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本編② 協力者の登場
16 蓄積された呪い
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呪いの人形。
アルバートから出た単語に目眩を覚えた。
何を馬鹿なことをと詰ってやりたいが、目の前の男の表情は真面目で否定を許さないと言わんばかりであった。
「本当に?」
自分が死んだ後、どうなったかなどどうでもいいと思っていた。
適当な場所に埋葬されたか、引き取り手のない罪人としてシャーリーストーンの解剖室に送られたかだろう。
「お前が処刑されてから数日後、伝染病が流行り出した」
はじめは王都の郊外の方から、それが繁華街に広まり周りの町にも広まってしまった。あまりに早すぎて気づいた時には収集がつかなくなった。
ようやく政治家がことにあたろうとしたときに天候が乱れた。
作物は実らなくなり、さらには家畜の間にも病が発生して変死してしまう。
魔物が凶暴化し、各地が荒れて、討伐隊を編成しようにも次々と伝染病にかかり治安が乱れていった。
教会や、魔法使いも対策を練ろうとしてもうまくいかず、事態はどんどん悪い方へ進み、国王が倒れ執政者も急死する。
ついには国が機能しなくなった。
国王が倒れた数日後にメデア村の魔法使いが姿を表した。排他的な彼らでも非常事態と王都の魔法使いに協力してくれた。アルバートは彼らと共に原因解明を進めた。
ようやくアリーシャの遺体に原因があるとわかり、シオンと共にアリーシャが眠る墓地で呪い続ける肉体を確認した。
「何故、私が呪いなんて……」
信じられない。
「王宮で知らぬうちに呪いを受け続け、たくさんの負の感情をかき集め続けた上、お前は残念なことに魔女の村出身で体内に貯まり続けた呪いが悪い方向へ大きくなってしまった。さすがに呪った人間もここまでは予想していなかっただろう」
父譲りの魔力を持ってしまったのがアリーシャにとっての災いの始まりだった。魔力さえ持っていなければ花姫に選ばれることもなかった。呪いを受け続けてその呪いを増大させることもなかった。
アリーシャの呪いを停止ができなかった。
何重も呪いの方式が組み込まれ複雑化してアルバートもメデア村の魔法使いも止めることができなかった。
国は滅び魔境と化してしまう。いや、滅んでしまったと言った方がいい。
生き残っていた魔法使いたちは次々と死んでいき、シオンまで死んでしまった。
土地を人の棲める場所ではないと断定して破棄して他に亡命してしまえば助かったかもしれない。
アルバートも死ぬのは時間の問題だった。
呪いに蝕まれる肉体を眺めながら、アルバートは以前たてていた仮説を再度組み立て始めた。
未だに現実しないと言われている時間を戻す魔法。
アリーシャの呪いを止めるにはアリーシャが呪いの道具になる前まで戻りやり直す必要があった。
不可能とされる魔法で体に強い後遺症を残す危険もあったが、無駄に命を落とすよりはましだろうと思い最後の力を振り絞り魔法を発動させた。
「結果、時間を戻すことに成功した。できれば協力者を仰ぎたかったが、回帰後の世界で前の記憶を持っている人間はおらず回帰魔法を誰にも信じてもらえず父親や師に笑われてしまった。問答を繰り返しても頭がおかしくなったと思われて病院送りされそうだったから諦めた。どうしたものかと思ったらお前が手紙をよこして来た」
アルバートに手紙を送った覚えはない。おそらくドロシーが代筆で書いたからだ。
そういえば、実家に手紙を書くように勧められたが、アリーシャはクロックベル侯爵家に期待しておらず聞かなかった。代筆でパーティーがあることを報告しても良いか尋ねられて、好きにすればいいと承認した気もする。そこからアルバートがエスコートにやってくるとは思わなかったが。
「あの手紙は」
「お前の侍女が書いたものだというのはすぐにわかった」
アルバートとしては重要なのはそこではなかった。回帰前になかったはずの星祭り前の手紙が届けられたことに驚いたという。
「回帰前とは違うことが起きていると、お前に会ってみてもしかするとと思った。パーティーの帰り道に聞こうと思ったが、結局あんなことがあってお前に会う機会がなかなか得られず」
代わりに周辺の情報を探ってみてアリーシャにも回帰前の記憶を持っていると確信した。
アルバートとしてはようやく出会えた回帰前の記憶を持つ存在、これから起きる未来を回避したいと願う者であったが彼は深くため息をついた。
「それがお前だったというのは残念だ。せめてシオンが良かった」
心の底から残念がられている言葉にアリーシャも同様の気持ちだと言いたかった。
「とはいえ、王宮内にいるお前であればまだ手はある」
アリーシャの不満をよそにアルバートは話を別の方へと進めた。
「お前、王宮内の呪いの方式を探し回って回収するのを手伝え」
「生憎私は未熟です。方式に触れれば、この呪いにあてられて命を落とし、結局呪い人形になるのではなくて?」
「……今回は大丈夫だと思う」
じっとアリーシャをみてアルバートは不可解なことを口にする。
「こんな呪いがかかった部屋にずっといたにも関わらず今のお前の精神は結構落ち着いている」
「回帰したから私の能力が向上したとか?」
「それはない」
うぬぼれるなと言わんばかりの発言に相変わらず腹が立つ。少し前の自分であれば怒って追い出してしまっていたかもしれない。そうしないだけ自分は結構成長したと思う。
いや、子供のように喚いていた過去の方が異常だったのかもしれない。
「お前の身の回りの環境が変わったからだろう。まだその……ブローチを持っているな。それは失くすな」
アルバートはアリーシャの胸元につけているものを指さした。
処刑される3か月前に紛失した祖母からもらったブローチである。
「そのブローチについている宝石はペリドット……お前に合わせて作られた魔法道具だ。気休め程度であるが心を落ち着かせる作用がある」
祖母は純粋なメデア村の魔女であった。特に便利な魔法効果はないと聞いていたが、確かに持っていると心が落ち着く。
「回帰前に侍女たちの評判は悪かったのだが、さらに最悪なものになったのはそれを失くした頃だったか。確かにお前の状況が最悪になったのはそのころだったとも推測できる」
あと、とアルバートは立ち上がりアリーシャの寝台の方へと向かった。
勝手にプライベート空間を歩き回れてよい気がしない。
アリーシャは彼の後を追いかけた。
「このぬいぐるみ」
「それは」
寝台の上にあるのはアンジェリカというくまのぬいぐるみである。
出かける前にクローゼットにしまえばよかった。馬鹿にされるのではと身構える。
「どういうことか、良い破魔の道具だ。どうやって手に入れたんだ」
関心したようにアルバートはぬいぐるみをほめた。
彼の意外な言葉にアリーシャは驚いてしまう。
「馬鹿にしないんだ……」
「王妃になりたいなら、幼女のようなぬいぐるみ趣味はどうかと思うが」
「別になりたくないわ。花姫も辞退したいくらい」
「今は諦めろ。花姫の待遇をおおいに利用して王宮内の呪いを回収するのに手伝え」
拒否することも許されない言葉にアリーシャはため息をついた。事情を知るアルバートでもアリーシャの花姫辞退の協力はしてくれないだろう。そもそも彼はアリーシャが花姫になるのを反対してくれた存在であり、彼に花姫辞退を強く要求するのは烏滸がましい。
「終わったら花姫辞退の協力をしてくれるかしら」
それでもアリーシャはアルバートに条件を求めた。
アリーシャは妃になれないのはわかっている。呪いが原因だったとわかっていてもアリーシャにも落ち度はある。
母を嫌っていたが、自分自身母と同じく周りに当たり散らす性格で必要以上に敵を作ってしまった。
呪いは言い訳にはならないだろう。
それに今更、ヴィクター王太子からの評価が変わるわけでもない。いつかはローズマリーを害した罪で罰せられる時が来るだろう。その前に花姫を辞めたい。
「ああ、父にも掛け合ってやる」
アルバートの言葉を聞いてようやく道が形になって見えてきた気がした。
ちなみにクローゼットの中にあった繕い物は全てアルバートに没収された。
「一部、酷い怨念が籠ったものもあった。こんなもの王宮魔術師がみたら王家呪詛の証拠だと騒ぎだすだろう」
確かに腹立たしい日に繕ったぬいぐるみは悪い気がこもっている気がした。アルバートの言葉を否定できなかった。
アリーシャは何も言えず彼に処分を頼むこととした。
「アルバート様にとられてしまったのですね。また、材料持ってきますので作りましょうね」
すっきりしたクローゼットをみてドロシーは悲し気に笑っていた。
本当にアリーシャの作品を気に入っていたようである。アリーシャは複雑な表情を浮かべるしかなかった。
アルバートから出た単語に目眩を覚えた。
何を馬鹿なことをと詰ってやりたいが、目の前の男の表情は真面目で否定を許さないと言わんばかりであった。
「本当に?」
自分が死んだ後、どうなったかなどどうでもいいと思っていた。
適当な場所に埋葬されたか、引き取り手のない罪人としてシャーリーストーンの解剖室に送られたかだろう。
「お前が処刑されてから数日後、伝染病が流行り出した」
はじめは王都の郊外の方から、それが繁華街に広まり周りの町にも広まってしまった。あまりに早すぎて気づいた時には収集がつかなくなった。
ようやく政治家がことにあたろうとしたときに天候が乱れた。
作物は実らなくなり、さらには家畜の間にも病が発生して変死してしまう。
魔物が凶暴化し、各地が荒れて、討伐隊を編成しようにも次々と伝染病にかかり治安が乱れていった。
教会や、魔法使いも対策を練ろうとしてもうまくいかず、事態はどんどん悪い方へ進み、国王が倒れ執政者も急死する。
ついには国が機能しなくなった。
国王が倒れた数日後にメデア村の魔法使いが姿を表した。排他的な彼らでも非常事態と王都の魔法使いに協力してくれた。アルバートは彼らと共に原因解明を進めた。
ようやくアリーシャの遺体に原因があるとわかり、シオンと共にアリーシャが眠る墓地で呪い続ける肉体を確認した。
「何故、私が呪いなんて……」
信じられない。
「王宮で知らぬうちに呪いを受け続け、たくさんの負の感情をかき集め続けた上、お前は残念なことに魔女の村出身で体内に貯まり続けた呪いが悪い方向へ大きくなってしまった。さすがに呪った人間もここまでは予想していなかっただろう」
父譲りの魔力を持ってしまったのがアリーシャにとっての災いの始まりだった。魔力さえ持っていなければ花姫に選ばれることもなかった。呪いを受け続けてその呪いを増大させることもなかった。
アリーシャの呪いを停止ができなかった。
何重も呪いの方式が組み込まれ複雑化してアルバートもメデア村の魔法使いも止めることができなかった。
国は滅び魔境と化してしまう。いや、滅んでしまったと言った方がいい。
生き残っていた魔法使いたちは次々と死んでいき、シオンまで死んでしまった。
土地を人の棲める場所ではないと断定して破棄して他に亡命してしまえば助かったかもしれない。
アルバートも死ぬのは時間の問題だった。
呪いに蝕まれる肉体を眺めながら、アルバートは以前たてていた仮説を再度組み立て始めた。
未だに現実しないと言われている時間を戻す魔法。
アリーシャの呪いを止めるにはアリーシャが呪いの道具になる前まで戻りやり直す必要があった。
不可能とされる魔法で体に強い後遺症を残す危険もあったが、無駄に命を落とすよりはましだろうと思い最後の力を振り絞り魔法を発動させた。
「結果、時間を戻すことに成功した。できれば協力者を仰ぎたかったが、回帰後の世界で前の記憶を持っている人間はおらず回帰魔法を誰にも信じてもらえず父親や師に笑われてしまった。問答を繰り返しても頭がおかしくなったと思われて病院送りされそうだったから諦めた。どうしたものかと思ったらお前が手紙をよこして来た」
アルバートに手紙を送った覚えはない。おそらくドロシーが代筆で書いたからだ。
そういえば、実家に手紙を書くように勧められたが、アリーシャはクロックベル侯爵家に期待しておらず聞かなかった。代筆でパーティーがあることを報告しても良いか尋ねられて、好きにすればいいと承認した気もする。そこからアルバートがエスコートにやってくるとは思わなかったが。
「あの手紙は」
「お前の侍女が書いたものだというのはすぐにわかった」
アルバートとしては重要なのはそこではなかった。回帰前になかったはずの星祭り前の手紙が届けられたことに驚いたという。
「回帰前とは違うことが起きていると、お前に会ってみてもしかするとと思った。パーティーの帰り道に聞こうと思ったが、結局あんなことがあってお前に会う機会がなかなか得られず」
代わりに周辺の情報を探ってみてアリーシャにも回帰前の記憶を持っていると確信した。
アルバートとしてはようやく出会えた回帰前の記憶を持つ存在、これから起きる未来を回避したいと願う者であったが彼は深くため息をついた。
「それがお前だったというのは残念だ。せめてシオンが良かった」
心の底から残念がられている言葉にアリーシャも同様の気持ちだと言いたかった。
「とはいえ、王宮内にいるお前であればまだ手はある」
アリーシャの不満をよそにアルバートは話を別の方へと進めた。
「お前、王宮内の呪いの方式を探し回って回収するのを手伝え」
「生憎私は未熟です。方式に触れれば、この呪いにあてられて命を落とし、結局呪い人形になるのではなくて?」
「……今回は大丈夫だと思う」
じっとアリーシャをみてアルバートは不可解なことを口にする。
「こんな呪いがかかった部屋にずっといたにも関わらず今のお前の精神は結構落ち着いている」
「回帰したから私の能力が向上したとか?」
「それはない」
うぬぼれるなと言わんばかりの発言に相変わらず腹が立つ。少し前の自分であれば怒って追い出してしまっていたかもしれない。そうしないだけ自分は結構成長したと思う。
いや、子供のように喚いていた過去の方が異常だったのかもしれない。
「お前の身の回りの環境が変わったからだろう。まだその……ブローチを持っているな。それは失くすな」
アルバートはアリーシャの胸元につけているものを指さした。
処刑される3か月前に紛失した祖母からもらったブローチである。
「そのブローチについている宝石はペリドット……お前に合わせて作られた魔法道具だ。気休め程度であるが心を落ち着かせる作用がある」
祖母は純粋なメデア村の魔女であった。特に便利な魔法効果はないと聞いていたが、確かに持っていると心が落ち着く。
「回帰前に侍女たちの評判は悪かったのだが、さらに最悪なものになったのはそれを失くした頃だったか。確かにお前の状況が最悪になったのはそのころだったとも推測できる」
あと、とアルバートは立ち上がりアリーシャの寝台の方へと向かった。
勝手にプライベート空間を歩き回れてよい気がしない。
アリーシャは彼の後を追いかけた。
「このぬいぐるみ」
「それは」
寝台の上にあるのはアンジェリカというくまのぬいぐるみである。
出かける前にクローゼットにしまえばよかった。馬鹿にされるのではと身構える。
「どういうことか、良い破魔の道具だ。どうやって手に入れたんだ」
関心したようにアルバートはぬいぐるみをほめた。
彼の意外な言葉にアリーシャは驚いてしまう。
「馬鹿にしないんだ……」
「王妃になりたいなら、幼女のようなぬいぐるみ趣味はどうかと思うが」
「別になりたくないわ。花姫も辞退したいくらい」
「今は諦めろ。花姫の待遇をおおいに利用して王宮内の呪いを回収するのに手伝え」
拒否することも許されない言葉にアリーシャはため息をついた。事情を知るアルバートでもアリーシャの花姫辞退の協力はしてくれないだろう。そもそも彼はアリーシャが花姫になるのを反対してくれた存在であり、彼に花姫辞退を強く要求するのは烏滸がましい。
「終わったら花姫辞退の協力をしてくれるかしら」
それでもアリーシャはアルバートに条件を求めた。
アリーシャは妃になれないのはわかっている。呪いが原因だったとわかっていてもアリーシャにも落ち度はある。
母を嫌っていたが、自分自身母と同じく周りに当たり散らす性格で必要以上に敵を作ってしまった。
呪いは言い訳にはならないだろう。
それに今更、ヴィクター王太子からの評価が変わるわけでもない。いつかはローズマリーを害した罪で罰せられる時が来るだろう。その前に花姫を辞めたい。
「ああ、父にも掛け合ってやる」
アルバートの言葉を聞いてようやく道が形になって見えてきた気がした。
ちなみにクローゼットの中にあった繕い物は全てアルバートに没収された。
「一部、酷い怨念が籠ったものもあった。こんなもの王宮魔術師がみたら王家呪詛の証拠だと騒ぎだすだろう」
確かに腹立たしい日に繕ったぬいぐるみは悪い気がこもっている気がした。アルバートの言葉を否定できなかった。
アリーシャは何も言えず彼に処分を頼むこととした。
「アルバート様にとられてしまったのですね。また、材料持ってきますので作りましょうね」
すっきりしたクローゼットをみてドロシーは悲し気に笑っていた。
本当にアリーシャの作品を気に入っていたようである。アリーシャは複雑な表情を浮かべるしかなかった。
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