アリーシャがこのまま花姫だったときの自分、侯爵家令嬢だった自分を捨てたいというのであればアルバートは彼女に会うべきではない。
「んもう、素直じゃないのですから。だからあなたの為に顔を用意してさしあげました」
とっても良いことだと言わんばかりのドロシーの笑顔にアルバートは何度目かのため息をついた。
このトナカイの着ぐるみはドロシーが特別に発注したものである。
気配遮断もでき、情報がないなら誰なのかすぐに気づくことはできない。
「一緒にプレゼントを渡して、二人が無事過ごしているのをみてもばちはあたらないでしょう」
「余計なことを」
一応は王太后の命令である。
文句を言いながらアルバートは今回の任務は遂行するつもりである。
着ぐるみを着せられるとは思わなかったが、確かにこちらの方がアルバートとしては助かった。
でも、シオンはあれで勘がいいから気づくかもしれない。
そうなれば後日何といわれるか。
「行きましょう! トナカイさん」
気合を入れて敷地へ入ろうとするドロシーたちを止める障害が現れた。
「ちょっとお待ちになって!」
上品な言葉とともに現れた美しい馬車、家紋をみると名門スプリングフィールドのものであった。
馬車の扉が開き現れたのはアルバートと同じとなかいであった。
「とな、かい?」
ドロシーは自分と同じものを準備する者がいるとは思わず驚いてしまった。
そのとなかいがエスコートして現れたのはサンタをモチーフにした赤いドレスを着たローズマリーであった。
ドロシーは定番のサンタクロース姿であるが、ローズマリーの姿は冬の貴婦人のようであった。
「アリーシャさまのサンタクロースはこの私です。お引き取りください」
「な、何ですか。突然現れて失礼です」
「まず南方の異教徒、神官一族のあなたにはわからないことでしょう。サンタクロースは北の国の聖人、つまり北の大公領からやってきたこの私こそアリーシャさまのサンタクロースに相応しいのです」
「何ですか。その無理やり感。サンタクロースは宗教をも越え、良い子へプレゼントを与えてくれるのですよ。出身地など関係ありません」
ドロシーとローズマリーはじっと視線を交わし一歩も譲らなかった。
「こうなっては仕方ありません。どちらがサンタクロースに相応しいか勝負です」
「もちろんです」
「思えばあなたとは前からけりをつけたかったのです。王宮で、いつもアリーシャさまの傍にいて」
朝のおはようから夜のおやすみまで一緒なのは正直羨ましい。
しかし、ローズマリーは公爵家令嬢、対立関係の花姫にそこまで望むのは憚れた。
「私もです。アリーシャさまの前ではかまととぶって、以前から気に喰わないと思っていました」
冬の、雪合戦の開幕である。
ドロシーとアルバート対ローズマリーととなかいである。
それよりも向こうのとなかいは誰だろうか。
多分、公爵家ゆかりの騎士だとは思うが。
「何をやっているのです」
外が騒がしいので現れたアリーシャは呆れながら声をかけてきた。
雪だらけのドロシーとローズマリーはぱぁっと明るい表情でアリーシャへと近づいた。
駆けつけると同時にドロシーへの攻撃の雪玉が命中しドロシーが一歩遅れてしまった。
「アリーシャさま、いけませんよ。外は寒いのだから」
「いえ、そんな寒そうな姿をしたローズマリーさまに言われても困るのだけど」
ショールを羽織ったアリーシャの姿は確かに12月の夜には寒そうな姿である。
だが、それ以上に肩を出しているローズマリーの赤いドレスの方がよっぽど寒そうだった。
さすがに見ていられないとアリーシャは持っていたショールをローズマリーの肩にかける。
「まぁ、アリーシャさま。何とお優しいのかしら」
ローズマリーはぽっと頬を赤く染めた。
別にアリーシャではなくてもこんな寒い姿をみていればそうしたくなるだろう。
「わぁ、ずるいです。じゃなかった。アリーシャさま、メリークリスマスです」
ドロシーは白い袋からプレゼントを差し出した。
中にはテレサからの贈り物もある。
「アリーシャさまの優しさでつい職務を忘れてしまいましたわ。アリーシャさま、あなたのサンタクロースがプレゼントを贈りに来ました」
といいながらもローズマリーは手ぶらであった。
とてとてと遅れた形でとなかいの着ぐるみが現れた。
ローズマリーのお付きのとなかいである彼はぽけっとから小さい包みの箱を差し出した。
「あ、ありがとうございます?」
「だれ?」と言いたいアリーシャは何となく確認してはならないような気がしてお礼だけを述べた。
「アリーシャ、外は寒いのだから早く屋敷に戻りなさい」
シオンがコートを持ってアリーシャの方へ近づいた。コートをアリーシャに羽織らせる。
「大丈夫よ。すぐ戻るつもりだったし。彼らの接待は私がするから」
シオンはぺこりと客人に挨拶をした。
「妻の為にありがとう。できれば屋敷で食事をと招待したのだけど……」
シオンは困った表情であたりをみた。
さすがに死神の一族と呼ばれるシャーリーストーン家へお呼ばれしたとなると彼らの今後の周りからの風評被害が心配である。
「あ、大丈夫です。わたしはそんなこと気にしません」
「北の領地滞在の私も特に気にしていません」
ドロシーとローズマリーはシオンの招待を快く受け入れた。
アリーシャと共に二人は屋敷へ入っていく。
さて、後ろにいるとなかいたちはどうか。
「アル、と……あなたさまもよろしいでしょうか?」
やはり気づいたかとアルバートはこくりと頷いた。
ローズマリーの連れて来たとなかいも同様である。
アリーシャの前で姿を晒すつもりはないので、となかい二人はそのままの姿で過ごしていた。
さすがに大変だろうとシオンはとなかいを別室へと案内し、お酒をふるまった。
アリーシャに見られたくなかったアルバートは助かったときぐるみを脱いだ。
「よく俺だと気づいたな」
「まぁ、何となくですが……あなたもよろしければどうぞ。温めたワインを持ってきました」
ずっと無言のとなかいはじっとシオンを見つめた。
シオンはにこりと微笑み、恭しく言う。
「大丈夫ですよ。アリーシャが近づいたら足止めしますので、あなたの姿を見られないように配慮します」
もう一人のとなかいの着ぐるみは無言のまま頭の部分を脱いだ。
アルバートは「あ」と驚いたが、シオンはやはりと落ち着いた様子であった。
「お前、あの方のことも気づいたのか」
「ええ、目の奥の部分をみて何となく。エレンさまと同じ目だなと思ったので」
となかいの目の部分でそれに気づくなど、シオンはとんでもないなとアルバートは関心した。
温めたワインを口にしてもう一人のとなかいはふぅっとため息をついた。
一方アリーシャは食堂で一族の子供と、ドロシー、ローズマリーの接待をしていた。
ローズマリーからのプレゼントは防寒具の一式であった。大公領でとれた白い獣の毛皮で作られたマフラーに手袋、暖かそうなコートと帽子であった。
「北程ではないとはいえ、王都の冬は冷えますので……あと、こちらは葛湯のもとです。食事がとれなかった時に使っていただければと思いました」
「……ありがとう。ご存じなのですね」
「ええ、家を出たとはいえ実家の情報網はまだ持っていますので」
アリーシャ周辺のことも把握済みであるとローズマリーは微笑んだ。
「アリーシャさま、私のもみてください」
ドロシーからのプレゼントの中身をみて、アリーシャは懐かしく微笑んだ。
「アンジェリカね」
「はい。1年間、一緒に修行してパワーアップしたアンジェリカです。きっとアリーシャさまを守ってくれます。ですから頑張ってください」
「二人ともありがとうございます」
アリーシャの笑顔に二人はふふっと笑った。
1年前まで彼女はこのように笑えなかった。
ある男と出会い、彼と生きていくことで得た笑顔に仕方ないながらシオンを認めざるを得ない。
「来年また来ます。その時はお腹の子の分も準備しますね」
ドロシーの言葉に負けずとローズマリーも手をあげた。
来年は来るのは叶わないかもしれないが、手紙と贈り物を届けにくると。
アリーシャは素直に二人に感謝し、後日改めてお礼を贈りたいと言った。
「こんばんは。みなさん。アリーシャさまのサンタクロースのドロシーです! 今日は12月25日、アリーシャさまの為にプレゼントを届けようと思います」
どこに向けて話しているか不明であるドロシーは赤い衣装に身を包み白い袋に何かしら詰め込んでいた。
アリーシャは幼少時の環境によりサンタクロースというものを知らない。
あの村は異教徒の世界だし、それは仕方ないことである。
去年はティティスの呪いでごたごたしてクリスマスどころではなかった。
今年はアリーシャがはじめて迎えるクリスマスイベントなのだ。
「待っててくださいね、アリーシャさま」
ちなみにスポンサーはベルタ宮の主、王太后テレサさまの提供でお送りしています。
浮足だってドロシーはアリーシャが棲んでいる屋敷へと訪れた。
王都郊外の閑散とした土地、夜はとても静かなものであった。
敬虔なロマ教信者である夫のシオンは、クリスマスの夜は静かに祈りを捧げ家族と過ごすものと考えて良そうだ。
「はじめてのクリスマスがこんな静かで寂しいものだなんて思わせるのはあまりに酷です。行きますよ、トナカイさん」
「何でだよ」
トナカイの着ぐるみを来た護衛の男は呆れながらツッコミを入れた。
「そもそも何故俺はここにいるんだ」
トナカイは呆れてため息をついた。
「それはレディー一人夜道を歩くのは危険だからと護衛を用意しましょうとテレサ様がいってくださったので、あなたを指名したからです」
「王太后の侍女が、侯爵を護衛に指名するなんて」
トナカイ、否クロックベル侯爵アルバートは深くため息をついた。
「いいじゃないですか。シャーリーストーン家についてご存じでアリーシャ様の兄だったあなた程最適者はいません」
「というか今の俺はあいつとは他人なんだけど」
アリーシャは世間的に死んだということになっており、今のアリーシャはただのアリーシャである。
クロックベル侯爵家とは関わる予定もないと聞いていた。
「でも、あなただって気になるでしょう。アリーシャさまとシオンさまのこれからとか色々。このまま会わずに過ごすつもりですか」
「そのつもりだ。そもそも会わす顔もないだろう」
アリーシャの受けた悲劇はクロックベル侯爵家に責任がある。
アルバートは回帰前結果的にアリーシャを救い出すこともできず、今回もアリーシャを助けることもできなかった。
アリーシャがこのまま花姫だったときの自分、侯爵家令嬢だった自分を捨てたいというのであればアルバートは彼女に会うべきではない。
「んもう、素直じゃないのですから。だからあなたの為に顔を用意してさしあげました」
とっても良いことだと言わんばかりのドロシーの笑顔にアルバートは何度目かのため息をついた。
このトナカイの着ぐるみはドロシーが特別に発注したものである。
気配遮断もでき、情報がないなら誰なのかすぐに気づくことはできない。
「一緒にプレゼントを渡して、二人が無事過ごしているのをみてもばちはあたらないでしょう」
「余計なことを」
一応は王太后の命令である。
文句を言いながらアルバートは今回の任務は遂行するつもりである。
着ぐるみを着せられるとは思わなかったが、確かにこちらの方がアルバートとしては助かった。
でも、シオンはあれで勘がいいから気づくかもしれない。
そうなれば後日何といわれるか。
「行きましょう! トナカイさん」
気合を入れて敷地へ入ろうとするドロシーたちを止める障害が現れた。
「ちょっとお待ちになって!」
上品な言葉とともに現れた美しい馬車、家紋をみると名門スプリングフィールドのものであった。
馬車の扉が開き現れたのはアルバートと同じとなかいであった。
「とな、かい?」
ドロシーは自分と同じものを準備する者がいるとは思わず驚いてしまった。
そのとなかいがエスコートして現れたのはサンタをモチーフにした赤いドレスを着たローズマリーであった。
ドロシーは定番のサンタクロース姿であるが、ローズマリーの姿は冬の貴婦人のようであった。
「アリーシャさまのサンタクロースはこの私です。お引き取りください」
「な、何ですか。突然現れて失礼です」
「まず南方の異教徒、神官一族のあなたにはわからないことでしょう。サンタクロースは北の国の聖人、つまり北の大公領からやってきたこの私こそアリーシャさまのサンタクロースに相応しいのです」
「何ですか。その無理やり感。サンタクロースは宗教をも越え、良い子へプレゼントを与えてくれるのですよ。出身地など関係ありません」
ドロシーとローズマリーはじっと視線を交わし一歩も譲らなかった。
「こうなっては仕方ありません。どちらがサンタクロースに相応しいか勝負です」
「もちろんです」
「思えばあなたとは前からけりをつけたかったのです。王宮で、いつもアリーシャさまの傍にいて」
朝のおはようから夜のおやすみまで一緒なのは正直羨ましい。
しかし、ローズマリーは公爵家令嬢、対立関係の花姫にそこまで望むのは憚れた。
「私もです。アリーシャさまの前ではかまととぶって、以前から気に喰わないと思っていました」
冬の、雪合戦の開幕である。
ドロシーとアルバート対ローズマリーととなかいである。
それよりも向こうのとなかいは誰だろうか。
多分、公爵家ゆかりの騎士だとは思うが。
「何をやっているのです」
外が騒がしいので現れたアリーシャは呆れながら声をかけてきた。
雪だらけのドロシーとローズマリーはぱぁっと明るい表情でアリーシャへと近づいた。
駆けつけると同時にドロシーへの攻撃の雪玉が命中しドロシーが一歩遅れてしまった。
「アリーシャさま、いけませんよ。外は寒いのだから」
「いえ、そんな寒そうな姿をしたローズマリーさまに言われても困るのだけど」
ショールを羽織ったアリーシャの姿は確かに12月の夜には寒そうな姿である。
だが、それ以上に肩を出しているローズマリーの赤いドレスの方がよっぽど寒そうだった。
さすがに見ていられないとアリーシャは持っていたショールをローズマリーの肩にかける。
「まぁ、アリーシャさま。何とお優しいのかしら」
ローズマリーはぽっと頬を赤く染めた。
別にアリーシャではなくてもこんな寒い姿をみていればそうしたくなるだろう。
「わぁ、ずるいです。じゃなかった。アリーシャさま、メリークリスマスです」
ドロシーは白い袋からプレゼントを差し出した。
中にはテレサからの贈り物もある。
「アリーシャさまの優しさでつい職務を忘れてしまいましたわ。アリーシャさま、あなたのサンタクロースがプレゼントを贈りに来ました」
といいながらもローズマリーは手ぶらであった。
とてとてと遅れた形でとなかいの着ぐるみが現れた。
ローズマリーのお付きのとなかいである彼はぽけっとから小さい包みの箱を差し出した。
「あ、ありがとうございます?」
「だれ?」と言いたいアリーシャは何となく確認してはならないような気がしてお礼だけを述べた。
「アリーシャ、外は寒いのだから早く屋敷に戻りなさい」
シオンがコートを持ってアリーシャの方へ近づいた。コートをアリーシャに羽織らせる。
「大丈夫よ。すぐ戻るつもりだったし。彼らの接待は私がするから」
シオンはぺこりと客人に挨拶をした。
「妻の為にありがとう。できれば屋敷で食事をと招待したのだけど……」
シオンは困った表情であたりをみた。
さすがに死神の一族と呼ばれるシャーリーストーン家へお呼ばれしたとなると彼らの今後の周りからの風評被害が心配である。
「あ、大丈夫です。わたしはそんなこと気にしません」
「北の領地滞在の私も特に気にしていません」
ドロシーとローズマリーはシオンの招待を快く受け入れた。
アリーシャと共に二人は屋敷へ入っていく。
さて、後ろにいるとなかいたちはどうか。
「アル、と……あなたさまもよろしいでしょうか?」
やはり気づいたかとアルバートはこくりと頷いた。
ローズマリーの連れて来たとなかいも同様である。
アリーシャの前で姿を晒すつもりはないので、となかい二人はそのままの姿で過ごしていた。
さすがに大変だろうとシオンはとなかいを別室へと案内し、お酒をふるまった。
アリーシャに見られたくなかったアルバートは助かったときぐるみを脱いだ。
「よく俺だと気づいたな」
「まぁ、何となくですが……あなたもよろしければどうぞ。温めたワインを持ってきました」
ずっと無言のとなかいはじっとシオンを見つめた。
シオンはにこりと微笑み、恭しく言う。
「大丈夫ですよ。アリーシャが近づいたら足止めしますので、あなたの姿を見られないように配慮します」
もう一人のとなかいの着ぐるみは無言のまま頭の部分を脱いだ。
アルバートは「あ」と驚いたが、シオンはやはりと落ち着いた様子であった。
「お前、あの方のことも気づいたのか」
「ええ、目の奥の部分をみて何となく。エレンさまと同じ目だなと思ったので」
となかいの目の部分でそれに気づくなど、シオンはとんでもないなとアルバートは関心した。
温めたワインを口にしてもう一人のとなかいはふぅっとため息をついた。
一方アリーシャは食堂で一族の子供と、ドロシー、ローズマリーの接待をしていた。
ローズマリーからのプレゼントは防寒具の一式であった。大公領でとれた白い獣の毛皮で作られたマフラーに手袋、暖かそうなコートと帽子であった。
「北程ではないとはいえ、王都の冬は冷えますので……あと、こちらは葛湯のもとです。食事がとれなかった時に使っていただければと思いました」
「……ありがとう。ご存じなのですね」
「ええ、家を出たとはいえ実家の情報網はまだ持っていますので」
アリーシャ周辺のことも把握済みであるとローズマリーは微笑んだ。
「アリーシャさま、私のもみてください」
ドロシーからのプレゼントの中身をみて、アリーシャは懐かしく微笑んだ。
「アンジェリカね」
「はい。1年間、一緒に修行してパワーアップしたアンジェリカです。きっとアリーシャさまを守ってくれます。ですから頑張ってください」
「二人ともありがとうございます」
アリーシャの笑顔に二人はふふっと笑った。
1年前まで彼女はこのように笑えなかった。
ある男と出会い、彼と生きていくことで得た笑顔に仕方ないながらシオンを認めざるを得ない。
「来年また来ます。その時はお腹の子の分も準備しますね」
ドロシーの言葉に負けずとローズマリーも手をあげた。
来年は来るのは叶わないかもしれないが、手紙と贈り物を届けにくると。
アリーシャは素直に二人に感謝し、後日改めてお礼を贈りたいと言った。
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