【完結】誰からも食べられずに捨てられたおからクッキーは異世界転生して肥満令嬢を幸福へ導く!

ariya

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 おからクッキーはその他にも与えられたものがあった。
 それは天使が与えた肥満症に関する知識だった。
 日本の肥満学会、糖尿病学会、内分泌学会のガイドライン、理学療養士が持つ運動療法の知識、そのベースになる知識が備わっている。

 しかも、天使は力越しで特典を付与してくれた。

「オープン」

 おからクッキーが叫ぶと彼の前にテキスト欄が出る。
 それを操ると画面にはロザリンドのステータスがみれた。ちなみに操作次第で医学論文検索サイトにも繋がれる。

 ステータスは身長、体重、体脂肪率、筋肉量、体力、状態異常と文字でみれるのだ。
 ちなみに今の体力は縄跳び1回、状態異常は逆流性食道炎である。

「身長165cm、体重は149kg、…バストサイズは」
「それを言ってはなりません」

 胃の症状に苦しむロザリンドはカッと目を見開いた。
 体重はいいのに、バストサイズはダメとはこれいかに。

「あなたの使命はわかりましたわ。つまり私を痩せさせること。そうすれば消えてくださるのよね」
「まぁ、そうだね」

 おからクッキーは頷いた。

 実は能力増殖は、ロザリンドを減量させる目的を達成するまでオートでつづくのだ。ロザリンドがどれだけ食べてもおからクッキーは直前に増殖を発動させて現れる。

「わかりましたわ。あなたの戯言に付き合ってあげましょう。どうせ、しばらくは暇だし」

 王太子の婚約者としての業務がなくなりロザリンドはだいぶ時間を持て余していた。
 屋敷の管理などの仕事をしてもあまりある時間をおからクッキーに提供してやる。

 だから早く消えてくださいな。

「早朝空腹時血糖157、HbA1c 6.8、血圧134/72」

 おからクッキーはモニターに現れるデータを読んだ。

 間違いなく糖尿病だ。血圧も高い。

 確かにGLP1受容体作動の適応はある。
 神様の言う通りだった。

「胃の症状は大丈夫かい?」
「ええ、胃薬が効いてきました」

 ロザリンドはようやく起き上がった。

「まずは手始めに運動だ」

 とはいえ、この巨体で急にきつい運動は望ましくない。

「まずは歩くことだ」

 おからクッキーはぴょんと飛んで、ロザリンドの肩に乗った。

 ロザリンドは庭園を歩かされた。
 おからクッキーの掛け声と共に、スピードは息が軽く上がる程度のつもりだがロザリンドは既に汗だくだった。

「も、もうダメですわ」

 体力 縄跳び1回はだてではない。

「もうすぐゴールだ。そこでご褒美を用意してある」
「どうせおからクッキーでしょ! もういいわよ」

 ロザリンドは叫んだ。

「私のGLP1受容体作動は思いの外強いみたいだ。今は1日1回にする予定だ」
「だからもういらないって」

 明日も食べさせる気なのかとロザリンドは叫んだ。

「もういいわ。私が歩いても豚が歩いていると思われるだけよ」
「ここの使用人がそんなこと思うものか」

 おからクッキーはロザリンドの自室でずっと観察していたからわかる。

 メイドのベスをはじめ、彼女たちはロザリンドを愛している。
 ロザリンドを悪く言うものはいない。


 ようやく辿り着いたのは薔薇が咲いているエリアのガゼボだった。

 そこにはランチが用意されている。

 レタスとチーズにハムが挟まれたサンドウィッチに、冷えたお茶。

「はぁ、生き返りますわ」

 ガゼボに用意されていたタオルを拭いて、お茶を一気に飲む。

「はむ、……おいしい?」

 パンに挟まれたハムとチーズの塩気、それをマイルドにするレタスのコントラストが絶妙だ。

 こんなに美味しいと感じたのははじめてだった。

 野菜をとったのは何日ぶりだろう。

 普段は砂糖たっぷりの菓子パンばかりをお昼にしていた。

「運動の後の食事は美味しいだろう」

 こんな野菜多めのサンドウィッチなど食欲が湧かないと思ったのにするする口に入っていく。

「パンを選ぶ際は野菜の含んだサンドウィッチなどを選ぶといい」
 
 おからクッキーがメイドに書き置きをして指示したランチメニューのようだ。

「君は常時甘いものを摂取し続けていた為菓子パンはよくないものになっている」
「わかったわ」

 ロザリンドははむはむと食べた。

「しっかり噛んで食べて」

 おからクッキーの指摘も半分諦めた。


 次の日も、次の日もロザリンドはおからクッキーに言われてガゼボまで歩いた。

「お嬢様」

 呼ばれて振り向くと庭師のジョンがいた。

 昔はよく遊んだ覚えがある。

「来てくださったのですね」

 ジョンはそう言いながら一輪の薔薇をロザリンドにさしだした。

「覚えていないと思いますが、お嬢様に一等美しい薔薇を摘んで欲しいと言われて」

 思い出した。
 幼い頃にジョンにせがんだ。

 だが、約束の前日に母が病気で倒れてそのまま亡くなりロザリンドはそれどころではなくなっていた。

「そんな昔のことを……」

 律儀に約束を果たそうなど。

「忘れていて悪かったわ」

 ロザリンドは薔薇を受け取った。

「いえ、勝手に待っていただけです。お届けするか悩みましたが、私のような薄汚い男がお嬢様の部屋に行くのは憚れまして」

 そんなことはない。

「せっかく綺麗な薔薇なのに、私には豚に真珠ならぬ豚に薔薇だわ」

 ほほと笑うロザリンドにジョンは真顔に言う。

「そんなことは思いません」

 何か怒っているように見える。

「誰ですか。そのような無礼を言った使用人は」
「い、いえ。私が勝手に」

 思っただけですわ、というロザリンドにジョンは悲し気に言った。

「よかった……そのような者はいないのですね」

 ほっとした様子のジョンにロザリンドは苦笑いした。

「でも、私はお世辞にも美しくないじゃない。薔薇は似合わないですわ」
「ここの薔薇はお嬢様の為にさかせています」

 ジョンは語る。

「私もみな、お嬢様を大事に思っています。お嬢様がどれだけ頑張っているかわかっています」

 ロザリンドは王太子の婚約者として頑張り、父や領民の為領主代行の仕事をしている。

「私は少しでもお嬢様の心が穏やかになるようここで薔薇を育てるつもりです」

 ジョンはその場を去り、今まで大人しかったおからクッキーはぴょこんと姿を現した。

「大事なら健康面を指摘してやれ」

 ぼそっと語る彼にロザリンドは首を横に振った。

 仕方ない。
 この世界にはまだ健康管理が体制化されていないのだ。
 体に悪いと感じていても止めるだけの知識ぐない。

「私、明日も薔薇を見にくるわ」



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