【完結】その悪女は笑わない

ariya

文字の大きさ
19 / 77
本編② 協力者の登場

18 教会の医師

しおりを挟む
 ジュノー教会で祈りをささげた後、教会の者がアリーシャより届けられた上着のことを伝えた。

「あなたが来ないことを残念がっておりました」

 それを聞きシオンは苦笑いした。少しでも彼女の気が晴れただろうか。

「シオンさん」

 シスターがシオンに声をかけてきた。手にはエレンの治療記録の冊子があり、それをシオンに渡す。

「殿下の診察をお願いします。あと、塗り薬があと数日でなくなりそうです」

「わかりました。塗り薬は診察後に教会へ届けるように手配をします」

 シスターの案内の元シオンは指定された部屋を訪れた。教会の中で一番良い部屋であるが、それでも王宮に比べると質素である。
 部屋の中で椅子に座っていたエレンがシオンの様子を眺めていた。
 フードをしっかりと被って、隙間からみえる薄紫色の瞳にシオンは笑みをこぼす。

「殿下、肌をみせていただけますか?」

 エレンはフードを脱ぎ、上着を脱ぎ散らかした。日に晒されることが少なかった真っ白な肌にぽつぽつと赤黒いできものがあった。一部ぼこりと膨らんだ部分がみられる。右肩から背中にかけてそれが認められた。

「だいぶ薄くなっています。薬の配合を少し変えておきますね」
「変えたらまた広がってしまうかもしれない」
「薬の強度は時間をかけて薄めていく必要があります。長く強いまま使用すると臓器に影響を与えてしまいます」

 1年前までエレンの皮膚の症状はもっと酷かった。顔の3分の2を占めて、動くと痛みがでてしまう。
 目と口をうまく開くことができない程であった。

 皮膚病を発症させたのは3つの頃で、王妃はショックで寝込んでしまった。そしてヴィクターばかりをかわいがり、エレンを放置するようになった。

 これに増長したヴィクターがエレンを化け物と嘲笑し、王妃も化け物と呼ぶようになった。

 エレンを軽んじる者が増え、満足な世話も、食事も与えられなくなった。
 これを見た国王は療養と称し田舎の別荘へ預けた。その後は医学や治癒魔法に優れた者がいるという修道院に預け、治療がうまくいかないため転々としてジュノー教会へと流れ着いた。

 王宮に戻すのは難しいが、せめて国王がすぐに駆け付けられる場所で過ごして欲しいと望まれたのだ。
 教会の神父は王宮に仕えていた者であり、国王と王太后に信頼されていた。
 彼は慈悲深く、エレンの世話を焼いた。
 彼の皮膚病について何とかできないものかと悩み、教会へ訪れる信者に相談した。

 それがシオン・シャーリーストーンであった。

 シオンは処刑人でもあるが、医学にも優れており平民に対して無償で医療を提供していた。
 父が同じ皮膚病の男性を治療したことがある。根気強く煎じ薬を飲み、皮膚の清潔さを保ち塗り薬を使用し続ければ数年かけて治癒することができた。

 海外の文献でも同様の情報が認められている。この治療には治癒魔法だけでなく海外の最新の医学知識も必要であった。
 シオンは父から譲られた知識と新たな知識を調べ直し治療にあたった。

 治療開始時の栄養状態と清潔状態が影響されているとあった。
 その為裕福な家庭の者が治癒後も生存できたという。

 父が治療した男は治癒後の1年で永眠についてしまったが、これは栄養状態が悪く衰弱した際に内蔵をやられてしまったためである。

 幸い、エレン王子の栄養状態は悪くない。
 はじめて出会った時は同年代の子と比べて痩せていたが、それでも最低限の食事は採っていた。

 エレン王子の栄養、衛生面が最悪だった時期は母・兄から疎まれはじめてから王宮から出るまでの1年であった。それ以降は最低限の保障を受けていた。心を閉ざしたエレンが小食であっても食事は摂っていた為、シオンが出会った時は全身状態は良かった。

 彼は海外の文献を読み直し、新しい情報がないか確認し治療にあたった。

「顔の皮膚も状態が良いです。そろそろ外でもフードを脱いでも問題ないかと」

「嫌だよ」

 診察が終わるとエレンは服をとりフードをすっぽりと被った。
 過去の兄と母からの言葉がトラウマでエレンは顔を晒す行為を拒否していた。今彼の顔を見ることができるのはジュノー教会の神父とシスター、シオンのみである。
 はじめて出会った時顔も、肌もみせてくれず、治療に難渋することが多くシオンは粘り強く彼に接してようやく治療を開始することができた。そうでなければ1年ではなく、2年前に治療が開始できただろう。

 だいぶ皮膚病が治癒されてきているのだが、父も祖母も彼の顔を見ることはない。国王は公式行事に彼を招待していたが彼は何かと理由をつけて王宮に出るのを拒否していた。

 私が父にいらぬ呪いをかけてしまうかもしれません。それが恐ろしいです。

 手紙にそう書かれれば国王も強く要求することができなかった。
 彼はエレンの心の傷を憂えており、同時にエレンの状態をよくしたシオンに感謝していた。

 相変わらずエレンは教会の外を出るのを嫌がっているが、先日王宮の敷地に足を踏み入れただけでも大きな進歩だったといっていい。

「そういえば、アリーシャが来ていたね」

「殿下、レディをおつけください」

 エレンはじぃっとシオンを見つめた。

「あれに優しくしない方がいいぞ。王宮内で誰にも優しくされなかった女は変な誤解をして依存してくる」

「まさか。私が処刑人であるのを知っているのですよ。花姫にそんなことを考えるのは失礼です」

 エレンから見ればあの日アリーシャがシオンに向けた感情は衝撃的であった。他人の目からみればああみえるのかと。1年前にエレンがシオンに向けた怒りの感情に似ていた。

 自分ではどうしようもできないことへのもどかしさ、その上で周りから与えられた悪意。

 この教会に預けられるまでエレンはどれだけの大人に失望したか。
 アリーシャの状況がふと自分と重なっている気がした。アリーシャの場合は行動に問題があるのだが、彼女の生い立ちを最近聞いてわからなくないと感じた。
 せめて王宮がどれだけの悪意に満ちているかだけでも教えてやればよかったのに。

 王宮の外の自分が言うべきことではない。

 ただ心配になったのはアリーシャに善意を向けた少ない男がシオンであった。

「あの女が君に頼ることとなったら困るだろう。君だって忙しいんだ。処刑の仕事や事務処理や、僕の治療とか。そうだ、折角よくなってきたのに、治療を怠られると困る」

「それはありませんよ。花姫が私などを相手にするはずがありません」

 シオンは笑いながら薬の種類の説明をつづけた。エレンはじっとシオンを見つめた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!

音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ 生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界 ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生 一緒に死んだマヤは王女アイルに転生 「また一緒だねミキちゃん♡」 ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差 アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

処理中です...