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本編
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とある国、貴族令息、令嬢が通う学園の卒業パーティーでハプニングが起きた。
「ソフィア・ラテット! お前とは婚約破棄だ!」
ざわめくパーティーホール。
呆れながらも何とか取り繕っていたのは婚約破棄を言い渡された令嬢、ソフィア・ラテット。
ラテット伯爵家令嬢である。
対して、婚約破棄を言い渡したのはアレックス・シルヴェリウス。由緒正しきシルヴェリウス公爵家の長男坊だ。
「アレックス様、今の発言に責任は持てますか?」
何とか出た冷静な質問。
これが可愛げないとアレックスは眉を歪めた。
「ああ。何だったらシルヴェリウス家の守護神アルテナ様に誓おうではないか!」
公の場で家の守護神の名を出しての誓いは絶対である。
これで今の発言撤廃はできないだろう。
さて、ここまでに至るまでの二人の関係について語る。
話は長くなるのだが、二人は学園初等科に通学中に婚約することに至った。
まだ10歳にならない頃だ。
「ソフィアと申します」
ラテット伯爵家屋敷に挨拶に来たアレックスにソフィアは名乗った。
アレックスはじっと家族の肖像画を眺めていた。
ソフィアと、両親、兄二人と猫。
ソフィアに声をかけられてようやくアレックスは顔を振り向いた。
「アレックスだ。お前は猫を飼っているのか?」
尋ねるより前に現れたのはソフィアの飼い猫であった。
「はい、名前は……」
「我が家は猫厳禁だ」
アレックスはぴしゃりと猫への拒否を示した。
「何しろ、我が家の守護神アルテナ様は猫アレルギーなのだ。領地内なら許容されるが、アルテナ様の祭壇がある当家屋敷では猫は入れない。私の嫁になるならば猫は諦めるんだな」
すらすらと出た説明にソフィアは悲しげに猫を見つめた。
結婚する前に別れなければならないと突き付けられるなんて。
「飼うなら犬をすすめる。犬は賢いし主人に従順だ」
犬のよさを語るアレックスは突然語るのをやめた。
見てみると彼の足に猫がかじりついているではないか。
「ぎゃー!! このクソ猫!」
「リィナ、ダメでしょ!」
今にも猫に怒りをぶつけようとするアレックスから庇うようにソフィアは猫を抱きしめた。
猫はつんとした様子だった。
二人の出会いはあまりいいものではなかった。
その後の交流もである。
これは学園の初等科の授業でのことだ。
この日は魔術の基礎訓練の日であった。
「ファイヤーボール!」
アレックスが叫ぶと訓練用の藁人形にめがけて火球が飛んでいった。藁人形は瞬時に燃え盛る。
「おー、すげー」
「さすがアレックス様!」
生徒たちはアレックスを称賛した。
教師は複雑な表情でアレックスに注意する。
「アレックスくん。今日は基礎訓練だから、藁人形は使わないよ」
アレックスはにやりと笑った。
「でも、先生。ここにいる半分以上の生徒はみんな家で基礎を学んでいます。基礎なんて今更でしょう?」
「あなたがたはまだ幼い。基礎ができるとあなどらずにまだまだ魔術能力の発達段階で基礎をしっかりしていくことが大事で……」
「っち、うるさいな」
舌打ちするアレックスは教師に提案した。
「なら先生! 俺と勝負してよ。俺が勝てば高等科の模擬戦への見学にする」
「え、えと」
決めきれない教師にアレックスは決定だと言わんばかりに詠唱を始めた。
「ファイヤーボ」
「ウォーターフォール」
アレックスが唱えると同時に、ソフィアが詠唱を終わらせた。
彼女が魔術で出した水により、アレックスの火はかき消されていた。
「何をするんだ!」
「アレックス様、今のは初歩。基礎さえできていればあなたの火は消えてませんでした」
ソフィアは冷静に言う。
「基礎訓練をしましょう」
それに周りの生徒たちは一瞬で怯み、形勢はアレックスに不利となった。
実力だけ見れば、アレックスの成績は優秀である。
教師に強く意見を言えるのも頷けるほどに。
しかし、それは公爵家の教育のおかげだ。
公爵家で他より早く学んだだけでもある。
ソフィアはそれが危ういと感じて何度もアレックスを注意するが、あまり響かなかった。
ソフィアとアレックス。
幼い頃から決められた婚約者同士であるが、考えが合わずに反目し合っていた。
主に反発していたのは、アレックスの方だった。
それでも中等科に入る頃には一時的に改善されていた。
祖父トルシカ辺境伯の一喝は確かに効いたのだ。
ソフィアとも少しずつ関係構築が進み、合わないながらも信頼関係を築くように努力が見られた。
一変したのは高等科に入った後。
卒業年の頃。
「アレックスさまぁ、お疲れ様です!」
剣の訓練が終わる頃に待ち合わせていたのはアレックスの婚約者ではない、恋人であった。
リリアンヌ・バートン。
田舎の男爵家令嬢で、ふわふわした髪につぶらな瞳が愛らしい少女だった。
「おー、リリー。私を待ってくれたのか」
「アレックスさまにタオルを渡したかったから」
にこにこと微笑むリリアンヌはタオルを差し出した。
「いくら何でも距離近くない?」
「アレックス様にはソフィア様がいるのに」
周りの女子生徒たちはひそひそと噂し合った。
その噂は当然ソフィアの耳に届いている。
「リリアンヌ、少しやりすぎではないの?」
注意は必要とソフィアはリリアンヌに声をかけてきた。その瞳は厳しいもので、リリアンヌはうるっと瞳を潤わせた。
「こら、ソフィア! リリーをいじめるな」
助けに入るアレックス。リリアンヌは甘えるようにアレックスに擦り寄った。
「おお、可哀想なリリーよ。もう大丈夫だ」
よしよしとアレックスはリリアンヌを撫でる。そしてきっとソフィアを睨んだ。
「何故お前はリリーをいじめるのだ」
アレックスの視線に怯むどころかソフィアはため息をついた。
「アレックス様、申し訳ありませんがその子は化け猫で」
「何てひどい奴だ! リリーがいくら憎いからといって化け猫呼ばわりなど」
ソフィアの話を中断して憤慨するアレックス、それに同調するリリアンヌの姿は何とも言えない気分になる。
「行こう! リリー」
「えーん、化け猫と呼ばれたよー!」
手を引くアレックス、泣きながらついていくリリアンヌ。二人の後ろ姿を見てソフィアは何度目になるかわからないため息をした。
◆
こうしてこじれにこじれた二人の関係は修復されることなく、学園卒業パーティーへと持ち越される。
卒業生たちは自分の婚約者をパートナーにするのが慣習となっていた。
アレックスはソフィアをエスコートすることもなく、別々の参加とした。
そして、今行われたのがアレックスによる婚約破棄であった。
「そして私はリリアンヌ・バートン男爵令嬢を新たな婚約者と……あれ、リリー?」
そこまでの宣言をしようとしたが、観衆から飛び出したリリアンヌはアレックスを通り抜けていく。
そして、ソフィアに抱きついた。
「やったー! 婚約破棄! 婚約破棄!」
ソフィアにしがみつきながらぴょんぴょんと跳ねる姿は無邪気なものだった。
仕方ない子だと、ソフィアはリリアンヌの頭を撫でる。
「全く私の負けだわ。リィナ」
そう言うと、リリアンヌの姿は消えてドレスがそのまま崩れ落ちる。
代わりに現れたのは毛艶のよい、猫だった。
ソフィアは猫を大事に抱き抱えた。
「は? え?」
「アレックス様も会ったことあるでしょう? 私の飼い猫のリリアンヌ。あだなはリィナです」
にゃおと可愛らしくて鳴く猫は過去の記憶にある猫だった。
二人の初対面で、アレックスの足に齧り付いた猫。
「待て、どういうことだ」
「リィナは化け猫です。あなたは化かされていたのです」
簡単な種明かしに、リィナはぷぷーと笑っていた。
「だから何で」
「私があなたの元へ嫁ぐと私とリィナは離れ離れになります。それを嫌がったリィナが婚約破棄を仕向けたのです」
「じゃあ、私は? 私の恋人リリーは??」
「あなたの恋人リリーは私の飼い猫で、毎夜私と一緒に寝ています」
残酷な現実をつきつける。
その場に崩れ落ちるアレックスは何と滑稽だろう。
「何故こんなことを! おのれ化け猫」
怒りまかせにアレックスはファイヤーボールの詠唱を唱える。ソフィアは冷静にウォーターフォールの詠唱を唱え、火を消した。
「まさかこんなにあっさりリィナにしてやられるとは思いませんでした」
ソフィアはリィナの頭を撫でた。
婚約破棄された今、ソフィアとアレックスの関係は終わった。今ソフィアが守るべきは愛猫リィナである。
「ほんとにゃ。私も驚いたにゃ」
くすくすとイタズラげに笑う化け猫。
「確かにちょこっと魅了は使ったけど初等科の基礎をしっかりしていれば無意識にはれる精神予防で回避できたにゃ」
解説する化け猫の言葉にソフィアはうんうんと頷いた。
「だから基礎はしっかりしましょうと言ったのに」
ソフィアから出たのは残念そうな呟きである。
「いや、こんなこと想定できないだろ! 初見殺しもいいとこだ!」
アレックスは納得できず叫んだ。
「いい加減にしないか。アレックス」
前に出たのは、カイン・シルヴェリウス公爵。アレックスの父であった。
「父上」
「これも全ては未熟なお前が招いたこと。ソフィア嬢と猫ちゃんの言っている通り、基礎を疎かにしていなければこうはならなかった」
今さりげなく猫ちゃんと言ったが、誰もつっこめなかった。
「これも我が家の教育不届が招いたこと。お前は卒業後トルシカ辺境領で義父に鍛えてもらうしかない」
「え、あんな魔物だらけの」
トルシカ辺境領は、凶暴な魔物が出没する危険区域であった。トルシカ辺境伯のおかげで、治安が安定化しつつあるがまだまだ危険が多い。
「お前に必要なことは周りからの信頼だ。まずは辺境で人に教えを乞い、連携できるようになること。そうでなければお前に家督は譲れない!」
「そ、そんな」
父に言われたことに反論できずにアレックスはがくりと項垂れた。
こうして婚約破棄は幕を下ろした。
ソフィアはシルヴェリウス公爵家から謝罪と慰謝料を受け取った。
「しばらく私に婚約を申し込む男はいないし、外で働こうかな。アニマルセラピーのお世話係を募集……」
求人を見ながらソフィアは興味を示した。
「見学にいこうかな」
「ソフィアが行くなら、リィナもいくにゃ! リィナは世界一のセラピーキャットになるにゃ!」
リィナはすぽっとソフィアの脇に顔を通して、するりとソフィアの膝下にまわる。
猫の仕草を見てソフィアは目を細めてリィナを撫でた。
(終わり)
「ソフィア・ラテット! お前とは婚約破棄だ!」
ざわめくパーティーホール。
呆れながらも何とか取り繕っていたのは婚約破棄を言い渡された令嬢、ソフィア・ラテット。
ラテット伯爵家令嬢である。
対して、婚約破棄を言い渡したのはアレックス・シルヴェリウス。由緒正しきシルヴェリウス公爵家の長男坊だ。
「アレックス様、今の発言に責任は持てますか?」
何とか出た冷静な質問。
これが可愛げないとアレックスは眉を歪めた。
「ああ。何だったらシルヴェリウス家の守護神アルテナ様に誓おうではないか!」
公の場で家の守護神の名を出しての誓いは絶対である。
これで今の発言撤廃はできないだろう。
さて、ここまでに至るまでの二人の関係について語る。
話は長くなるのだが、二人は学園初等科に通学中に婚約することに至った。
まだ10歳にならない頃だ。
「ソフィアと申します」
ラテット伯爵家屋敷に挨拶に来たアレックスにソフィアは名乗った。
アレックスはじっと家族の肖像画を眺めていた。
ソフィアと、両親、兄二人と猫。
ソフィアに声をかけられてようやくアレックスは顔を振り向いた。
「アレックスだ。お前は猫を飼っているのか?」
尋ねるより前に現れたのはソフィアの飼い猫であった。
「はい、名前は……」
「我が家は猫厳禁だ」
アレックスはぴしゃりと猫への拒否を示した。
「何しろ、我が家の守護神アルテナ様は猫アレルギーなのだ。領地内なら許容されるが、アルテナ様の祭壇がある当家屋敷では猫は入れない。私の嫁になるならば猫は諦めるんだな」
すらすらと出た説明にソフィアは悲しげに猫を見つめた。
結婚する前に別れなければならないと突き付けられるなんて。
「飼うなら犬をすすめる。犬は賢いし主人に従順だ」
犬のよさを語るアレックスは突然語るのをやめた。
見てみると彼の足に猫がかじりついているではないか。
「ぎゃー!! このクソ猫!」
「リィナ、ダメでしょ!」
今にも猫に怒りをぶつけようとするアレックスから庇うようにソフィアは猫を抱きしめた。
猫はつんとした様子だった。
二人の出会いはあまりいいものではなかった。
その後の交流もである。
これは学園の初等科の授業でのことだ。
この日は魔術の基礎訓練の日であった。
「ファイヤーボール!」
アレックスが叫ぶと訓練用の藁人形にめがけて火球が飛んでいった。藁人形は瞬時に燃え盛る。
「おー、すげー」
「さすがアレックス様!」
生徒たちはアレックスを称賛した。
教師は複雑な表情でアレックスに注意する。
「アレックスくん。今日は基礎訓練だから、藁人形は使わないよ」
アレックスはにやりと笑った。
「でも、先生。ここにいる半分以上の生徒はみんな家で基礎を学んでいます。基礎なんて今更でしょう?」
「あなたがたはまだ幼い。基礎ができるとあなどらずにまだまだ魔術能力の発達段階で基礎をしっかりしていくことが大事で……」
「っち、うるさいな」
舌打ちするアレックスは教師に提案した。
「なら先生! 俺と勝負してよ。俺が勝てば高等科の模擬戦への見学にする」
「え、えと」
決めきれない教師にアレックスは決定だと言わんばかりに詠唱を始めた。
「ファイヤーボ」
「ウォーターフォール」
アレックスが唱えると同時に、ソフィアが詠唱を終わらせた。
彼女が魔術で出した水により、アレックスの火はかき消されていた。
「何をするんだ!」
「アレックス様、今のは初歩。基礎さえできていればあなたの火は消えてませんでした」
ソフィアは冷静に言う。
「基礎訓練をしましょう」
それに周りの生徒たちは一瞬で怯み、形勢はアレックスに不利となった。
実力だけ見れば、アレックスの成績は優秀である。
教師に強く意見を言えるのも頷けるほどに。
しかし、それは公爵家の教育のおかげだ。
公爵家で他より早く学んだだけでもある。
ソフィアはそれが危ういと感じて何度もアレックスを注意するが、あまり響かなかった。
ソフィアとアレックス。
幼い頃から決められた婚約者同士であるが、考えが合わずに反目し合っていた。
主に反発していたのは、アレックスの方だった。
それでも中等科に入る頃には一時的に改善されていた。
祖父トルシカ辺境伯の一喝は確かに効いたのだ。
ソフィアとも少しずつ関係構築が進み、合わないながらも信頼関係を築くように努力が見られた。
一変したのは高等科に入った後。
卒業年の頃。
「アレックスさまぁ、お疲れ様です!」
剣の訓練が終わる頃に待ち合わせていたのはアレックスの婚約者ではない、恋人であった。
リリアンヌ・バートン。
田舎の男爵家令嬢で、ふわふわした髪につぶらな瞳が愛らしい少女だった。
「おー、リリー。私を待ってくれたのか」
「アレックスさまにタオルを渡したかったから」
にこにこと微笑むリリアンヌはタオルを差し出した。
「いくら何でも距離近くない?」
「アレックス様にはソフィア様がいるのに」
周りの女子生徒たちはひそひそと噂し合った。
その噂は当然ソフィアの耳に届いている。
「リリアンヌ、少しやりすぎではないの?」
注意は必要とソフィアはリリアンヌに声をかけてきた。その瞳は厳しいもので、リリアンヌはうるっと瞳を潤わせた。
「こら、ソフィア! リリーをいじめるな」
助けに入るアレックス。リリアンヌは甘えるようにアレックスに擦り寄った。
「おお、可哀想なリリーよ。もう大丈夫だ」
よしよしとアレックスはリリアンヌを撫でる。そしてきっとソフィアを睨んだ。
「何故お前はリリーをいじめるのだ」
アレックスの視線に怯むどころかソフィアはため息をついた。
「アレックス様、申し訳ありませんがその子は化け猫で」
「何てひどい奴だ! リリーがいくら憎いからといって化け猫呼ばわりなど」
ソフィアの話を中断して憤慨するアレックス、それに同調するリリアンヌの姿は何とも言えない気分になる。
「行こう! リリー」
「えーん、化け猫と呼ばれたよー!」
手を引くアレックス、泣きながらついていくリリアンヌ。二人の後ろ姿を見てソフィアは何度目になるかわからないため息をした。
◆
こうしてこじれにこじれた二人の関係は修復されることなく、学園卒業パーティーへと持ち越される。
卒業生たちは自分の婚約者をパートナーにするのが慣習となっていた。
アレックスはソフィアをエスコートすることもなく、別々の参加とした。
そして、今行われたのがアレックスによる婚約破棄であった。
「そして私はリリアンヌ・バートン男爵令嬢を新たな婚約者と……あれ、リリー?」
そこまでの宣言をしようとしたが、観衆から飛び出したリリアンヌはアレックスを通り抜けていく。
そして、ソフィアに抱きついた。
「やったー! 婚約破棄! 婚約破棄!」
ソフィアにしがみつきながらぴょんぴょんと跳ねる姿は無邪気なものだった。
仕方ない子だと、ソフィアはリリアンヌの頭を撫でる。
「全く私の負けだわ。リィナ」
そう言うと、リリアンヌの姿は消えてドレスがそのまま崩れ落ちる。
代わりに現れたのは毛艶のよい、猫だった。
ソフィアは猫を大事に抱き抱えた。
「は? え?」
「アレックス様も会ったことあるでしょう? 私の飼い猫のリリアンヌ。あだなはリィナです」
にゃおと可愛らしくて鳴く猫は過去の記憶にある猫だった。
二人の初対面で、アレックスの足に齧り付いた猫。
「待て、どういうことだ」
「リィナは化け猫です。あなたは化かされていたのです」
簡単な種明かしに、リィナはぷぷーと笑っていた。
「だから何で」
「私があなたの元へ嫁ぐと私とリィナは離れ離れになります。それを嫌がったリィナが婚約破棄を仕向けたのです」
「じゃあ、私は? 私の恋人リリーは??」
「あなたの恋人リリーは私の飼い猫で、毎夜私と一緒に寝ています」
残酷な現実をつきつける。
その場に崩れ落ちるアレックスは何と滑稽だろう。
「何故こんなことを! おのれ化け猫」
怒りまかせにアレックスはファイヤーボールの詠唱を唱える。ソフィアは冷静にウォーターフォールの詠唱を唱え、火を消した。
「まさかこんなにあっさりリィナにしてやられるとは思いませんでした」
ソフィアはリィナの頭を撫でた。
婚約破棄された今、ソフィアとアレックスの関係は終わった。今ソフィアが守るべきは愛猫リィナである。
「ほんとにゃ。私も驚いたにゃ」
くすくすとイタズラげに笑う化け猫。
「確かにちょこっと魅了は使ったけど初等科の基礎をしっかりしていれば無意識にはれる精神予防で回避できたにゃ」
解説する化け猫の言葉にソフィアはうんうんと頷いた。
「だから基礎はしっかりしましょうと言ったのに」
ソフィアから出たのは残念そうな呟きである。
「いや、こんなこと想定できないだろ! 初見殺しもいいとこだ!」
アレックスは納得できず叫んだ。
「いい加減にしないか。アレックス」
前に出たのは、カイン・シルヴェリウス公爵。アレックスの父であった。
「父上」
「これも全ては未熟なお前が招いたこと。ソフィア嬢と猫ちゃんの言っている通り、基礎を疎かにしていなければこうはならなかった」
今さりげなく猫ちゃんと言ったが、誰もつっこめなかった。
「これも我が家の教育不届が招いたこと。お前は卒業後トルシカ辺境領で義父に鍛えてもらうしかない」
「え、あんな魔物だらけの」
トルシカ辺境領は、凶暴な魔物が出没する危険区域であった。トルシカ辺境伯のおかげで、治安が安定化しつつあるがまだまだ危険が多い。
「お前に必要なことは周りからの信頼だ。まずは辺境で人に教えを乞い、連携できるようになること。そうでなければお前に家督は譲れない!」
「そ、そんな」
父に言われたことに反論できずにアレックスはがくりと項垂れた。
こうして婚約破棄は幕を下ろした。
ソフィアはシルヴェリウス公爵家から謝罪と慰謝料を受け取った。
「しばらく私に婚約を申し込む男はいないし、外で働こうかな。アニマルセラピーのお世話係を募集……」
求人を見ながらソフィアは興味を示した。
「見学にいこうかな」
「ソフィアが行くなら、リィナもいくにゃ! リィナは世界一のセラピーキャットになるにゃ!」
リィナはすぽっとソフィアの脇に顔を通して、するりとソフィアの膝下にまわる。
猫の仕草を見てソフィアは目を細めてリィナを撫でた。
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