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本編② 協力者の登場
14 花姫の宮
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花姫になるには条件がある。
花姫の為の宮殿に安置された秘石を開花させることである。花姫選定の日のみ儀式場へと運び出される。
秘石は花の形をした美しい宝石であった。薔薇や百合などのつぼみの形をしている。これに適合した魔力が注がれれば花のように開かれる。
花姫になるためには魔力が必要であった。
国の歴史でははじめの王妃が優れた魔力と千里眼を持ち、王を助けたという伝承があった。
王妃は春の妖精を父に持つ魔法使いで、彼女が父より祝いでもらった12の秘石、花の形をした石が各宮殿の由来である。
アリーシャが花姫選定の時に開花したのはカメリアの秘石であった。
秘石に選ばれた王妃がこの国の発展につながると考えられ、花姫という制度が執り行われ始めた。
花姫たちは王妃になるべく教育を身に着け、お互いを高め合う。
国史前半期には素晴らしい王妃を得られたのはその為だと信じられ未だにこの制度は続いている。
アリーシャが与えられたのはカメリア宮と呼ばれ、カメリアの秘石が安置されている建物であった。
秘石が安置される部屋を通る度にアリーシャは今では煩わしいと感じた。花姫になった当初は愛でていたのに。
秘石の部屋を通りがかったところで使用人から報告を受けた。
客人が来ていたのを知らされアリーシャはため息をついた。
明日から授業が再開になるから、ゆっくり過ごそうと思っていたのに。
客人はすでにアリーシャの部屋でくつろいでいるという。
アリーシャは明らかに不満な表情を隠す気はないまま部屋へと戻った。
「随分嫌そうな顔をしているな」
「いーえ、アルバート様に会えてうれしいです」
心にも思っていない社交辞令を紡ぐ。
アルバートはアリーシャの内心に気づいていたが特に何か言う気はなかった。
花姫になった後、親族は気軽に花姫の元を訪問できない。前回のような社交の場でのエスコートの役目を引き受けるか、事前の手続きが必要になる。
パーティーの後にアルバートは王宮に手続きを踏み、こうしてアリーシャの部屋を訪問した。
「訪問したときに出かけているなど……手紙を送っていたはずだが」
確かにあった気がする。
いろいろなことが起こりすぎてアルバートの手紙を読む気になれなかった。
そういうところがあるから王宮で孤立していたのではないか。
アルバートの呆れた顔にその心情が読み取れる。
「体調は優れないと聞いていたが外出して元気そうだ」
嫌みを言いにきたのだろうか。確かに待たせてしまったのは悪かったと思う。
「だいぶよくなりましたので、気分転換に、お世話になった方へお返しに行っていました」
上着と一緒にお茶の入った缶を添えておいた。彼が気に入るかはわからない。
教会にもお土産として同じお茶を渡したら反応は良かったのを思い出す。
「お前が、それだけの甲斐性があったのか」
いちいちつっかってくる。早く帰ってくれないかな。
「それでどこに行っていたんだ」
「ジュノー教会です」
別に隠す必要性は感じず、素直に答えた。
「まさかあの王子に会ったのか? お礼というとあの王子が相手か? いや、それはないか。あいつがお前に世話を焼くとは思えない」
王子という言葉でエレンのことを指しているとわかる。随分と軽々しく言うものだ。
「ああ、シオンか」
ようやく納得したように言う彼にアリーシャは少し驚いた。
ジュノー教会はあまり噂されていないが、エレン王子の療養所として利用されていた。エレンの名があがるのはわかる。だが、どうしてシオンの名があがるのか。
「何でわかったの?」
「別に、お前には関係ないだろう」
勝手に人の周辺のことを探っておいて自分のことは語ろうとしない。
「一体、何の用でいらしたのかしら」
このまま不快さを与え続けるようであれば追い出してしまおう。
「ああ、そうだった」
忘れるところだったとアルバートはちらりとドロシーの方を睨む。
「私のことは置物と思ってください」
ドロシーは静かに言う。アルバートの目くばせがどういう意味か理解した。ドロシーに席をはずせと視線を送ったのだ。
「信用できない」
アルバートはドロシーが居続けることを許さなかった。相手は爵位を持った貴族で未来の侯爵である。侍女のドロシーが対抗できる相手ではない。
「ドロシー、席を外して」
アリーシャの言葉にドロシーは困ったように俯き、しばらくしてアリーシャに耳打ちした。
「アリーシャ様、何かあればすぐに大声をあげてくださいね」
がちゃりと扉が閉まり、部屋にはアリーシャとアルバートの二人だけになった。アルバートは立ち上がり、ドアノブに手を当てた。ビリビリっと小さい音が走り、一瞬だけ扉一面が光ったようにみえる。
「随分な念入り用ね」
今のはアルバートが仕掛けた魔法である。どういうものかすぐにわかった。
アルバートが仕掛けたのは音が外に漏れない為のものである。
手際の良さから彼がアリーシャと同等の魔力を持っているというのがわかる。魔術を難なくこなせるところからアリーシャよりも技術的な能力は上であろう。
「さすが、女だったら花姫になれただけあるわ」
皮肉たっぷりに言うとアルバートは不機嫌そうにアリーシャを睨みつけた。
昔は12の花姫がいたようであるが、時が過ぎると共に花姫になれる女性は減っていき今は4人だけになってしまった。
クロックベル家は何としてでも新たな花姫を輩出したかったが、一族内に魔力を持った令嬢がおらずかなり焦っていた。アルバートにことあるごと小言を向けていた。
「お前が女であれば良かった」と。
この言葉はアルバートの自尊心を傷つけた。
アルバートは自分と花姫を繋げた話題は毛嫌いしていた。
アリーシャを怒ることもせずアルバートはソファに腰かける。
「アリーシャ、お前はいつごろまでの記憶を持っている?」
ドロシーを追い出した後、改めて切り出した話題に何のことだと首を傾げた。
「回帰する直前だよ。泥姫と呼ばれて拗ねて引き籠っていた時か、毒殺容疑で捕縛された時か、それとも」
思い当たりそうな時期をアルバートが連ねて言う。段々彼の言う内容が予測できてアリーシャはひやりとした感触を覚えた。
「処刑された時か、それとも……」
一瞬首を押さえる。
彼女の反応をアルバートは静かに見つめていた。
花姫の為の宮殿に安置された秘石を開花させることである。花姫選定の日のみ儀式場へと運び出される。
秘石は花の形をした美しい宝石であった。薔薇や百合などのつぼみの形をしている。これに適合した魔力が注がれれば花のように開かれる。
花姫になるためには魔力が必要であった。
国の歴史でははじめの王妃が優れた魔力と千里眼を持ち、王を助けたという伝承があった。
王妃は春の妖精を父に持つ魔法使いで、彼女が父より祝いでもらった12の秘石、花の形をした石が各宮殿の由来である。
アリーシャが花姫選定の時に開花したのはカメリアの秘石であった。
秘石に選ばれた王妃がこの国の発展につながると考えられ、花姫という制度が執り行われ始めた。
花姫たちは王妃になるべく教育を身に着け、お互いを高め合う。
国史前半期には素晴らしい王妃を得られたのはその為だと信じられ未だにこの制度は続いている。
アリーシャが与えられたのはカメリア宮と呼ばれ、カメリアの秘石が安置されている建物であった。
秘石が安置される部屋を通る度にアリーシャは今では煩わしいと感じた。花姫になった当初は愛でていたのに。
秘石の部屋を通りがかったところで使用人から報告を受けた。
客人が来ていたのを知らされアリーシャはため息をついた。
明日から授業が再開になるから、ゆっくり過ごそうと思っていたのに。
客人はすでにアリーシャの部屋でくつろいでいるという。
アリーシャは明らかに不満な表情を隠す気はないまま部屋へと戻った。
「随分嫌そうな顔をしているな」
「いーえ、アルバート様に会えてうれしいです」
心にも思っていない社交辞令を紡ぐ。
アルバートはアリーシャの内心に気づいていたが特に何か言う気はなかった。
花姫になった後、親族は気軽に花姫の元を訪問できない。前回のような社交の場でのエスコートの役目を引き受けるか、事前の手続きが必要になる。
パーティーの後にアルバートは王宮に手続きを踏み、こうしてアリーシャの部屋を訪問した。
「訪問したときに出かけているなど……手紙を送っていたはずだが」
確かにあった気がする。
いろいろなことが起こりすぎてアルバートの手紙を読む気になれなかった。
そういうところがあるから王宮で孤立していたのではないか。
アルバートの呆れた顔にその心情が読み取れる。
「体調は優れないと聞いていたが外出して元気そうだ」
嫌みを言いにきたのだろうか。確かに待たせてしまったのは悪かったと思う。
「だいぶよくなりましたので、気分転換に、お世話になった方へお返しに行っていました」
上着と一緒にお茶の入った缶を添えておいた。彼が気に入るかはわからない。
教会にもお土産として同じお茶を渡したら反応は良かったのを思い出す。
「お前が、それだけの甲斐性があったのか」
いちいちつっかってくる。早く帰ってくれないかな。
「それでどこに行っていたんだ」
「ジュノー教会です」
別に隠す必要性は感じず、素直に答えた。
「まさかあの王子に会ったのか? お礼というとあの王子が相手か? いや、それはないか。あいつがお前に世話を焼くとは思えない」
王子という言葉でエレンのことを指しているとわかる。随分と軽々しく言うものだ。
「ああ、シオンか」
ようやく納得したように言う彼にアリーシャは少し驚いた。
ジュノー教会はあまり噂されていないが、エレン王子の療養所として利用されていた。エレンの名があがるのはわかる。だが、どうしてシオンの名があがるのか。
「何でわかったの?」
「別に、お前には関係ないだろう」
勝手に人の周辺のことを探っておいて自分のことは語ろうとしない。
「一体、何の用でいらしたのかしら」
このまま不快さを与え続けるようであれば追い出してしまおう。
「ああ、そうだった」
忘れるところだったとアルバートはちらりとドロシーの方を睨む。
「私のことは置物と思ってください」
ドロシーは静かに言う。アルバートの目くばせがどういう意味か理解した。ドロシーに席をはずせと視線を送ったのだ。
「信用できない」
アルバートはドロシーが居続けることを許さなかった。相手は爵位を持った貴族で未来の侯爵である。侍女のドロシーが対抗できる相手ではない。
「ドロシー、席を外して」
アリーシャの言葉にドロシーは困ったように俯き、しばらくしてアリーシャに耳打ちした。
「アリーシャ様、何かあればすぐに大声をあげてくださいね」
がちゃりと扉が閉まり、部屋にはアリーシャとアルバートの二人だけになった。アルバートは立ち上がり、ドアノブに手を当てた。ビリビリっと小さい音が走り、一瞬だけ扉一面が光ったようにみえる。
「随分な念入り用ね」
今のはアルバートが仕掛けた魔法である。どういうものかすぐにわかった。
アルバートが仕掛けたのは音が外に漏れない為のものである。
手際の良さから彼がアリーシャと同等の魔力を持っているというのがわかる。魔術を難なくこなせるところからアリーシャよりも技術的な能力は上であろう。
「さすが、女だったら花姫になれただけあるわ」
皮肉たっぷりに言うとアルバートは不機嫌そうにアリーシャを睨みつけた。
昔は12の花姫がいたようであるが、時が過ぎると共に花姫になれる女性は減っていき今は4人だけになってしまった。
クロックベル家は何としてでも新たな花姫を輩出したかったが、一族内に魔力を持った令嬢がおらずかなり焦っていた。アルバートにことあるごと小言を向けていた。
「お前が女であれば良かった」と。
この言葉はアルバートの自尊心を傷つけた。
アルバートは自分と花姫を繋げた話題は毛嫌いしていた。
アリーシャを怒ることもせずアルバートはソファに腰かける。
「アリーシャ、お前はいつごろまでの記憶を持っている?」
ドロシーを追い出した後、改めて切り出した話題に何のことだと首を傾げた。
「回帰する直前だよ。泥姫と呼ばれて拗ねて引き籠っていた時か、毒殺容疑で捕縛された時か、それとも」
思い当たりそうな時期をアルバートが連ねて言う。段々彼の言う内容が予測できてアリーシャはひやりとした感触を覚えた。
「処刑された時か、それとも……」
一瞬首を押さえる。
彼女の反応をアルバートは静かに見つめていた。
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